36. た、たまにはね? 優雅にティータイムでも良いじゃない!
もしかすると、Microsoft Edgeの方は、表示が崩れるかもしれないのです。
「パティ、神代へ行きなさい。」
「……? どうして? シルフお姉さま。」
あれから数日たった、午後ののほほんタイム。妙齢の魔女さま邸で、パティちゃんは優雅にだらけていたんだぞ。
「ジェストに会えるハズなの。」
「え!? ホント!?」
「おそらく。」
「じゃあ行く! 」
こうしてパティちゃんの、今後の予定が決まりましたとさ。
ちゃんちゃん!
「……それで、シルフお姉さまはどうするの?」
まあ、それで終わるワケないじゃないか。
そもそも、パティちゃんがなんで妙齢の魔女、マダム・シルヴィア・ククル=カン東方女公爵と一緒にいるか、とかさあ。……まあ、それは妙齢の魔女さまがお目付け役的な感じなんだけれども。
「此方は、東方の国々に、挨拶へと参るの。」
挨拶とは武力的な威圧行為、つまり示威行為のことだぞ!
シルフお姉さまの示威だぞ! めちゃめちゃ恐いんだぞ!
「挨拶……? どうして?」
だけれど残念。パティちゃんには意味が通じなかったようですよ?
「この国を潰して、栄えたいと思うような愚か者が、多いの。」
「……ふーん。」
おっとパティちゃん、思考を放棄しちゃいましたね。
「ジェストの目的は、神代の拡大なの。……だから、愚か者と結託したのだと、思っているの。」
つまり東のどこかの国は、神代資源の獲得が目的で、ジェストは神代を拡大することが目的だったというわけだ。
短期的には、確かに王国を混乱させて、その間にメチャクチャにするというのも戦略だ。アリよりのアリアリだ!
でもね。
それは、周辺諸国を巻き込んだ混沌パーティへご招待の蟻地獄だ!
ジェストの口車に乗せられちゃった、誰かさんがいるのだと思う。
「ふーん。」
それでも、「だからなに?」と姿勢を崩さないパティちゃんマジで魔女。
魔女っ娘パティはワガママか!?
いや、ワガママだったね。
「あ! そうだ! シルフお姉さま、なんで神代に行くとジェストさまに会えるの?」
「それはね、パティ。」
「うん。」
「ここ、人智の及ぶ土地が……田舎だからなの。」
「うん?」
「神代の運命に影響しない、土地なの。」
「うーん。」
「だから彼方どもは、よほど酔狂でもない限り、神代を出たがらないの。」
「わかんない。」
「行けばわかるの。」
「わかった。」
「だから、ヴィヴィを呼んでいるの。」
その時だ。
それは、クイーン・ヴィヴィアン・マリーゴールド・ククル=カン・ガルド・ドゥ・ルクスリアの来訪。
小さな庭園の見える邸宅のバルコニー、城下貴族街の一等地での優雅なティータイムに、風が戦いだ。
「ごきげんよう。」
「ちょうど良いところなの。」
「ヴィヴィお姉さま!」
今日も今日とて『純潔の乙女』に身を包んで純白。
それは、淑女のドレスとして完成された美しさだ。
シュルダーパフから長手袋へと繋がる艶っぽさなど、本物の紳士でさえ生唾を飲み込むほどだろう。
「もぉ、私を呼び出せるのは、シルフ伯母さまだけですのよ?」
「怒らないで。」
「怒ってません。……どうせなら、私もティータイムの始めから招待してくれても。」
「まぁ、今度、用意するの。」
「ええ、きっとよ?」
「二言はないの。」
「 」
パティが尊敬の眼差しを向けるのは何故か、わかるよね?
パティも「唯ひとりの男」を求めているからだよ!
「それで、ヴィヴィ。今は、38節だったと思うの。」
「ええ、伯母さま。神代は――」
何でもない空から取り出したのは、縦が目算1メートルはあろうかという大きく古い本だった。複雑な模様が、生きているかのような印象を受ける本だった。
その、第2編4章38節17項3行目から52行目のあたりを、吸着の魔導師、ヴィヴィアン・マリーゴールドは指でなぞる。
「――荒れています。」
「そういうことなの。」
「え?」
「貪食の化身と卑近の化身が、魔王陛下に反乱を企てている、そんな時節。」
「昼夜の化身は?」
「まだ、書かれていないわ。」
「そう。知謀の化身へ知らせを遣さないといけないの。」
「『共鳴する水鏡』ではなく?」
「あれは、早すぎるの。」
ヴィヴィお姉さまとシルフお姉さまが、同時に見つめてきたから、パティちゃんはビックリしちゃった。
そして、ワケもわからず愛想笑いを浮かべるのだ。
その無防備な笑顔の可愛さったらないのにね。
「そう。わかりました。」
「ありがとう、ヴィヴィ。」
「今度、ティータイムに誘ってね? 伯母さま。」
「わかったの。」
「きっとよ? 忘れたら、泣いてしまうからね。」
「わかったの。」
さて、話についていけず、暢気に紅茶を嗜んでるパティちゃん。
たった今、茶飲み話で、魔王の宰相に会いに行く話が決まったけど、大丈夫?
~to be continued~