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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第六章:灘と、ナギサ
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(6)

 オレの名前は深潼汀!

 この春、幼馴染の澤城(さわしろ)灘と剣ノ杜学園南洋分校に入学したオレは、そこで不思議な鍵とガジェットを巡るバトルに遭遇した。

 本校から提供された『ユニット・キー』とそのシステム。それを校内に広めて悪用し、生徒たちを自分の兵士にしようという校長一派の陰謀を知ったオレたちは、それぞれに維ノ里博士の協力を得て立ち向かうべくキーを手に取った!

 みんなの自由と楽園はオレたちが守る!!


 強敵(ライバル)との戦いを乗り越えたオレたちの前に、分校長巌ノ王京猛がついに姿を見せる。

 ……だけどその時、灘の口から信じられない言葉が出てきて……


「父さん……ッ」


 ~~~


「――ってのが、ここまでのカンタンな経緯(あらすじ)なんだけどさ」

「途中の決意表明の下り蛇足じゃない?」


 潰した無頼の連中は命を止める程度に『衛生兵』で治療し、庭木に縛って放置。例のごとく、諸組織の息のかかった教員らが荒事に干渉してくる様子もない。


 そしてもうひとりの乱入者、深潼汀とやらは悠々と、自分が通気性を良くした保健室で、椅子の上にあぐらをかき、身体をくるくると回す。


 その姿を、歩夢は改めてまじまじと見つめた。

 本人の活発性を象徴するかの如く方々に跳ね回った、やや襟足の長い、色素の薄い髪。

 歩夢ほどではないが、華奢な身体にそれを支える細い手足。

 所作そのものは粗野ではあるものの卑しさを感じさせず、むしろ爽やかささえ感じさせるのは、顔立ちそのものは永い睫毛に気品ある端正さを持ち合わせているからであろう。


 ……もっとも、『図々しくて馴れ馴れしくて厚かましい』という歩夢のファーストインプレッションは、外見的美点だけでは容易に拭い去ることはできないものであったが。


 現に視線がかち合った瞬間、にんまりと唇を吊って指先を伸ばしてくる。

 ふしゃっ、と荒々しい呼気とともに、歩夢は無表情でその手を払いのけた。


「こら歩夢っ! ゴメンなー、こいつ初対面のヒトには全然懐かなくてな」

「ははは、良いって良いって。帰省するとウチのキーちゃんもこんな感じだし」


 懲りずにちょっかいを出してくる汀をフシャフシャと威嚇するも、まるで顧みる様子もなし。完全に猫扱いであった。


 白衣の姫君は、そんな彼女を冷ややかに見返した。


「適当に遊んだのなら、さっさと巣に帰ってくれませんかね。ガラスの弁償代だけ置いて」

「悲しいこと言うなよ博士~、ウチがちょっと困ったことになってんだよー!」


 と、余人は遠慮し、忌避してしかるべき士羽のパーソナルエリアにもお構いなしに踏み込んでいく。首ったけにかじりつくように飛びついて羽交い締めに。即時振り払われそうなところを食い下がる。


「……博士て」

「まぁ一応もう博士号持ってるしなー」


 呆れたような鳴のぼやきを拾って答えたのはレンリである。

 なんでも知っとるわぁこの鳥公、と思う傍らで、ついに汀が引きはがされた。


「困ったことと言いますが、トラブルメーカーである巌ノ王京分校長が入院と逮捕された今、何があるというのですか」

「そうそう、あのはた迷惑なオッサン、灘の親父バレした後なんやかやしてたらさー、いつの間にやらワニと戦ってフッツーに負けてたんだよね」


 すごすごと自分の席に戻りつつ、人生で一度言うかどうかというパワーワードをさらりと吐く。

 それにしても、窓ガラスを割って銃撃戦に巻き込んできた少年のセリフではなかろう。そんな当たり前のツッコミは今更誰も行わないのでスルーされて話は進行していく。


「その後、ようやく平和になると思ったんだけど、逆に校長がいなくなって無法地帯化しちゃったのよ」

「何しでかすか分からない分、図らずも方々への抑止力となっていた、というわけですか」


 そーそー、と適当な感じで汀は相槌を打った。


「まぁほとんどゲーム感覚、半ばプロレスみたいなもんだけど、外にるあの連中みたいな問題児ばかりでさ」

「だからあんたが言うなって」

「それでしばらくもオレも灘も、そういったゴロツキ連中の鎮圧に明け暮れていたわけなんだけど」


 あぁ、とそこで何かに思い至ったらしく、やや間を置いて彼はパーカーからスマホを取り出した。


 マリンブルーの薄っぺらい端末のディスプレイ。その待受画面に、一組のコンビが写っている。

 ひとりは言わずもがな汀自身で、もうひとりは同年齢の少年。

 頬を擦り合わせんばかりの過剰なスキンシップとともに、自分たちをファインダーに収めようとする相棒に対し、居心地そうな、気恥ずかしげな表情をアンダーリムの眼鏡の裏で浮かべている。線の細い文学青年といった印象で、汀とは好対照だった。


「このメガネが澤城灘ね。さっきも言ったけどオレの幼馴染で、なんとまービックリ、校長の息子だってさ。で、コイツがさ」


 と一度間を置くと、少年は落ち着きのなかった膝を抱え込むように折り畳んで、声のトーンを落として本題を切り出した。


「学校の中で行方不明になったから、捜すの手伝って欲しいんだ」

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