十七話 脱出
「いいだろう。あんたの依頼、このアルフォード・ランドロンが引き受けた」
その言葉に、嘘偽りはない。嘘偽りである理由もない。俺は剣を収め、今俺を買うと豪語した第四王女にを、見つめた。
その少女は、なぜか間の抜けた顔をしている。
「え、と……い、いいの、ですか?」
「ぁ?」
「いえ……私から申し出たこととはいえ、そんな、あっさりと……」
自分で言っておいて、いざその通りに事が進んだら困惑する……まったく、面白いことだな。
だが、その疑問も当然といえば当然だろう。ま、要求通りになっても危機感があるようでよろしい。流されるだけのバカではないということだ。
「あっさりではないさ。これでもいろいろと考えた結果、あんたの依頼を受けることにしただけだ」
「はあ、そうですか……げほげほ!」
おっと、いけないいけない。部屋にはいつの間にか煙が充満している。窓は開き、第四王女の風属性魔法のおかげでわずかに換気が行われているとはいえ、火の回りが予想以上に早い。このままでは、第四王女が意識を失うのも遠くはない、か。
「まずは、脱出だ」
「え? でもどうやって……きゃあ!?」
どうやって脱出するか……そんなもの、簡単なことだ。目の前の第四王女を担ぎ上げ、窓から外へと飛び出す。
「ちょ、ちょっと!? なんで私、抱えられて……は、恥ずかしいですよ!」
……やれやれ、担ぎ上げただけでギャーギャーとやかましい女だな。あまり暴れないでほしいんだが。
窓へと、近づく。外を見るが……どうやら、外にまで火の手は回っていないようだ。となると、やはり城内のみ……城内の誰かが、火をつけたということか。
「え、なんで窓に……ま、まさかここから飛び降りるつもりですか!?」
「……」
「なにか言ってください! か、考え直しましょう! こんな高いですし、あなた魔法使えませんよね!? それとも、私の風魔法でうまく着地しろと!?」
……うるさいな。耳元で騒ぐんじゃない。魔力が俺にはないことを見抜いて、いっそう心配になったようだ。
ここから地面に対して、高さはざっと14、5メートル。お城で大切に育てられた御嬢様にとっては、少し刺激が強いかな。
「なにもしなくていい。むしろなにか変なことをしてみろ、着地に失敗して死ぬぞ」
「っ……やっぱり飛び降りるんだ」
俺の言葉に、観念したように第四王女はうなだれる。代わりに、俺にしっかりと掴まるのは……まあ悪くない判断だ。落下中、振り払われる心配は減ったな。
多少脅しておいたし、余計なこともしないだろう。さて……
「しっかり口を閉じろ。舌を噛むぞ」
「……!」
直後、部屋の中から窓を飛び越え、外へと飛び出す。重力に従い、俺は第四王女を抱えたまま落下していく。
来た時のように、向こうの屋根へと飛び移る手段もあったが……この第四王女にあまり負担を与えることは好ましくない。すでに煙を多く吸っているのだ、向こうまで飛ぶよりは落下の方が衝撃が少ないだろう。
本来なら悲鳴でも上げかねない。が、第四王女は言いつけ通りしっかりと口を閉じている。そのまま、彼女を離さぬようにしっかりと抱え……静かに、着地する。
「もういいぞ、降りた」
「……?」
着地し、その場に第四王女を下ろす。が、足が震えているのか俺に掴まったままだ。
「あ、あ、あんなところから、お、お、落ち……それに、こんな、静かに……?」
「あの程度の高さなら、落ちる衝撃を殺して着地する方法なんて、いくらでもある」
第四王女が、信じられないといわんばかりの表情で俺を見ている。なんだ、その目は。
これくらい、普通だと思うのだが……
「あんな高さから、落ちて平気なだけじゃなく……人一人、抱えたまま? しかも、さっきまであの部屋で火に囲まれていた体で……? な、何者なんですか貴方……」
「知っているんだろう、殺し屋だ。それよりも、行くぞ」
「へ?」
幸運と見るべきか、警備はいない。城内で発生した火事に、かかりきりになっているというわけだろう。今なら、城の外に脱出することも難しくない。




