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十六話 その出会いは……



「俺は、これでも自分の仕事にプライドがあってね。金を積まれて、はいそうですかと乗り換えるほど尻軽じゃない」



 生への執着……14、5の少女の、強い意思を見た。しかし、だからといってすんなりと、依頼を破棄、加えて乗り換えるわけにもいかない。


 俺にも一応、暗殺者としてのプライドがある。



「でしょうね……それに、おそらく私を殺そうとしている人は、私が出せるお金よりも、もっと多額のお金を提示していることでしょう」



 ほぉ、そこまでわかっているか。……そう、いくら王位継承権を持つ人物とはいえ、自分が自由に扱える金は多くはあるまい。いや、普通に考えればそれは、一般人には手が出ないほどの巨額の富であることに違いはない。


 それでも、自分では依頼主の金を上回る金額は出せないという。"第四王女"であるこの女に、金の提示では上回れないと言わしめる……そんなことができる人物は、限られている。


 そしてこの女は、それが誰か……俺の依頼主が誰かを、理解している。まあ、王女を殺せ、と指示する時点で、それが誰であるかを推測するのは,そんなに難しくはないだろう。



「……信じたくは、ありませんが」



 予測しても、それが事実とは信じたくはないだろう。……自分を殺そうとしている人物が、身内にいる可能性など。王位継承権を持つ、六人の姉妹……その中の、自分を除いた五人の誰か。


 彼女の中ではおそらく、その考えで固まっているはずだ。そしてそれは、おそらく当たっている。


 ……俺は、権力者が嫌いだ。金があるから自分は偉いと勘違いしている、肥えた豚ども。金を積めばなんでも思い通りになると思っている。そして、残念ながらそれは正しい。金さえあれば、自分を中心に世界を回すことだってできる。


 殺しのほとんどの対象は、そういった豚どもだ。金持ちが、目障りな金持ちを殺す。そもそも、暗殺者を雇うなんて、並大抵の財政でできることじゃない。


 ……今回依頼を受けたこの王女は、金にものを言わせたどんな身勝手な女かと思ってみれば……


 この世界で、こんなまっすぐな目を見ることになるとはな。身勝手なのは、依頼をした人物の方だけだったというわけか。



「……ふ」



 自然と、笑みがこぼれた。


 俺は権力者が嫌いだ。金にものを言わせる豚ども。なのに、俺も金の内容によっては、権力者のいいなりになって仕事をこなす。自分だって、金のことばかりなことに変わりはない。


 だから、この少女の目が……よけいに、まっすぐなものに見えた。



「……俺を買う、か。なんのために?」



 誰かを殺してくれ、という依頼は、これまで何百と受けてきた。それこそが、俺の仕事……いや生きる術だ。だというのに……



「私は、貴方を買って……そして依頼します。私を、私の命を狙う者たちから、守ってください」



 誰かを殺せではなく、私を守れなんて……初めての、依頼だ。


 俺の中に、これまで感じたことのない熱いものが生まれるのを、感じていた。



「……ふ」



 ……命を狙う連中から、自分を守れと……よりによって、俺に依頼するのか。俺も、そのうちの一人……あんたの命を狙って来た、一人だというのに。


 ただの命乞い、ではない。わかる。これまで何人の命乞いを見てきたか。その命乞いは本気ゆえに、(みにく)いものばかりだった。


 この少女は本気だ、本気で命乞いをしている、のではない。本気で俺に自分を守れと……俺を買うと……


 ……面白い。



「……いいだろう。あんたの依頼、このアルフォード・ランドロンが引き受けた」



 彼女の瞳に映る俺は、笑っていた。なんと愉快で……面白い、少女だろうか。俺の見ていた景色が、変わっていく……そんな予感を、感じさせた。


 誰かを殺せではなく、誰かを守れなんて……

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