(15)
「いよっと」
乗り込んだ時と同じように、降りる時も汀が先だった。
灯一は、停船スペースの中でもなるべく奥まったあたりにボートを着け、自身はその見張りのためその場に居残った。
「ハヤクカエッテキテネ」
着岸してすぐさま、灯一よりも頭ひとつ大きく分筋肉量一回り分多い男が寄り集まってくる。
船なり彼の肉体なりを眺め回し、かつ肩に腕を巻かれるような始末。そんな状況にあって、灯一の声と全身は震えていた。額のあたりから血の気が抜けていくのが目に見えるし、音にも聞こえるようでもあった。
(なんか結果が見てみたいから用事はサッと済ませてもゆっくり帰って来よう)
それにあっさり別れを告げた少女たちは、気の毒そうに見送っていたカラスを引き立たせて連れ立ち、さらに奥に。
そのたびに磯の濃い香りが鮮度を喪い淀んだものになりつつあるし、まるでそれに当てられたかのごとく、彼女たちを見る人間の層はどことなく粗悪なものにシフトしていく。ここは本当に法治国家の一教育機関なのだろうか。
ナビゲートはその都度メールにて送られてきて、言われるがままに道を進んでいく。
不思議とその間、水着の美少女たちは襲われることなく……もっとも並の連中なら返り討ちにされるだろうが……皆遮ることはせず、仮に道を塞いでいたとしても、わざわざ開けてくれる。まるで何か見えないものを恐れるように、目を伏せ顔を逸らしつつ。
だがそれでも、無頼どもの巣窟であることには違いない。
この場における唯一無二の男性として、レンリは前に進み出て言い放った。
「皆……もし万一のことがあったら、俺の影に隠れろ」
「どうやってだよ」
即、鳴からツッコミが入った。
そんなこんなとやりつつも進む一行の前だったが、いよいよもってそういう人種さえも見なくなり、人の気配が絶えると、前方で道が東西の二筋に分かれていた。
執拗なまでに送られてきた指示が、そこに至ってパタリと途絶えた。汀の側より案内を催促しても、無視を決め込まれた。
「これは……」
「二手に分かれろと、まぁそう言うところですね」
真月の独語を士羽が拾う。
増やした人数が自分にとっては不都合ゆえ、そこで削ぎ落とせと、そう言外に告げているのだろう。
「相手の思い通りになるのはシャクだけど仕方ねぇな……元々手分けするのは織り込み済みだ」
鳴はそう言ったが、相手にイニシアチブを取られた上での戦力の分散は、用兵学上ではタブーとされることだ。
とは言え、他に選択の余地などない。ないからこそ、この時点で既に戦略上は負けている、とも言える。
それでも居並ぶのは皆、百戦錬磨、一騎当千の女傑たちとレンリは知っている。並の奇襲などは跳ね除けてしまうだろう。
組み合わせと戦術の次第で挽回も出来るだろう。
ユニットの相性は元より、ホールダーの特性やリーチ。それを扱うユーザーの、個人間の連携や意思疎通能力。それらの適不適を、慎重かつ綿密に吟味して人選を……
「面倒くせーからグとパで半々に合わせるか」
「だねー」
「あらやだ、この娘らこんな時だけ学生のノリ!?」




