悪役令嬢宅の執事は性格が悪い(笑)
恋愛小説、少女漫画、乙女ゲーム…etcあるなかで必ずと言っていい程登場するのがヒロインのライバルとなる悪役令嬢。
彼女たちの最後はだいたい断罪され、裕福な身から一転し、不幸になるものである。
なぜそうなるのか?と聞かれたらそりゃあ今までの嫌がらせなどの付けがまとめてやってくるからである。そしてそれを見る読者、プレイヤーは「ざまぁっ!」って思う瞬間が楽しいのでる。
他人の不幸は蜜の味。とはよくいったものであるがその通りなので仕方ない。
高慢ちきな高飛車令嬢が最後の最後にボロボロになって泣き叫ぶ様はまさに愉快の一言。
そんな事を思うのは性格が悪いのかもしれないが、それがどうしたという。
みんな好きだろ?他人の不幸は。
口に出しては言わないだけで、みんなそう思ってるから、そんな言葉が生まれるのである。
なんだけど、ざまぁみろで終わるのは創作物の中だけ。
その後の事を考えたことはあるだろうか?
断罪された令嬢の末路は?
彼女の実家のその後は?
その家の他の家族親戚は?
その家で働いている人たちは?
その後どうなるのか?
物語の上では何一つ気にならなかったそれら。
それを気にすることになったのは、俺が乙女ゲームの世界の悪役令嬢の家の使用人としての生を受けたからである。
プレイしていた訳じゃないけど、結構有名な乙女ゲームで、ゲーム以外にも小説、漫画、アニメ化などをしていて目にする機会が多かったので、知っているゲームの世界。
詳しくは知らないけど、その中に登場するライバルキャラの一人がうちのお嬢様。
性悪おバカ令嬢の見本みたいな彼女。
自分の実家の権威を振りかざして好き勝手なことをするわ、面食いなのでイケメンには誰彼構わず粉をかけるわ、気に入らない同性は虐め倒すわと、まあ、やりたい放題やらかして多方面からヘイトを稼ぎまくった結果、最後は公衆の面前で断罪される、まさに、悪役令嬢の中の悪役令嬢。それがうちのお嬢様の未来である。
「…」
俺の目の前で、ない胸を張って仁王立ちしている姿はもうすでに悪役令嬢のそれである。
様になり過ぎて笑える。
「きいているの!わたしはこのいえのおじょうさまよ!いちばんえらいのよ!」
自分でお嬢様とか言っちゃうところがなんかもう凄い。
あと、この家で一番偉いのはお嬢様じゃなくてお嬢様の親である旦那様である。
誰も指摘しない勘違い。
子供のときに言うのならまあ可愛げがあるのだろうけど、これ、このまま大人になるのかと思うとなんだか、可哀想な子を見るような気持になる。
こんな歪んだ性格になるのは何もこの子のせいだけではない。
この子を甘やかし、甘い言葉しか言わない周りの大人だって原因ではないだろうか。
彼女を叱責する人は誰もいない。
彼女の行動を全て肯定し、彼女の御機嫌を取ることにのみ邁進する周りの大人に囲まれて育ったのなら、高慢ちきな我儘令嬢になるのも頷ける。
まるで裸の王様のようなうちのお嬢様が、断罪され、この家を追い出されたらどうなるのだろう。
一人で生きていくにはあまりにも無知すぎる。きっと遅かれ早かれスラム落ちして早死にする気がする。
一思いに命を絶たれたのなら、彼女はそのあと苦しみ続ける人生を送らなくて済むだろうけど、この家は世間からどのような目で見られるのだろ。俺たち使用人はどうなるのだろう。
解雇され、路頭に迷うのだろうか。
運よく他の家に奉仕できるだろうか。
できたとして、この家にいたことが知れたとき、どんな目で見られるのろうか?
同情?それならばまだ救いがありそうだけど、彼女の言葉を肯定し続け、彼女の御機嫌を取るために同じように他者を虐めたなどと思われやしないだろうか?
彼女一人が犯した罪によって、この家で働く全ての人が不幸になる。
それにこの家は腐っても大貴族。
それ相応の給金が払われているし、衣食住が保証されている。
流石大貴族…じゃなくて、ここと同じぐらいの家で働けるなど滅多にないことだ。
こんないい職場、簡単に手放すなんてしたくない。
お嬢様のしでかしたことで、俺たち使用人までとばっちりを受けるなんて理不尽である。
そんなこと断固反対である。
俺はこの高収入な職場を気に入っているのだ。
できれば年金が出るくらいまでは働きたい。まあ、この世界に年金制度なんてないのだがな…。
なので俺は思った。
この馬鹿なお嬢様をまともなお嬢様にしようと。
自分がやられて嫌なことはしてはいけませんという常識を教えようと思う。
ゑ?人の不幸を笑っているお前には言われたくないって?
心の中は誰にも見えないのだからセーフである。顔にさえ出さなければ問題ないのである。
取り敢えず、心の声は表に出さないように気を付けつつ、この5つも年下のおバカなお嬢様に社会常識と公的マナーを教えよう。他の習い事は担当の先生に聞いてくれ。
俺の仕事はお嬢様を立派な雇用主にすること。
使用人を気遣える主にすること。
権力や財力に物を言わせて従える事しかできないような最低な雇い主でなく、使用人たちが心を尽くして仕えたくなれるような令嬢にすることが役目だ。
だから、俺は大きく息を吸い込んで、挨拶をしよう。
「お嬢様は少々頭が足りていらっしゃらないようですね」
おっと失礼。
素直な心が零れてしまったようだ。
執事性格悪いなー。
銭ゲバ執事(笑)
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