26. 負けてなんかないしぃ!!
グシャ。
っと、空間ごと潰れていた。
「此方の護衛は、これほど下賎で十分ということなの?」
湿っとりと艶っぽいメゾソプラノの声音。
気づいたときには、パティちゃんの馬車もオープンカーになっていて、アッチにいたハズの馬車が目の前にいた。
そして空中に首吊りのような光景がぶら下がっていた。
それが血だまりに落ちた。
「はあ。」
マダム・シルヴィア・ククル=カン東方女公爵。
有史以前から存在する最強の一角だ。
雅な夜の扇で口許を隠して、長手袋が艶めかしい。
「其方は誰そや?」
「ボクは、花を鬻いで売らぬ女王のパティちゃんだよ!」
気付いたら、目の前にいた。
マッハで冷や汗が、だくだくになっちゃうよね。
なんで、この世界の強者は脈絡なく現れるかな。
「そう。」
「パティちゃんさま!」
「平伏しなさい。」
たった一言。それだけで、水色頭の廃エロフが地べたに縫い付けられていた。
とっくの昔に、真っ赤な豚とクリーム色の性女は紐で縛られて幸せそうだぞ!
「此方を護衛するとかいう王の騎士は、儚くなったの。」
儚くなったとは、死を意味する。
「それで?」
先の、瞬間の出来事。
それでもパティちゃんは、護衛の騎士の劣情を、子宮で確かに感じていた。
それゆえ密かにじっくりと、無意識が邪龍の気配に魔力を注いでいたのだ。
「どうして、此方の道を塞ぐの?」
それは、敵を敵と認識する言葉。
マヌケ面のパティちゃんを置いてきぼりにして、ミッドナイトカラーの星空みたいなマーメイドドレスに身を包んだ、魔女の帽子装備のわかりやすいエロエロおねーさんは微笑んだ。
能面が小首をかしげる。
「なぜ?」
瞬きの刹那をおいて。
パティのぐるりを屈強なイケメンたちが囲んでいた。
槍や剣の切っ先が目の前だ。
それはシルヴィアの左目に、自ら囚われた歴代の恋人たちだ。
『一個騎士団』と畏怖を込めて呼ぶ者もいると聞く。妙齢の魔女、マダム・シルヴィア・ククル=カン東方女公爵が擁する『月狂騎士』からなる『月狂騎士団』は、即応軍という破格の存在だ。
右目に封印した月も併せて、シルヴィアは真なる強者だった。
「――はっ。」
それに対してパティちゃん。
遅れること数瞬。
先の首吊り騎士の劣情視線に感じた淫紋の波動を、イケメンとの甘々トロくちゅシチュエーションで増幅して、身に纏う。
風格だけは王者のそれだ。
なぜならば。
それは破壊と破滅の闇。
ひと足ごとに絶望を振り撒く災厄の気配。
その眷属の、呪いの雰囲気。
黒とヴァイオレットピンク。
魔女も強者だからこそ、それを感じ取る。
「ほほほ。」
シルヴィアは、パティの気配に表情を崩さない。
「面白いの。」
その言葉に、恋人たちが槍襖を立てた。
その光景は、神話の一場面のようなスポットライト。
開けた馬車の舞台の上、取り囲む数万の恋人たる英霊たちの中心で、ボディラインを際立たせる、夜空のマーメイドドレスに身を包んだ妙齢の魔女と、緑のメスガキロリ巨乳。
お互い、一歩も譲らず、すべてを擦り減らす覚悟すら見える。
「ねえ、紅茶は嗜むの?」
にっこりと、笑った雰囲気だった。
「もちろん。」
だから、にっこりと笑って返した。
「話し相手が欲しかったの。」
そして気配が去った。
パタパタと馬車が独りでに組み立て直されていく。
この平面の世界において、すべては平らかだとでもいうかのような、無邪気さを抱えたギミックだ。
まるで白昼夢。
「ちょうどボクも退屈していたところなんだ。エスコートしてよね。」
それが閉じ切ってしまう前に、妙齢の魔女の、肉体を持った今の恋人が執事よろしくパティを魔女の馬車へと招待した。
パティちゃんも、ぴょんと飛び移って、お誘いに応じる。
もちろん、魔女の馬車はちゃんと馬が繋がれた馬車だぞ。
~to be continued~





