58. ごめんなさい♡ ジェストさまぁ♡
最近、特殊性癖減ったなあって、思いません?
「いえ、もしくはあえてこう言いましょうか?」
神代では、運命が支配する。だから、ああ、私程度の力では、どうすることもできないのです。
聞いてもないのにジェストさんも、話し始めちゃう。
「……伯父上。」
さて、置いていかれたパティちゃんだけど、ジェストが出てきてから、お目々が♡だ。
そう、唯一の男は複数いてもいいって、前に言ったよね?
そういうこと。
「貴様、何しにきた。」
「さすがに、パティお嬢さまをこれ以上巻き込むことも出来ないでしょう?」
そして、ジェストは真実を明かしはじめる。
ジェストが外の王を狙ったのは、貪食の豚どもの作戦ではなかった。
昼夜の化身が、魔王の玉座を狙う作戦のひとつだったのだ。
筋書きはこうだ。
貪食の化身と卑近の化身が反乱を起こす。破壊と破滅の化身がぶつかる隙を突いて、背後から刺し殺す。
しかし、反乱軍の勢いは、魔王を援護する人の軍勢に削がれてしまった。
それをどうにかしたかった。
「だから、伯父上は混ぜ者の私に、豚と接触させて、外へ介入することを指示したのでしょう?」
外のダルタロイ王の暗殺。その成否は、どちらでも良かったのだ。
成功すれば、神代の拡大による混乱を呼び込める。
しかし、失敗すれば、外からの介入を期待できる。
成功して、反乱軍を勢い付かせるも良し、失敗して、反乱軍の悪巧みをいち早く糾弾した者として、発言力を高めるのも良し、という作戦だった。
しかし、誤算があった。
遣ってきたのが、パティちゃんみたいなワケのわからないメスガキが一輪だけだったのだ。
軍団規模の介入でないため、趨勢を占うほどではなく、さりとて無視も出来ない。
なぜならば。
外からの情報という情報が、何も伝わってこなかったからだ。ジェストを問い詰めても、暗殺の失敗を告げられるのみだった。
そう、暗殺は成功しても失敗しても良かったのだ。
それで何かが動けば良かったのだ。
だのに、何も起こらなかったのだ。
それは暗殺の成否に関わらず、その行動そのものの失敗を意味して、さらにマズイことに、すべてを知りうるだろう存在が、宰相たる智謀の化身や魔王に謁見しようと向かってきているのだ。
策士であるなら。
その遣いの者に問い質さねばなるまい。
しかし。
その遣いは、神代に数人で渡れるほどには強かった。
嗜虐と被虐の眷属を屠り、反乱軍を掻き回すほどにはしぶとかった。
そうして徐々に近付くパティちゃんのことが、どれほど危うい存在に見えたことだろう。
ゆえに。
貪食の眷属2位に堕ちて道中半ばで果てたハズの、絶好の機会を自ら捨ててしまったのだ。
魔王と貪欲の化身をぶつける間に、魔王城へ連れてきて自ら屠ろうと、嗜虐と被虐の化身を遣わせてしまった。
それが、昼夜の化身の失策だった。
「……それよりも、パティお嬢さま。」
「はい♡ ジェストさまぁ♡♡」
気障ったらしい道化師が、パティの顎に指をかけて、見上げさせた。
「私が向かえない間に、勝手に窮地に陥って、あまつさえ、一度は堕ちてしまうとは何事ですか?」
実は、ジェストもまた、パティちゃんとの繋がりから、その様子を察していたのだ。
ただ、今の今まで昼夜の化身自らの監視が厳しく、抜け出せなかったのだ。
「えっ♡ あっ♡ あっ♡ ごめんなさいっ♡♡」
「次は、許しませんよ?」
「はぁいっ♡♡ じゃあボクを、もっと縛って? ね♡」
「よろしい。」
「あはっ♡」
そして、ジェストは頤に宛てた指を外して、やはり気障ったらしい所作で振り返る。
パティちゃんは、指があたっていたところを撫でるとか、メッチャ乙女。
「さて。」
どこからか取り出していたステッキで床を突いて、場の視線を支配する。
「私では伯父上に敵いませんから、助っ人を呼んでいるのです。」
「なに?」
パキリ、と音がした。
それは、氷の結晶だった。
切れるほど凍てついて、気配が割れた。
そして水は廻り廻るのだ。
其は、循環の化身。『閉じたる環』の片割れ。
豊饒と輪廻、季節や宿命、すべての循環するものを束ねる女神。
落ち着いて、ワガママで、お淑やかで、お転婆な化身。
其は、循環の化身。最強の、氷山の一角。
「ごきげんよう。ジェストくんが、来たら面白いよ、なんて言うから来ちゃいました。」
それが、魔王の王妃殿下、循環の結晶さまだった。
~to be continued~





