6. はあっ!? 負けてなければ勝利でしょ!?
(マズイマズイマズイマズイマズイ!)
パティちゃん、大絶賛混乱中!
背中を預けた木の幹が頼りなく感じちゃう感じ。
鹿っぽい何かが踊り食いで楽しまれちゃってるスプラッタシーンを見たくなくて、耳を手で塞いで、しゃがみ込んじゃう。
関係ないけど、しゃがんだことで汚ぱんちゅ晒しちゃってるのは、指摘しないであげてくれたまえよ? 本人は必死なんだから。女神と一緒じゃんって嘲笑しないでくれたまえよ? ここは私と一緒に、濡れた布が張り付いた□リ〇〇の鑑賞を、だね。
ふむ。
そんな場合じゃなかったね。
可愛いお手々で、お耳を塞いで可哀相な状況になってるんだった。
「ギピっ――ギャアあああああ……っっ。」
やっぱり、聞こえちゃう。
バリボリと、骨が砕ける音がして、絶叫が消えていく。
お食事中の蜘蛛さんは大満足だ。
(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。)
カチカチカチカチカチカチ。
歯を震わせながら、希望的観測で恐怖を押し出したい。
心臓から吹き出るような不安の悪寒が気持ち悪くて、顔が青い。
だけどさ。
におい、音、そして気配。
これでバレない要素がドコにあるの? って感じじゃない。
唯一。
目視されてないから、正確な位置が特定されていないだけ。
たったそれだけの差でしか、ないんだ。
パキッ。
「――――っっ!?」
小枝が、折れた音だった。
蜘蛛が、こっちの岸にやってきた音だった。
パキ。
ジャリッジャリッ。
蜘蛛が、確かな質量を持っていることを主張する音。
それが徐々に近づいてきている。
パティを探している。
豊満なおっぱいの奥で、心臓は煩いくらいに拍動を早める。
(ウソだウソだウソだこれは夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ!)
その願いは、届かない。
(目、覚めろよ朝だろきっとそうなんだバカ! 何でなんだよ何だよゲームのイベントかよ、ああそうかきっとこれはゲームのイベントだな怖がらせやがって!)
パキッ。
「――っっ!!」
現実だった。
(あははははははははは! ボクは!)
どうしようもないほど、現実だった。
(こんなところで! 死ぬのか!?)
死ぬだろうね。
何もせず、手を拱いていれば。
(嫌だ、ヤだヤだヤだヤだヤだヤだ! そうだよ。なんで気がつかなかったんだ! ボクは、死にたくないから、このボクはボクじゃなくて、ボクは、そう!)
歯の震えが、止まっていた。
逆境に『メスガキ』は強い。
(ボクは――木だ! ああ、なんで気がつかなかったんだ! ボクは木だ!)
バネ仕掛けの人形のように、顔を跳ね上げた。
泣き腫らしたように目は充血して、四白眼になるほど開かれていた。
しかして虚ろ。ハイライトの消えた眼。
やーんパティちゃん闇堕ち確定~☆
(あはははは! 木だよ。ボクは木なんだよ。だから、蜘蛛の目には映らないんだ!)
見当外れの責任転嫁。
(ボクは木だ。ボクは木だ。ボクは木だ。ボクは木だ。ボクは木だ。ボクは木だ。ボクは木だ。ボクは木だ。)
しかし、それこそが引き金だった。
カチリ、と運命の歯車が噛み合う。
(ボクは木だ!)
最弱。
それを己が概念とする、化身がいた。
最弱の化身。この世を構築する神々の微睡みの一角。深海に潜み、極めて臆病であり、姿を見た者は、ほとんどいないという。
その、最弱の権能に『気配操作』があった。
一説には、最弱の化身は盲目であったという。最弱の化身は、気配を操作して、周囲を観ていたという。
ザクッ。
蜘蛛の脚が、パティの頭上に見えた。
木が、貫かれていた。
「!?!?!?!?」
ザクッ。
今度は近くの木に穴が開いた。
ザクッ。
反対側の、木だ。
ザクザクザクザク。
どれもこれも、パティの近くの木、だった。
(なんだなんだなんだなんだ!!??)
蜘蛛の脚は、巧妙にパティを避けて、木々に穴を空けていた。
そう。
これこそが、『気配操作』の基本、気配の入れ替えだった。
蜘蛛は、ただ、パティの気配を濃く感じる木を、穿っていただけだった。それは強者の余裕だった。
そして、いつしか苛立ちに変わる。蜘蛛は、いくら貫こうとも消えない気配が不愉快だった。
だから、辺り一帯をまとめて薙いだ。木々が、大人の腰ほどの高さで綺麗に切り飛ばされた。
しかし、何も無かった。
ゆえに、興味を失ったのだろう。蜘蛛は不愉快を隠そうともせず、向こう岸へ渡って行った。
パティは、ロリゆえに小さくて、生き残ったのだった。
これを、パティは勝利と捉えた。生存を、勝ち得たと捉えた。
~to be continued~
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