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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第五章:ヒョウリュウの、教室
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番外編:楼灯一の映画レビュー(後編)

 カラオケルーム。

 談合の場としては陳腐な発想ではあるものの、他に代案があるわけでもないのでケチをつけるわけにはいくまい。


(そう言えば、わたしカラオケとか初めてかも)

 ずっと孤独な自分が、決して良好な関係とは言えないまでも、皆と連れ立って足を踏み入れた。

 そのことに対し、心にむず痒いものが……湧かないでもない。


 部屋に入るなり、直前までゲーセンの景品になり切っていたレンリと灯一はモニターの前に陣取って、顔を揃えた。


「あ、この曲俺歌えるわ」

「歌いますか」

「マイクないんだよね」


 などと他愛無いやりとりだが、当然曲を入れているわけでもないので流れているのはコマーシャルである。マイクにしてもテーブル上のカゴに入っているではないか。


 だがどちらともその違和感を訴えるようなことはしなかった。逆に今の会話で何かしら互いに符合するところがあったらしく、顔を見合わせニンマリする。

 

「……なんか、そこはかとなく気持ち悪いな、こいつら」

 元ネタを知らないであろう鳴でもそのうすら寒さは肌で感じるのだろうか。

 歩夢も思わず首肯しそうになったが、その裏で「先を越された」と言いたげに悔しそうな面持ちの士羽に飽きれてそれどころではなかった。


「さてっ、それじゃあお前らの推す映画をさっそく見せてもらおうか」

「いや、今更なんだけどさぁ」

 注文をまとめ上げてドリンクを持ってきた鳴は、それらをテキパキと各自に配りながら尋ねた。

「最初っからあんたが選べばよかったんじゃないのか?」

「オレが選んでばっかだとさすがに引き出しが尽きて偏るんだよ」


 とは灯一の弁。筋自体は通っている。

 何週目かのループを終えたCMの音量を落としてから、まずは手前の鳴からのプレゼントから披露することになった。


「ってもあたし、さっき説明された趣旨知らなかったしテキトーなんだけどな」

 予防線を張りつつ難色を示す鳴は、すっと紙袋からそのうちの一本を取り出した。


「『ホームアローン』」

「いくらなんでも雑過ぎねぇ!?」


 すかさず灯一はツッコんだ。


「いや名作だけどさァ、選ぶ時三秒以上考えたか!? 今日び遠足の移動のバスでも流さねぇんだけど!」

「だからテキトーつったじゃねーか。他にも用意はしといたぞ。ワンコインのヤツ大量に」


 そうにべもなく言った鳴は、残りの品を披瀝した。

 コンビニか中古で買ったワンコインとは言え、歩夢でさえ覚えのある有名タイトルが十本二十本とあった。量が量だけに、それなりの金額を使ったことが分かる。

 雑なのやら、効率を求めた結果の彼女なりの誠意なのやら。


「……いや、この大量のディスク雪の中持っていくのオレなんだけど」

 灯一は嘆息した。

「一番マトモそうなのがこの体たらくって……」

 呆れながら少年の投げた視線の先に、クリームソーダをストローで吸引している歩夢の姿があった。


「しゃあねぇ、こうなったら一番酷そうなのから行くか」

「その言われようは不本意なんだけど」

「そうだぞ、歩夢だってその……頑張ったんだ!」

「保護者が努力しか評価してねぇ時点で先行き不安なんだよなぁ! おらっ、ビシバシツッコミ入れてやるからさっさと出せっ」


 強引に催促されるまま、歩夢はポシェットからパッケージを抜き取ってテーブルに提出した。


「『南極料理人』」

「お前さん、人間の心がないって良く言われない?」


 自らの公約通り、灯一はツッコミを入れた。


「事前に『旧北棟』へのプレゼントって言われてたよな!? そのうえでなんでこのチョイス!?」

「でも、面白いよ」

「自分であの環境を体験しといてそんな理由でコレ出すのはサイコに片足突っ込んでるよ……で、となればトリは」

「呼んだ?」

お前さん()じゃなくてね、維ノ里。用意してるならまた後で聞くけど」


 士羽は烏龍茶から口を離して灯一を軽く睨んだ。


「それは構いませんが……私に対してはずいぶんとあれやこれやと注文をつけてくれましたね」

「だってお前、どうせ特撮かSFのどっちか選ぶつもりだったろ。たまにはそれ以外のものを勧めてみろってんだ」

 軽くうめいて見せるあたり、完全に図星を突かれたようだった。

 ムッとしつつ、

「……別に私にしても、サブカルチャー的な作品ばかりではなく、大衆向けやポピュラーな物にも目を通していますよ」

 などと減らず口を叩いて強がって見せ、その自慢の推薦作をバッグより取り出した。

 

「『ナポレオン・ダイナマイト』」

「サブカル全振りじゃねぇか」


 最早慣れたのか。士羽には冷ややかな指摘が返ってきた。


「いやまぁ良い作品だよ? でも大人数で一つのモニターで見るもんじゃないよな?」

「でも、面白いですよ」

「だからなんでお前らの判断基準そこしかねぇんだよ!? 相手の趣味嗜好に配慮しろよ! お前らの方がよっぽどダメなオタクだろうがッ」


 先の歩夢の発言をまだ根に持ってるらしい含みを持たせて荒ぶる灯一を「まぁまぁ」とレンリが烏龍茶を勧めて宥める。


「こういう干物ガールズがやらかした時のために俺がいるんだ。控え選手がいて助かったな」


 カラスが自分のストールの内より一本のソフトを取り出した。


「『バス男ナポレオン・ダイナマイト』」

「一緒じゃっ!」


 せっかく潤した喉を枯らして灯一は激怒した。


「邦題か英題の違いだけだろうが! てかなんで『バス男』なんだよ!? 冴えないオタクが公共交通機関使ってるぐらいしか元ネタと共通点ねぇだろ!!」

「それは配給会社に問い合わせろよ」

「そもそも少人数のコミュニティで被るような作品じゃねぇよ! 何なのお前ら、運命共同体なの」

「……不愉快になることを言わないでください」

「……まぁ俺は被るだろうなとなんとなく思ってたから、代案は用意してたけどな」

「予想してたの!?」

「じゃーん、平成ガメラ三部作」

「お前も特撮かよ!?」

「禁止されていなければ私だって推しましたよ」

「いやいや、そこ張り合うことじゃないっつーの!!」


 このままいくと灯一の扁桃腺が心配になってくる、ということで、いまいちまとまりには欠けるもののその場はお開きになった。


「やれやれ、オレも用意しておいて良かったぜ」

 その別れ際、鳴の紙袋に全員分をまとめあげた灯一は、聞こえよがしな嘆息とともに、部屋を退出した。


「一応あちらさんに品質改善のためアンケートも取るからな。自分らがどんだけダメダメか、客観的見地と確実な数値に基づいて証明してやっからな」

 などと、憎まれ口を言い残して。




 ――ちなみにその後、アンケートの結果。

 実際に人気が高かったのが数撃ちゃ当たるという鳴の品々。次に共感性が高かったと歩夢のモノが評価され、最下位は灯一厳選の日常系アニメで、曰く「寝たら死ぬかもしれない世界に寝そうになるもの持ってくるな」だそうだった。


「おっと相手の趣味嗜好に配慮できないダメなオタク発見伝」

「あんた、もう少し持っていくもんの吟味とかしろよ」

「納得いかねぇ!!」

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