53. 死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ何で何でナンデなんで死なないのオカシイでしょ死なないといけないのにあああああああああああああっ!! 死ねよアハハ死ねよキャハハハ!!
その絶望を一言で表すならば、喪失感だった。
「なんで、なんでなんでなんでなんであははははははははははははははは。キャハハハハハハハハハハ!」
心臓を引き抜かれて、二度と温かさを知ることなど叶わないだろうと確信させる空虚。
「キャハハハハハ! アハハハハハ!」
ゆえに。
その膨大な虚空を埋める何かが必要だった。
何もなければ、人の形を保てないと思った。
しかし。
(ああーそっかぁー。)
それは、些細な気づきだった。
(なんで、ボクは人の形なんて、どうでも良いことに拘ってるんだろう。)
ゆえに。
高嶺の花の女王は、怒りに狂った。
ところでさ、七つの大罪って知ってる?
そう、今ではカトリック的なアレで知られるアレのこと。
高慢、強欲、嫉妬、忿怒、淫乱、貪食、怠惰。
それで例えるならば。
元々、パティちゃんはメスガキだ。高慢で強欲で、そして淫乱だ。
しかし、逆境がパティちゃんをヤンデレにした。その本質は、嫉妬と怠惰だ。知らないと思うけど、怠惰って、悲嘆に暮れるだけのような、前を向かないことも含むんだ。
それは、一途のような盲目を含むんだ。
パティちゃんは、自身の最期を貪るハズだった貪食の眷属2位を失った。パティちゃんの身勝手な劣情を昇華するハズだったのだ。
それは、自己崩壊という、究極の貪食の機会だった。
それを失ったのだ。
そして。
パティちゃんは忿怒で虚空を塗り尽くした。
怒り方は、知っていた。
身体に纏わり付いた絶望の欠片が知っていた。
そう。
パティちゃんは、人であることを辞めたんだ。
「死ねよ。」
そうして、パティちゃんは気配になって溶けたんだ。
「あれ?」
「なに?」
揺らめいて歪んだ空虚から堕ちる黒い花びら。
嗜虐と被虐の化身は、バラバラになっていた。
それは黒とピンクの花弁が舞ったような錯覚。
つまり。
黒と紅の花の女王は、誰もが知覚する以前から、一歩たりとも動いていなかった。
すべては錯覚。
動かずして、森羅万象に干渉する、最弱の権能。
その化身は、深海に潜む臆病な者であるという。
しかしこの世には、それより動かず、そして、それよりも紛れることに熟達した者が存在する。
泰然自若に見えるそれは、植物だ。
そして、その女王は花である。
その花たちの女王が、高嶺の花の女王という黒く毒々しいピンクの花弁を持つ花である。
その姿は、人そのものである。
先と、何も変わらぬ形である。
しかし、存在は決裂していた。
真に、花の女王に成り果てた。
一輪の黒い牡丹。
それが、高嶺の花の女王の奥底に根付いた。
パティちゃんは、一輪の黒い牡丹として、最弱の奔流の最奥に触れたのだ。
しかし。
「すごーい!」
「気付かなかったわ。」
相手もまた、化身なのだ。
ビスクドールのごとく、バラバラにされて殺せる弱者ではない。
一対で自己完結する、嗜虐と被虐の享楽の異常者だ。
残骸にされて哄笑を上げるところからが、愉悦の始まりだと常識を説いてくる超常の化け物だ。
まるで、操り人形のように、バラバラになったパーツが宙吊りになって、そして組み上がっていく。
そして。
パチン。
と指を鳴らして雷鳴ひとつで、パティは射抜かれた。
だけれども。
その雷は、パティの輪郭を揺らめかせて、その後ろの壁にアッチまで風穴を開けだけ。
「ねえ、なんで死んでないのバラバラにしたじゃんオカシクない?? なんで? なんでなんで?? はあっ!?」
一輪の黒い牡丹となったパティちゃんもまた、超常の化け物になってしまった。
暗殺者の役割は、具象を欺く。
最弱の権能は、此処にいて此処にいないまま森羅万象に干渉すること。
ゆえに。
高嶺の花の女王も、此処にいて此処にいない。
実体に干渉するだけの力任せでは、延々と捉え処のない気配でしかない。
「へえ。」
「愉しませてくれるのね。」
「殺さなきゃ、早く殺してなんで生きてるのどうしたら死ぬの?」
ゆえに。
嗜虐と被虐の化身は本能的に、気配ごと蒸発するほどの雷撃を、繰り出せば良いのだと、理解していた。
同様に。
一輪の黒い牡丹も、気配ごと嗜虐と被虐の化身の本質を抜き取って散らしてしまえば良いのだと気付いた。
だけれども。
「死n――」
黒い牡丹は、突然、糸が切れたように崩れ落ちたんだ。
気絶していた。
そして訪れる、静寂。
「あれ?」
「……拍子抜けだわ。」
だって、あの重症から回復直後、気力だけで覚醒したんだ。
さすがに負荷がかかり過ぎているよね。
「あーあ。白けちゃった。」
「ええ、まったく。久しぶりに陛下以外に愉しく遊んでくれそうな方でしたのに。」
豚性廃トリオは状況の変化に、ただただ圧倒されていた。
「まあ、じゃあ、仕方ない。」
「ええ、用事だけ済ませましょうか。」
「……そんなもの、あったっけ?」
「え? あったでしょう?」
「どっちだっけ?」
「あったわよ。」
「じゃあ、ある。で、なんだっけ。」
「……?」
考えることしばらく。ようやく思い出したその用事とは、黒い牡丹となったパティちゃんを、魔王城に連れていくことだった。
実は、聖都を出て直ぐに会った二人も、本当は魔王城にパティちゃんを連れていく命令を、受けていたんだよね。とっても忘れん坊な一族なんだ。
というか。
お互いのこと以外、どうでもいいだけなんだよね。
~to be continued~
実は、巨豚さんの死はパティちゃんの覚醒イベントだったのでしたっ><
ところで。
実は、パティちゃんの天敵となりうる存在は、すでに書かれているのです。
ヒントは、具象を欺くパティちゃんという幻想を、具象化できる能力を持った相手で、具体的には38話を見直してくると良いのですっ><





