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十九話 いずれは戻る



 ……第四王女を連れ去ったあの日から、数日が経った。城で怒った謎の火事、姿を消した第四王女ティーラ・テル・アルクド。これらの出来事が一夜にして起こったのだ、騒ぎは一瞬として広まった。朝を迎えるころには、国中にも報せが広まることになった。


 警備が厳重な中、何者かが城に侵入し、火を放つ。それに紛れて、第四王女を連れ去る。それが今、噂されている情報だ。


 噂は所詮噂……だが、それは要所要所の点は正確さを捉えている。何者かが城に侵入し、第四王女を連れ去った……正確には、同意の下であるため、連れ去るとは表現が違う。ま、世間から見ればどちらでも同じことか。


 城で起こった火事に関しては、俺は無関係だ。後日こっそり探ったが、発火の原因は魔法によるものではないようだ。俺には、魔法は使えない……なるほど、何者かが、俺が火をつけたと思わせたいための策略か。だが、策略と言うにはお粗末な点が目立つ。


 魔法が原因の発火ではないとはいえ、それが魔法が使えない人間の犯行と断定するのはよほどのバカだ。魔法が使えようと、無実を潔白するためにわざと魔法を使わずに火をつけたのかもしれない。



「……とはいえ、油断はできないか」



 犯人がどこまでを計算に入れていたのかは知らないが、犯人はあの日、あの時間に俺が城へ侵入することを知っていた可能性が高い。では、それは誰か……わからない。俺は、俺の計画は自分の心の内にのみとどめておいた。誰に気付かれることも、ないはずだが。



「……」



 まあ、それを考えるのは後回しだ。あの謎の火事、そして第四王女行方不明に、今国中が必死になって犯人を捜している。


 この状況で、国から出るのは至難だ。一人ならまだしも二人なら……なおさらな。だから、警備が厚くなるより前に、国を出ていた。


 ここは、その国の近隣にある村の一つだ。第四王女であるティーラならともかく、俺は一般的に顔は割れていない。第四王女には顔を隠させているが、俺は素顔を晒したままだ。二人が二人、顔を隠していれば嫌でも目立ってしまう。



「あの、さっきからなにをぶつぶつ言っているんです?」


「……」



 その深刻さが、この女にはわかっているのか。この女の依頼を受けることを決めたのは俺だが、本人にももう少し警戒心を持ってほしいものだ。



「別に、なんでも」


「むぅ、もう何日も経つのに、やっぱりそっけないんですね」



 頬を膨れさせても、別に俺はこの女と仲良くする必要はない。俺自身、あまり話が得意でないことは認めるが。


 第四王女の依頼は、自分の命を守れという者。それはつまり、誰が第四王女を狙っているかを明らかにする必要がある。そのために、混乱が収まった頃にあの国に戻るつもりだ。なので、国から離れる必要はあるものの、そこまで遠出をする必要もない。



「それにしても……たまには、顔を思いっきり出して歩きたいんですけど。ダメですか?」



 闇に生きていた俺なんかには、顔を隠して歩くなどなんということはないが……今まで光の中で生きてきたお姫様にとっては、窮屈であることは想像できる。できるが……



「ダメだ。自分の立場をもっとわきまえて……」


「わかってます。私は、アルクド王国第四王女、ティーラ・テル・アルクド……私がここにいることがわかれば、辺りは大混乱になるだろうことも。貴方にご迷惑をかけてしまうことも」



 ……わかっているなら、いいが。おかしな女だ。自分を殺しに来た男に自分を守るよう依頼し、その上俺のことを案じてさえいる。


 生きていれば、死にたくないというのが人の心というものだ。どんな手を使っても、生き延びる。それが人の性というものだ。そう考えると、第四王女のやり方は人の生き方に叶っている。



「……一つだけ、あんたが公の場でも、顔を大っぴらにして出歩ける方法がある」


「えっ。な、なんですかそれは! そんな素敵な方法が……」


「あんたの顔を、アルクド王国第四王女、ティーラ・テル・アルクドだとわからないくらいに破壊して、その後別人のものに見えるよう作り変える。作り変えるとはいっても、俺はそもそも魔法を使えない。だから初歩的な方法、火属性の魔法で顔を焼き、その後復元魔法で顔の作りを変えるなんてことはできない。だから、荒療治になるが適当に火を付けそれで顔をあぶり、何日か放置して……」


「あ、もういいです」


「うん? なぜだ、顔を焼いたくらいでは人は死なないし、顔の細胞が壊死しないように面倒は見るが……」


「そういうことでなくてですね!?」



 んん、なにを怒っているのか。追っ手を撒くには顔を変えるのが一番。そして顔を変えるなど、一度焼いてから作り直した方が早いだろうに。


 それに、これまで幾人もの人間の顔を焼いてきた。どの程度までなら人間の意識は耐えることができるかに至るまで、熟知している。間違って殺してしまうことはないというのに。殺したら本末転倒だしな。



「よくわからん。なにをそんなに怒っているのか」


「怒ってるのか呆れてるのか自分でもわかりませんよ。それに、そんな言うなら自分でまずやってみてくださいよ」


「む、提案するには実践しろということか。それも一理あるな……俺の顔は一般に割れてはいないだろうが、念のためもある。早速……」


「わぁあ! 冗談、冗談ですから! 実践もだめぇ!」



 せっかく提案してやったのに、うるさい依頼主だ。

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