35. 噛んで……くださいっ♡ あふ……っ♡
「おい、蛇。消えてなくなっただけで、そこにいるのはわかってるんだから――」
魔女が、理不尽だとされる理由。
それは、理屈が通じないからだ。
「『――ボクに纏われ。』」
消え行くハズの闇の残滓。
破壊と破滅の仄暗い熾火。
それが、パトリツィア・デル・フィオーレの身体に纏わり付いて逆巻いた。
邪龍を、完全に支配下に置いた。
「行きます――受け止めてね♡♡ ジェストさまぁ♡♡」
そしてパティは闇に溶けた。
「――っっ!!」
パティの、急な戦力増強。その驚きを前に、戯けた影法師は、今度は持ち直した気障ったらしい表情を崩さずにいられた。
元の目的は、国王の暗殺。
そのために、勝算なくして吸着の魔導師たるヴィヴィが来るとわかっている場所に現れるハズもない。噴水で見かけ、マフィアのもとへ届けた時のパティのイメージと異なって、少し面食らっていたが、それを持ち直した、ということなのだ。
だから。
気配もなく現れたパティが切り裂いたのは、影法師だった。
目に焼き付いた、ジェストの幻影。
道化師と暗殺者の役割は、よく似た性質を持っている。
道化師は身代わりが得意で、暗殺者は気配で裏切ることが得意だ。
どちらも、実存に擬態する。
具象を欺く。
「ジェストさまぁ♡♡ どこに行かれるの??」
置いて行かれたのは、王とその他のものたちだ。
それらを、ひと纏めに玉座のぐるりに集めて、ヴィヴィが保護していた。
「冥府の守手たる私が、死を許しません。」
それは、淡く優しい光。
先の、邪龍の汚濁に飲まれて朽ち堕ちたハズの死者が、目を覚ましてゆく。
「ヴィヴィは、優しいの。」
「シルフ伯母さま。私は、死をより分けることしか出来ないだけ。」
「それは、優しさ……此方どもが甘さと呼ぶ慈しみなの。」
「そう。」
しっとりとしたメゾソプラノと、凛と鈴を転がしたようなソプラノの心地好い井戸端会議の外、玉座から下った広間では、火球が壁を突き破って躍っていた。
ちなみに火球とは、めっちゃ光る隕石のことだから、ファイヤーボール的な物を想像している子は要注意だぞ!
そうでなければ焔の射手だなんて言われない!
そして、そんな火球が降り注ぐ上空ではアホー鳥が大慌てだ! ざまあみろ!
「ロッちん! 防げ! ベキ子! 雄っぱいロケットだっ!」
「はぁ~いっ♡♡」
おっぱいロケット、それは何十年も前に流行ったロボットアニメに出てくる女性型ロボットの武装から派生した技名。
胸からミサイル的なアレを飛ばす攻撃だ!
なぜ、ベキ子がそんなことを? と思うだろう。
レベッカ・グロリオーサ・オ=ノーント。王国の魔法魔術協会理事長の姪のような甥だ。そしてオ=ノーントは魔術の大家である。
ゆえに。
パティが爪に魔術を書き込んだのと同じく、ベッキーもまた、骨の一本に至るまで、魔術を彫り込み尽くしているのだ!
そして。
そのひとつに、雄っぱいファイヤーがあるのだ!
いつでもどこでも撓わな胸の形の火の玉が飛び出すのだ!
え? ロケットじゃないのかって? そんな細かいことを気にしたら負けですよ。
ボボン!
それは見た目の滑稽さに反して、やたら滅多凶悪なのだ。
ジェストが呼び出した火球を弾いて押し進む母乳なのだ!
いや、母乳ではないか。炎が思いっきり胸の形そのもので、色も白濁して、もう完全に謎の光で隠されちゃう感じだったから混乱しちゃった!
しかしジェストも避け、防ぎ、そして攻撃を重ねてくる。まだ、余裕はありそうだ。
「豚ぁ! 壁!」
「御意ぃ♡♡」
醜い豚、ボンレスハムの見た目の中年ハゲは、攻撃を受けたかったのだ。
だから、パティちゃんの下へ飛来する火球はすべて、豚が受けきるのだ。
「あふぅんっ♡」
まるっきり焼豚じゃないですかっ><
その隙に。
パティちゃんは、今一度ジェストの影から溶け出るのだ。
ざくざくぅ♡♡
「ジェストさまぁ♡♡」
両手の牙による、一カ所への切り付け。
何物も切り裂き何者も断つ。
「もっと、もっともっともっともっともっと抗ってくださいませ♡♡ ボクを殺して? そうでないと殺しちゃうからぁ♡♡ 力が拮抗しちゃったら、ふたりで心中するのと変わらない――あはっ♡ それも良いかもかも?? ジェストさまぁ♡♡」
ザクザクッ。
ザクザクッ。
ザクザクッ。
ザクザクッ――ぐじゅ……っ。
ぐちゃっ、ずくっ、ぐちゅぐちゅ。
「ねえ、ジェストさまぁ♡♡ 温かいの、なんで? ジェストさま♡ あはっ♡ あははははははははは♡♡ 死んじゃだーめっ♡ だめだめだめだめだめだめあははっははははははははははは♡♡♡♡」
ぐちゃぐちゃ。
「ええ、わかっていますよ。パティお嬢さま。」
スラリと、死に神の鎌みたいなカッコイイ武器の刃が、パティの首を刈り取る寸前の位置で止まっていた。
「――あれ?」
べちゃりと落ちたのは、別の誰か。
そう、道化師の役柄は身代わりが得意だ。
「すごぉーい♡ さすが、ジェストさまです♡♡」
しかし、最初の一撃だけは効いていたのだろう。脇腹がジクジクと痛んで血が滲む。これにはジェストも誤算を大きく見積もるしかない。
つまり、ここら辺が潮時だろう。
それを、パティもわかっていた。
「ねえ、ジェストさま?」
「何かな? お嬢さま。」
「鎖骨に刻み込んでくださらない?」
首筋に刃物を当てられて、何事も無いかのように、ペロンと前掛けみたいな童殺服を外すパティ。
少し汗ばんで、美味しそうな鎖骨だった。
「ええ。それは喜んで。」
ガブリ、と噛み付いたロリコンの絵面だった。
もしくは、膝立ちで鎖骨に噛み付く男の子の頭を掻き抱いて悩ましげな吐息を漏らす姿は、母性を表す場面に見えなくもないか。見えないか。やっぱり無理があるか。うん。見えない、、、いや、見えるでしょ! ね!
「早く、逃げてね。ジェストさま♡」
もちろん。
ジェストが招かれざる客であることには、変わりなかったから『月狂騎士』のひとりが切り飛ばした。
切り飛ばしたのは、影法師だった。
~to be continued~
あんまりグロすぎると、BANされちゃうので、このくらいฅ(,,ԾᴗԾ,,ฅみ)





