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63. お帰りなさい♡



 メスガキ、パトリツィア・デル・フィオーレが(よう)する権能は、最弱。


 それ、そのものでは他者に干渉する術を持たない、気配操作の奔流。


 しかし。


 道具とは、どれほど万能であっても、道具でしかない。

 能力そのものが、彼我の運命を決定づけるのではない。


 まるで万能ではない能力(タレント)だったからこそ、パティちゃんは、その使い方を正確に把握できたのかもしれない。


「ジェストさまぁ♡ ボク、気付いちゃったんです♡」

「何を、かな? レディー?」

「それはね――」

 

 ――最弱の権能が、森羅万象に干渉できるなら、こんなことも、出来て当然でしょ♡♡


「それに、」


 ボクは、ボクの気配を薄めることも出来たんだ。


 だから。


 増やせないハズが、ないじゃない??


「パティお嬢さまだらけ、ですか。」

「そ♡ どれが本物でしょー?」


 あはは♡


「ねえねえジェストさまぁ♡」「気配を分けたボクたちは、どれもがボクで、そしてどれも本物じゃないの♡」「だから、」「「ジェストさまがどれほど(あざむ)いたって、」どこまでもボクから離れられないの♡」ねえねえ「それってすごくない?? 「ジェストさま、勝てないんです♡」」


 ねえねえ♡


「どんな気持ち?」


 絶望します?


「なるほど。」


 とかなんとか、カッコつけちゃってもぉ♡♡

 カッコイイんだからぁ♡


 だけど、だーめ♡


 死んじゃうよ??


「その程度では、私には脅威ですら、ありませんよ? レディー?」


 え?


「それを今からご覧に入れましょうか。……そう、パティお嬢さま。」

「はいっ♡」


「動くなよ?」


 ひゃいっ♡♡


 って、あっあっあっあっ♡♡


 近い近い近づいてきてるからまたアゴクイされちゃう感じですかジェストさまぁ♡♡


 どうするの? どうされちゃうの♡


 ひとりのボクに近づいたって、他にもボクはいるんですよ??


 あーもうっ♡


 近いのっ♡


「――掴まえた。」





 はい! さっきまで乗っ取られてた朝倉 ぷらすですが、ここからまた選手交代で行きたいと思います!


 現在パティちゃんは、ジェストさんに腕を掴まれて、そして分身的な感じのアレが全部消えちゃってますね。


「あ……れ??」

「ふふ、無防備で無邪気な花だ。」

「えっ……すごい♡ どうして掴まれているの??」

「それはね……、」


 ジェストが、昼夜の眷属、幻想を現実に引きずり降ろす能力を持った一族の末席を汚しているからさ。


 さっきだって、昼夜の化身に同じことをされていたのに、忘れるとか無用心なパティちゃんだ。


 まあ、昼夜の化身は光る(かすみ)とかいう、思いっ切り超常現象な姿で、ジェストさまは人の形をしているし、結び付けづらいかったから、ね?


「――というわけですよ、お嬢さん。」




「――はいっ♡ 知ってますよ??」




 ぴと。




「あがっ!」




 それは、魔女の毒と呼ばれる魔女魔術(ウィッチクラフト)のひとつだった。



 パティちゃんが欲したのは、触れた者の感度を3,000倍にするという、呪い。


 しかし。


 それは、戦闘において、意表を突く搦手として、非常に、非情なまでに有効だった。


 当然、ジェストのように明確に人の形を取っているものには、効き過ぎるくらいだった。


 それでも倒れないのは、さすがジェストと言うべきか。


「ねえねえ、どんな気持ち??♡♡」

「パティ、を、食べてしまいたいよ。」

「どうぞ♡」


 と差し出された唇。


 閉じられた(まぶた)


 キスのおねだり。


「くっ。」


 欲望に、抗えない。


 ジェストの眼下、パティちゃんの下腹部の淫紋が、淫らに脈動している。仄暗く光る、その照り返しが、パティちゃんの顔の輪郭を際立たせて、本能を揺さぶる官能を呼び起こすのだ。


 ジェストは、吸い付くしかなかった。


「んふっ♡」


 だからね?


 ずりゅっ♡


「ちゅぱ――ぷはっ♡」



 ジェストはパティちゃんに、吸い込まれてしまったのだ。



 良いかい?



 森羅万象に干渉できるようになったパティちゃんが、ジェストの存在に干渉できないワケ、ないじゃないか。


 お手本は、幾万の恋人を閉じ込めた、妙齢の魔女さまの瞳。それを、パティちゃんなりにマネたんだ。


 知っているかい?


 『胎内(ただいま/)回帰(お帰りなさい)』を。それと対をなす性癖、『推しを(行ってきます/)産みたい(行ってらっしゃい)』を。


 わかるね?


 ジェストは、パティちゃんという檻の中に閉じ込められたのだ。


 きっかけは、邪龍を支配下においた経験だ。


 淫紋を通じてジェストをいつだって呼び出せる。


 それでも、きっとパティちゃんは、お腹を痛めてジェストを産む選択をするだろう。


 そして、ハメ〇メしてもらって、『お帰りなさい』するのだろう。


 すべては。


 実存を欺くジェストの実体を、確実に触れるための、パティちゃんの罠だったのだ。


 さすが暗殺者(アサシン)は、やることがちがうね。


 そんなパティちゃんは、うっとりと熱の(こも)った下腹部を撫でているんだ。



「ジェストさまぁ♡♡ いつまでも、一緒にいましょうね♡♡ うふふ♡」




   *** ***




 さて、ここからは少し、蛇足になるね。


 パティちゃんはジェストを掴まえて、念願の爛れた生活を始めたんだ。でも浮気性なジェストだから、逃げ出しちゃう。


 そんなジェストを捕まえて、逆にパティちゃん自身を責め立てさせるというプレイ。


 それはそれは甘美なのだという。


 そして、ジェストには浮気を許さないくせに、パティちゃんはまたイケメンを掴まえに世界中をフラフラと回っているらしい。具体的には、パティちゃんの気配が探しているらしい。


 配下の者はどうしたか。


 まず廃エロフだけど、循環の結晶さまと会うという目的も達成して、パティちゃんの奴隷からも解放されて、森へ帰されたんだ。だけど、どういうわけか、今でもパティちゃんのマッサージ師としてエロいことをしているよ。


 性女もついでに奴隷から解放されて、だけど、パティちゃんとジェストの二人から責め立てられる毎日を送っているよ。


 豚畜生は、いつだって部屋の隅で正座しながらそれを眺めている。



 そんな毎日だ。



 あ、そうそう。




 パティちゃんの初めては、ジェストを産んだときに無くなった、ってカウントしたらいいのかな?










~Fin~


ここまでお読みいただき、ありがとうございましたっ><

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変トチ狂った面白い作品でした。 狂い具合が半端じゃないです。 作者さんの頭の中覗きたいわぁ あと、感度3000倍の指が最高に好きです。 楽しいお話ありがとうございました! [一言]…
[一言] いやぁ〜レベル高いっすわぁ〜。 そしてこのエンド。 色々と圧倒されまくりでした。
[良い点] うむ。 [気になる点] うむ。 [一言] おっつぅ〜!
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