十二話 出会い
……一人の少女と目が合った。
「……誰?」
しばしの沈黙の後、その場に鈴の音のような凛とした声が発せられる。それは当然、俺のものではない。
まるで宝石でも埋め込んであるかのような赤い輝きを見せる瞳、腰まで届く銀色の髪……夜間であっても一目で美しいと感じられる少女、ティーラ・テル・アルクド。俺の殺しの標的だ。
ここは彼女の部屋だ、彼女がいることに驚きはない。だが、俺の調べでは彼女はすでに就寝しているはず……その際、窓も閉めるはずだ。なのに今は窓が開けっぱなし、しかも彼女は起きて俺を見ている。
まるで……『俺がここに来ること』をわかっていたかのように。それも、扉からではなく窓から。
同時に、疑問も生まれる。彼女は俺を「誰?」と言った。それはつまり、ここに来たのが誰であるかの判断はできていないということだ。それがなにを示すのか……すぐに答えは出そうもない。
ともかく、今は……
「……わざわざ答えるつもりはない」
予想外の出来事に混乱することでなく、必要なのは冷静な対処。幸い、彼女は叫ぶなどといった反応は見られない。
もっとも、彼女がこの時間、この部屋に侵入者が現れるとしっていた以上……部屋の外に警備の人間が待機している可能性はある。もし戦闘なんて展開になれば、分が悪い。退路は今来た窓しかないが……
ただ逃げるだけなら、手段はいくらでもある。だが、そうなると少なくとも今夜中の依頼は失敗ってことになる。それはあまり、好ましくない展開だ。
相手は無防備、武器などは見受けられない。寝巻きのみの状態……第四王女が武術に長けているという情報もない。目撃されたのは予想外のミスだが、ここで始末してしまえばそのミスもチャラにできる。
まずは喉を裂き、声を出せない状態にしてから命を絶つか……第四王女が変な動きをしないか、観察も怠ることはない。少しでも動きを見せれば……
「あの……」
「!」
「あ、ごめんなさい。その、なにも変なことはしませんから。私の話を、聞いてください」
……なんだ、この女は?
部屋への侵入者、それだけでも狼狽えるには充分な要素だ。しかもその相手は、夜中に窓から侵入している。明らかに異常だ。
だというのに、この第四王女は、慌てるどころか冷静に、俺に話を聞いてくれという。肝が座っている……どころの問題じゃない。あらかじめ侵入者が来ることがわかっていたような素振りといい、どうなっている?
「貴方……私の、命を狙って、来たんですよね?」
「!」
話していいと言っていないのに、勝手に話し始めた……が、そんなことが気にならないくらいに、その言葉の内容は驚くべきものだった。
侵入者の正体を、察している? どういうことだ……部屋に俺が来ることがわかっていたらしいことといい、どこかから情報が漏れた?
漏れたとして、どこから……? 今までそんなミスはなかったはずだ。それとも、情報が漏れたのではなく、誰かが流した、のだとしたら……?
「なにも言わないということは、そうなんですね」
……なんで知っているかは、後回しだ。情報が漏れようが漏れまいが、この女を殺せば終わることなのだから。
懐に忍ばせた短剣に手を添え、第四王女の喉元へと狙いを定める。一瞬のうちに終わらせる……その場に踏み込んだ、瞬間……
……部屋の外から起こった衝撃により、辺りが爆炎に包まれた。