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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第五章:ヒョウリュウの、教室
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番外編:楼灯一の映画レビュー(前編)

映画ネタだのパロだの連発しまくりの、オチのないよく分からない前後編となりました。

本筋には八割ぐらい関係がないので、まぁ適当に流してください。

 休日である。

 その日、歩夢は事前に用意を促された品とともに士羽に呼び出されていた。

 もっとも隣人なのだから一緒に出れば良いのだが、関係の冷却し切った今となっては別々の時間帯に出ることが、示し合わせた訳ではない、自然の流れであった。

 そこに当然のごとく、レンリが随伴する。


 先に最寄りの駅に着いたのは歩夢らが先。しかしその待ち合わせ場所には、的場鳴が立っていた。


「よー。お前らもブツ用意の上呼び出されたクチか」

 クールでボーイッシュなイメージどおりの、ジャケットにワイシャツにジーンズという出立ちながら、肉体と生地双方の素材が良いものだから、ヤボったい感じはしない。

 そのくせ、肉感的であるところが理想である部分については、物惜しみするところがない。


「何それ、なんでプライベートでもデカイの?」

「女性ホルモンに休みがある訳ねーだろ」


 何について言われているのかは視線を追って察しがついたようだ。

 嫌悪の様子はないがにべもない正論で返された。

「お前の方は」

 そんな冷ややかな態度のまま、歩夢の姿に言及する。


「ブックオフで時間潰してる男子大学生かよ」

 と指摘するのは、黒いスラックスに英字入り半袖Tシャツに黒いポシェットというモノトーンコーデだったからだ。

 髪も無造作ヘア、というか完全に寝起きのままのそれが偶然ウェーブをかけたように見えるだけである。おまけにプピー、という擬音が鳴るのではないかという壮絶なまでのやる気なさが、その寝ぼけ眼から滲み出ている。


 互いの外見にケチをつけ合っているうちに、ややあって発起人たる士羽がやってきた。

 こちらも白衣ではなく、らしくもないフェミニンなスタイルで統一している。

 当然のように挨拶はない。代わり、隣に男を侍らせて二人と一羽をを瞠目させた。


「なに、彼氏?」

「挨拶もマトモに出来んような非常識な女に付き合える男がいるのか」

「……貴方がたの馬鹿な勘違いですが、常識云々は鏡を見て言え鳥」


 ただでさえつまらなさそうな少女が、さらに憮然とした面持ちになる。

 その脇を進み出て、隣にいた少年が進み出た。

 薄手のジャケットにシルバーアクセサリー。その上からヘッドホンをかけた、ウルフカットの少年に、レンリは碧眼を丸くした。


「おっ、そっちの無愛想な巨乳が的場鳴で、無愛想な貧乳が足利歩夢。で、こっちの通好みの体型が維ノ里士羽、で合ってるよな? まぁ士羽は知ってっけど」

「なに、この喋るたびにゲロの臭いがするゴミカスは」

「お前ら、なんで初手からそんな言葉のナイフで切り結んでんの……」


 ドン引きしているレンリだったが、そもそも初対面の相手に喧嘩を売ってきたのは向こうなのだから心外だ。

 それを受けて、少年は

「臭くないもん……ちゃんと歯磨きしてるもん……」

 と顔を覆う。湿っぽい語調になる。

 かと思いきや、引き攣った顔を持ち上げて

「なーんて、冗談冗談。ちょっとしたスキンシップになにマジになってんの」

 と言ってのける。


「声震えてるんだよ陰キャ。距離感間違えてんだっつーの陰キャ」

「うるせーぞ貧乳陰キャ。話進まねーだろうが」


 鳴からの辛辣な横槍が入り、これ以上の口論は遮られた。

 そのうえで彼女は士羽を顧みて言った。


「で、結局コイツはどこの誰さんよ」

「東棟二年、楼灯一」

 頼まれもしないのに、と言うよりもあえて本人を避けたつもりだったのに、少年は進み出て名乗った。


「いわゆる、『運び屋』だ」

 そしてその役割も、漠然ながら。


「運び屋』? 貴族のおぼっちゃまの間違いだろ」

 東棟といえば未来の日本を背負って立つと言われるエリート、才人、サラブレッドの養成所とされている、別次元のコミュニティだ。

 だからこその揶揄を込めて返す鳴に、彼は鍵の束を見せた。

 やたら見慣れた意匠に、同一化された規格。

 中には、『輸送兵』の駒も括られていた。

 はぁん、と鳴は得心の声をあげた。

「つまりはこっち側の人間ってことかよ」

「あぁ、それも『旗揚げ』以来の生え抜きよ」


 灯一は鍵をさっと上着の内ポケットにしまった。


「そもそもオレは、おたくが思ってるみたいなエリートじゃねぇよ。たまさかお嬢様に引きずられて……まぁともかく、色々と難儀な制約はあるが、色々特権特典もあってな。この稼業もそいつを利用させてもらってる」

