九話 俺のやり方
ひとまず、今回の仕事の概要と城の地図は、頭に入れた。あとは、時期を見計らうだけだ。
基本、警備は一日決まった時間を交代制で配置される。警備がまったくいなくなる瞬間は、ないということだ。だから警備の隙をつくのは、姿でも消さない限り単純に考えて無理な話。
こちらに利点があるとすれば、魔力を持たないから探知されないという点。暗殺者の心得として、目立たないこと、標的に気付かれないことが必須……いや前提とも言える。
これまでの標的は、たとえば町人に成り済ましてすれ違い様に殺害……たとえば家に侵入し罠を仕掛けておく……たとえば……と、標的の人柄、地位などにより暗殺の方法を変える。
王女ともなれば、一筋縄ではいかない。王女をどこで殺害するか、外は目立ちすぎるから城内か、ならばどうやって城内に侵入するのか、王女がいつも城内にいる時間帯はいつか……これらを、調べ一番のタイミングを見つける。
情報は手に入れたが、それで完璧というわけではない。それに、資料の情報は完璧だ……それとは別に、俺は自分で調べないと気がすまない質だ。
「……でかい城だな」
翌日、俺は城へと足を進めた。城といっても、なにも門の真正面に立つわけではない。少し離れたところから、確認しているだけだ。
城……だけでなく、門もでかい。もちろん、あんなでかい人間はいない……見栄というやつだろうか。
でかい門の左隣には、普通の人間サイズの扉もある。あそこから警備が出入りしているあたり、普段あのでかい門は使われないようだな。おそらく王族が出入りするときに、開閉するものだろう。
正面から侵入するのは合理的ではないか……兵を飛び越えようにも、崖のように凹凸がない。よじ登るのが難しい以上、時間がかかる。時間をかけては、いられない。
後で裏口から、隙のある場所を見つけるか……なければ最悪、警備に成り済ますという手もある。
「……ん?」
ここでじっと観察していても仕方ない。ので移動しようと考えたところへ……あの巨大な門が、音をたててゆっくりと開いていく。あの門が開いたということは……
門の向こう側から、馬車が歩いてくる。馬車とは、人を乗せたり荷物を運搬し、馬などに引かせる車だ。二頭の馬が引くのは、おそらく王族を乗せた……
「……あれか」
車に乗っていた人物は、自ら窓を開け、国民へと手を振っている。眩しいほどの笑顔は、よほど国民から好感を買っているのだろう、歓声がすごい。
銀色に流れる髪、宝石のように赤く輝く瞳……間違いない。今回の標的、このアルクド王国の第四王女であるティーラ・テル・アルクドだ。まさか、こんなタイミングよく姿を直接見ることができるとは……
無防備に、窓を開けて。馬車の周り、そして第四王女の隣の席に警備の人間はいるが……もしもここから、狙撃をすれば……簡単に、命を奪えるのではないか。
思わずそんな考えがよぎるが、落ち着け……仮にそれが可能だとして、さすがに今はまずいだろう。明るいし、人の目もある。なにより準備がまだ万全ではない。
暗殺者たるもの、いついかなるときも準備は欠かしていない。その自負はある。が、今回は相手が相手だ。ここで衝動的に殺して、その後ちゃんと逃げ切れるのか。その確証がなければ……
……いや、逃げ切るという考えがもうダメだ。逃げ切るまでもない、誰にも気づかれないほどの完璧な暗殺。それこそが理想であり、俺のやり方だ。
遠ざかっていく馬車を見送りつつ、頭の中では暗殺の方法を考えていく。やはり、結構は夜……城への侵入、第四王女の滞在のタイミング、それらを調べる必要があるな。




