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十三話 爆発



 部屋の外から起こった爆発。それは、扉を閉めている程度で留められるはずもなく……扉を割って、爆発の衝撃が部屋の中へと流れ込んでくる。


 ゆえに、爆炎が周囲を包み込む。一人用の部屋だがそれなりに部屋だ。とはいえ、外から流れ込む衝撃の勢いも含め、部屋の中もあっという間に危険な地へと変化する。



「きゃっ! な、なに!?」



 まさか、俺は嵌められたのか……その疑念は、すぐに解消される。


 この部屋に誰かが、それも窓から来ることを知っていた第四王女。誰に事前に聞いていたのかは知らないが、ここに侵入者が来るならば、備えて罠を仕掛けることくらいは考えられる。


 この爆発が、その罠だというのなら事は簡単だ。しかし、今の第四王女の反応……この爆発を仕掛けたのは、第四王女ではない?


 部屋を犠牲にしてしまうとはいえ、侵入者を確実に仕留めるためにはやりすぎとはいえない。必要な犠牲として、割り切る覚悟さえあれば。


 しかし今の第四王女の反応は、割り切る以前の問題だ。爆発の件を、知らなかった……わかりやすい、確実に彼女ではないとわかる反応だった。


 ……それでも、俺が誰かに『嵌められた』ことに変わりはない。第四王女ではなく、別の誰かに。



「……!」



 辺りを埋め尽くすほどの、燃え盛る炎。ベッドは燃え、壁は焦げ、煙が充満する。扉が割れた向こうに見えるのは、炎に包まれた廊下だ。あそこを突っ切って、かつこの状況で誰にも遭遇せずに逃げるのは無理だ。


 ならばやはり、出口は背後の窓しかない。ないが……俺が嵌められたとして、その人物はこのまま見ているだけだろうか。


 出口は、窓のみ。ならば窓から俺が脱出したときを狙い、俺の命を狙ってくるはず。あの爆発で仕留めるつもりだったのかは知らないが、現に俺は生きている。生きていることを仮定するなら、逃げ場で待ち構えるのは必然だ。


 この爆発は、第四王女を巻き込んでも俺を始末しようとしたものだ。確実に仕留めるためならば、どんな手段だって使うということか。



「けほっ、けほ!」



 ……温室育ちのお嬢様に、この空間はキツいだろうな。窓は開いているから煙が部屋を埋め尽くすことはないだろう。だが火の勢いが強いのは変わらない。


 この部屋は、一人用の部屋にしては広い方だ。さすが王女様だ。この広さが、煙や熱気が密集しない条件を整えている。無論、このままここにいて無事に済むはずもないが。



「ぐっ、げほ! っかは……」



 膝をつき、崩れ落ちる第四王女。部屋の入り口、つまり扉の近くにいたのは彼女だ。廊下から流れ込む煙を吸う量は俺よりも彼女の方が多く、なにより扉が爆発で吹っ飛んだ際、破片が体にぶつかったかもしれない。


 ……見捨ててしまえ。どうせ、依頼で殺す予定の女だ。俺が手を下さなくても、そのうち死ぬ。あの女が一人で抜け出す力は、すでにないだろう。


 魔法を使うには、相応の集中力が必要だと聞いた。上級者になれば、それも少ない負担で済むのだが……調べた限り、第四王女はそこまでの使い手ではない。しかも、すでに煙を吸ってしまい、集中力を乱すどころか命すら危うい。


 こうなると、魔法使いってのも脆いもんだ。



「げほっ……くっ、風よ……吹いて……!」



 しかし、俺の見立ては正しくなかったと、直後に否定されることになる。


 苦しむ彼女は、それでも何事か呟き……彼女を中心として、風が舞い上がる。風邪といっても、突風などという強大なものではない。吹けば紙が飛ぶ……その程度だ。


 だが、それであってもないよりはマシだ。彼女は口を押さえているが、周辺には煙で息もつらいところ。だから、まずは呼吸をしやすくするために、風の流れを操作した。


 彼女は二属性(セグン)使いで、その属性は火と風。火は当たり前だがこの状況で使えるはずもない。水属性を使えれば早かったのだろうが、ないものねだりをしても仕方がない。あるいは、第四王女に水属性の魔法が使えないと知った上での、行いだったか。


 とにかく、そうなれば使える選択肢は一つだ。火事の死因の一番の原因は、一酸化炭素中毒によるもの……煙を多く吸ってしまうとか、そういうことだ。風魔法は、その危険を遠ざけることが出来る。


 新鮮な酸素を呼うため、そして風の流れを操れば、火の流れをも操作することが可能だ。そこまで計算しているかはわからないが……彼女はどうやら、少し楽になってようだ。膝をついていたが、立ち上がる。


 その目から……まだ光は、失われてはいない。

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