「だからその稼業っての、『運び屋』なんなの」

「聞いてないのか? 『旧北棟』へのだよ」


 ふと漏らしたレンリのワードに、少女ふたりは反応した。


「そこの鳥公の存在も含めて維ノ里からだいたいの経緯は聞いてる。お前らも行ったように、あの隔絶された空間には日常品さえ送ることが難しい。送るにしても西の連中は法外な値で売りつけてやがるし『委員会』はそれを黙認してやがる。そこでオレや桂騎の出番ってわけよ。あいつらとは別口で、かつ安価で売ったり貸したりする」

 なるほどと歩夢は首肯し、鳴はそれなりの重量を持つ紙袋を持ち上げた。

「つまり、お礼として用意させられたコイツは、あんたが持ってってくれるってことか」


 『旧北棟』への迷惑料と諸々の手配の返礼。

 発案は士羽とレンリ、それぞれ別口からだったが、歩夢にしても迷惑をかけたうえに鍵まで逆に貸したり譲られたりした負い目がないわけではないから、その案に一応は乗った。


「その通り」

 灯一はバチリと鳴らした指を鳴に突きつけた。

 された側は露骨にイラッとしていた。傍目から見ていた歩夢もちょっとクるものがある。


「でも、素直に食べ物とかの方がありがたいんじゃない」

 歩夢は珍しく忖度して話と少年の注意を逸らした。


「まぁそのあたりは、南部のワン子と一緒だな。個人レベルだから大量に運び入れる手段がないし、あまりやり過ぎると睨まれる。運べる品目と量が限られる。いくら治外法権の東棟の、多治比に匹敵する旧家輪王寺の肝煎でもな」


 なるほど。今度はレンリが言った。

 だからプレゼントを届けるにしても、無難なもの、それも個数で分ける必要なく共有できるものが良いということだ。


 すなわち映像。つまりは映画。

 その発想の帰結は安直ながらも効果的であるとも言える。

 特典なしの円盤なら一万を切らないぐらいでプレゼントとしてはちょうど良い塩梅の金額だろう。

 衣食住に関わる物品も欠かせぬものではあるが、娯楽なくしても人は精神を保てない。

 ましてや、あんな狂気と隣り合わせの空間では。


 ようやく歩夢もそこに来て自分が準備したものの意図を察した。


「とまぁオレの場合は、こういう類専門の取引をさせてもらってるわけだが」

「こと、貴方はその目利きにも長けているでしょうからね。『ゲンタイスイ』の顧問殿」

「減退衰」

「なんか勢い弱そうな組織だな」


 また耳慣れないキーワードである。その顧問と士羽に言われた少年は良い顔をしなかった。


「『現代大衆文化研究推進委員会』……まぁギークがナードを当てこすって遊んでる暇つぶしサークルだよ。オレは見ても分かんないとは思うけど隠れオタクでさ」

「意外でもなんでもない。あんたが隠せてる気になってるだけでダッセェ私服と整髪料のきつい髪、早回しの長ったらしいセリフとかどっかのアニメキャラのエミュっぽいジェスチャーとか、どう見ても、徹頭徹尾、クソオタのそれだよ。それも人に嫌われるタイプの」

「それをズケズケ指摘するオドレもたいがい日陰者じゃクソ貧乳ッ! ……とにかく、そんなわけでオレはそーゆーワケの分からん集まりとか『北棟』のレクリエーションのアドバイザーってわけだ」


 それで、状況を説明するため、必要最低限の身の上語りは終わったのか。

 彼はやや自己嫌悪で気落ちした様子を見せつつも、すでに席を予約したカラオケルームへと向かうべく一行を先導し始めたのだった。

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