(22)
仕様を本来のものへとすべく、歩夢と鳴の持っていたホールダーは一端士羽によって回収されていた。
寒冷地用のパーツは材質も柔らかく防御性に不安な点も多く、熱も逃さないようになっているのでこと今の時期には不向きであるためだった。
「サンキューな」
「……別に、礼を言われるようなした覚えがないのですが」
夕暮れのラボにて歩夢の分も含めてそれを手渡すとき、的場鳴はおもむろに士羽へと謝意を示してきた。
怪訝そうに柳眉を寄せる少女に、鳴は曰くありげに肩をすくめた。まるで「素直じゃねー奴」と一方的に言われているようで、少し腹が立ったが議論を交わしても無駄だろう。
問題が起こったのは……否、すでに発生していた問題が表面化したのは、曰くありげな表情のまま鳴が下校した後のことだった。
いざ『旧北棟』での戦闘データのバックアップを取るべくソフトウェアを確かめていた時だった。
「なんだ、これは……っ!?」
処理速度が格段に上がっている。鳴のみのものではない。歩夢のデバイスのそれのコードも、先のチェックとはくらべものにならないほど、ほぼ別物とさえ言ってよいほど書き直されていた。
そしてそれは、彼女の身に覚えのないことだった。
システム開発者であるはずの自分が及ばないほどに洗練された、無駄のないプログラム。
接続されたモニターに表示されたその羅列を目で一通り追うと、頭痛と妬心が士羽の頭を苛んだ。
一体、誰がこんなものを。少なくとも、これを組み換えたものは、自分よりも数手先の技量とセンス、そして経験値の持ち主だ。
――いや、そもそもこのCWタイプの存在自体がそもそもの最初から異常だった。
何故、これがここに在る?
複製? 否、そんな生易しい答えで解消できる疑問ではない。
深いため息とともに、彼女は鍵付きのキャスターの中、廃材の中から一個のガラクタ、数個の鉄塊の集合体を引き抜いた。
「――やはり、どうあっても。すべての疑問と疑惑は、アレに帰結されるというわけですか……」
そう独りごちて、デスクの上にそれを置く。
翼がひしゃげて全身が焦げ付いた、鋼の鳥の模型。
その尾翼の付け根をあらためて一瞥する。次いで、歩夢のリペイントされたデバイスの同部位を。
そこに刻まれていた個体番号。
判読できる限りその数値は、まったく同一のものを示していたのだった。
東奔西走とは言うものの、俺たちの場合は北奔南走とも言うべきか。南船北馬は全然違うか。
北の始末がようやくついたと思いきや、今度の戦場は南の分校。
蒼海に隔絶された楽土。引き絞られる灼熱の太陽。陽気でお気楽で奔放な彼らのバトルに当てられて、ちょっぴり歩夢もダイタンに……? そしてあの引きこもりもようやくその白衣を脱ぐときが?
次回『灘と、ナギサ』
あ、その前に番外編入りまーす。




