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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第六章:灘と、ナギサ
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(8)

 士羽の発案をもとにおおよその段取りも決まり、また細かい打ち合わせはLINEでということになった。


 自分に一生涯、サービス終了まで縁がないと踏んでいたであろうそのライトグリーンのアプリケーションを勝手に入れられ、グループに入れさせられ、歩夢は憮然と自身のスマホのアイコンを睨んでいた。


「ところで」

 と、汀は例のごとくソワソワと微動をくり返しながら、ふとレンリを指差して尋ねた。


「なぁなぁ! なんでコレ喋ってんの」

「今更かよ」


 本鳥が我よりツッコミを入れる。

 実は士羽も、そのことに疑問を抱いていた。

 あの珍し物好きの汀が、今の今までこの怪生物に注意が向かなかったなど、あり得るのか?


 たとえ、灘の失踪により漫ろになった集中が、歩夢というニューフェイスに向けられたためだという分かりやすい理由が用意されているにせよ。


 だがそれに対しての明確な答えは結局そのクチバシから出ることはなく、その場は割れたガラスの応急処置のみ皆で終えて解散となった。


 まるで彼女の疑念を読んだかのようなレンリは、部屋に残っている。


「珍しいじゃないか。お前が能動的になるなんて」

 と、自分の生態や素性については一切語らないくせに逆に探りを入れてくる。

 風穴を開けられたとして、狭い室内。聞こえないはずもないが士羽は露骨に無視した。


「……まっ、おおよその察しはつくがな」


 カラスはそう言って続けた。


「お前の狙いは俺だろ。秘密主義にいい加減に痺れを切らして、歩夢を強引に表舞台に立たせ、あいつを餌に俺のリアクションを探ろうとした。どうせそんなところだろう」

「……まるで私を知った風なクチで語りますね」


 そう返してから、士羽はこれは失言だと悔いた。

 この返事こそが、図星の証左だ。子どものように即時否定するのではなく、黙殺すべきだった。が、もはや取り繕いようもない。


「知ってるさ」

 皮肉っぽく、どこか既視感を覚える瞳が歪む。


「自分のことを分かってないのはお前だけだ。他のみんなは気づいている。お前は自分だけ賢いと思って高見の見物を決め込んでいるフリをしてるが、実際にはただの拗ねたガキだ。引っ込みがつかなくなったせいで居場所を喪ったちっぽけで弱い人間だよ」


 そう冷ややかに吐き捨てるレンリの態度もまた、大いに疑問として士羽の胸につかえている。

 ふだんは温厚で愛嬌を振りまいているくせに、士羽にだけは当たりが強く、そのくせ今のようにこちらの核心を突いてくる。

 その原因がどこから来るのか。直接的な怨恨か間接的な理由からか。

 少なくとも、現世の人間になら掃いて捨てるほどに恨みは買っていようが、異世界のカラスに憎まれるような覚えも謂れもない。


「まぁとは言え、俺も歩夢を外に引っ張り出すことには賛成だ。人間らしい関係や環境を作って、感情に負荷をかけて情緒を取り戻していくたとえそれが、非日常的な荒事によるものであったとしてもな」


 もはや用は半ば済んだということか。

 ベッドの縁から飛び降りたカラスは、羽音のひとつも立てずに出口に向かう。そのうえで、いつでも退出できるような場所で足を止めた。


「だから貴方も疑似家族になろうと?」

「まぁあいつが。怒って拒むなら、それでも良いさ。虚無的にすべてを受け入れるより、大きな進歩だ」

「本当に、それだけが目的だと?」

「あぁ」


 一方的に意向を伝えようとも、やはり本意を問われれば適当な感じにはぐらかす。

 だからこそ、士羽も一方的に意向をぶつけることにした。


「もし」

「ん?」

「もし貴方が本当の目的のために歩夢を謀略の贄とするというのなら、その時は許さない」

「……お前が言えた義理か。その言葉を本人に伝える勇気もなく、いつも安全圏で誰かを盾や言い訳に浸使ってるようなヤツが、偉そうにさえずるんじゃない」

 返ってきたのは、やはり冷ややかな正論だった。


「いちいち俺に突っかかってく必要なんてない。余計で無意味な詮索なんてしなくともな」

 と再び足を動かしたレンリは、最後にこう言い放った。


「どうせお前は、俺に行き着く」


 いかに夏場の放課後と言っても、すでに斜陽。

 差し込む残照によって、レンリの影法師は不自然に伸びて人型となっているようだった。

 やがてそれは士羽の足下にまで達し、そろそろと絡め取るかのようだった。

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