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二十話 自分の気持ちはわからない



「見つけたぞはぐれ……ぐはっ」


「……はぁ」



 現在、俺と第四王女は国から離れ身を隠している。第四王女は顔を隠しており、俺も一般には顔が広がっている。まず、ここに第四王女がいるとバレることはないだろう。


 だが、それは表の世界での話。やはり裏の世界ともなると、今のように俺の存在に気付いた奴が襲ってくる。


 覚悟していたこととはいえ、面倒だ。ま、襲ってくるのはどれもたいした実力を持っていない。大方、俺を第四王女を殺し名を挙げたい、という小物連中ばかりだろう。現に、どいつも見たことはない。


 裏の世界でも、それなりに顔が広ければ情報として入ってくる。それに、殺気がだだ漏れだ。一流の暗殺者なら、相手に殺気すら気取らせない。幸運なことに、それほどの手合いはまだ現れないが……



「それも時間の問題、か」



 いずれ、その時は来るだろう。もしかしたら、すでに動きがあるのかもしれない。


 今は日が落ちた頃、第四王女や村人が眠りに沈んだ頃に敵襲は来る。暗殺者なんだ、人目につかないよう行動するのは当たり前。だが、それは三流のすることでもある。


 危惧するように、今後一流が現れるとすれば、それは昼夜問わず警戒することになる。今のうちに、また場所を移しておくべきか……



「すー……」


「……このお嬢様は」



 人がいない建物を休息の場所に使っている。周囲には人の気配もない。ここは村の外れだ。


 部屋の中を覗くと、のんきにお休みだ。まったく、俺に啖呵を切った人物を同じとは思えないな。



「ま、それならそれでいいさ」



 このお嬢様の依頼は、自分の身を守ること。そして狙ってきた相手も、殺さないこと。


 だが、今まで殺ししかしてこなかった俺に、それは無理な話だ。生かして帰したところで、こちらの不利益にしかならないだろう。だからこうして、第四王女の知らないうちに刺客を排除する。殺すなと言われたとはいえ、その第四王女の命を守るためだ。文句はないだろう。


 もちろん、これはこれであまりよろしくはない。なんせ『アルクド王国第四王女ティーラ・テル・アルクド及びアルフォード・ランドロンを始末に行ったまま戻ってこない』状態なのだ。返り討ちにあったと考えるのが妥当だ。


 もしも、場所まで特定されてそこに行くと言っていたなら、そこで戻ってこないのだ。俺がその場所にいると教えるようなもの。


 それも踏まえて、そろそろここを移動した方がいいだろう。それに、国内の動きも気になる。第四王女連れていけば足手まといだが、俺一人なら国内に戻るのも容易い。



「……夜が明けたら、場所を移すか」



 またその際に第四王女からギャーギャー言われるだろうが、取り合ってやるつもりはない。俺の任務の優先度はこの女を守ることだ。誰かを殺すのも、そのためだと説明すればいい。もっとも、それをバレるようにするつもりはないが。



「……やっぱり、よくわからないな」



 懐から出した葉巻を咥え、それに火をつける。煙が上がり、口の中にそれが充満していく。息を吐くと煙も吐かれる……が、この良さがわからない。


 そもそも俺がこんなマネをしているのは、デルビート・ロスマンの影響だ。ま、影響っても強要されたわけではなく、俺が勝手にマネをしているだけなんだがな。


 7つの歳でこの殺しの世界に足を踏み入れた俺に、技術を、心構えを、教えてくれたのはロスマンだ。本当の親を知らない俺にとって、彼は育ての親というやつになるのだろうか。彼がいなければ、俺はここでこうしてはいないだろう。


 俺は、ロスマンに憧れていた。少しでも近づこうと、形だけでもマネてみようと始めてみたんだったか。だが、葉巻(これ)の良さはわからなかった。それは昔も今も、変わらない。ただ煙が、うっとうしく口の中や視界を覆うだけ。


 それでも、この行為をやめないのは……



「……」



 今俺がやっているのは、ロスマンへの裏切りとも取れる行為だ。これまで俺を育ててくれた恩を仇で返す……そんな風に取られてもおかしくはない。


 それがわかっていて、なんで俺は……



「……ふぅ」



 口の中の煙を、吐く。煙は夜空にのぼり、そして消えていく。


 自分の気持ちが、自分でわからない。これまでは、ただ任務をこなすだけだった。それが、なんで今回に限って……


 あの第四王女とは、初対面だ。なにか以前に恩があったとか、そのようなことはない。決してあの女になにかを感じたわけではないはずだ。ならば、どうして俺は……



「無駄だ、やめよう」



 答えの出ない問いは、単なる時間の浪費だ。俺は咥えていた葉巻を地面に投げ捨て、火元を足で潰す。ロスマンは、うまいたまらないと言っていたが……うまくも、まずくもない。


 それを昔からわかっていて続けるとは、やはりわからないものだ。自分の気持ちというやつは。



「! そろそろ、夜明けか」



 これからのことなど考えていた間に、夜は明けていく。刺客もバレない場所に隠したし、死体が発見されることはまず考えないでいい。



「んぁあ……おにくぅ……」


「まったく……」



 さて、あとは……この眠り姫が起きたあと、適当に場所を移し……アルクド王国の情勢を確認しに戻るか。


 第四王女の失踪だ、日もまだそんなに経ってはないし、騒ぎの最中にあることは間違いない。それでも、今どうなっているかくらいは確認しないとな。

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