(6)
風の塊が、ヒビの入った窓を割る。
内側へと飛び込んできたガラス片は、怪物への側面へと吹きつけられた。飛び退いたのは、ガラスに痛みや驚きを覚えたからではなく、内部に舞い込んできた風の塊の中に、三種の色を見出したからだろう。
やや灰色がかった白。
くすんだ朱色。
剥げかけた黒。
それら年季の入った三色で構成されたそれは、胴体の割に大きな翼を広げて長い首をのけぞらせた。
それは水鳥のような姿をした、傷だらけの鉄塊だった。
「『ストロングホールダー』……しかも何だこのタイプ……?」
今まで余裕に満ちていた桂騎の声音から、初めてそれが抜けた。
「……ストロング……なに? っておわ」
当惑しているのは歩夢も同じだ。聞き慣れない単語に追及するまでもなく、回り込んだ鉄の鳥は歩夢の腰の裏に張り付いた。
格納されていたと思われる鉄の帯が、彼女の腰に巻きつく。
本体たる鳥が変形し、その両翼は左右に分かれてベルトの上をスライドしていく。
右翼は鞘ぐるみの短剣に、左翼はホルスターと銃に。
変形したそれぞれの武器に寄り添うように、割符のようなスロットが広く取られている。
その溝はちょうど、彼の使っていた鍵にも似ていた。
歩夢の肉体の奥底が、流動した。
熱く囁く何者が、身体の外部へと吸い出されていく。量子となって細胞間をすり抜け肌から流れ、シャツとブレザーの繊維の隙間から、こぼれ落ちたそれは固形物となって、ベルトのそのスロットに収まった。
〈軽歩兵〉
腰の後ろで、抑揚なく、人の言葉で鳥が啼く。
大地を踏み鳴らす足音のようなBGMが鳴り響く。
ブロードソードの幻影が、彼女の背後の空間に、一本伸び上がる。
脳髄に、情報が流し込まれるようだった。
苦痛と吐き気とともに、半透明に控えるソレの扱い方が刻まれる。
歩夢は念じる。みずからが手に入れた刃に、眼前の敵を排せよと。
彼女の声なき声に従って、剣が翔ぶ。
多少制御のきかないきらいはあるが、彼女の想った大体の軌道を描き、彼女の想像以上の速度でもって怪人の側面を突いた。
桂騎は舌打ちしながら、猛犬でも振りほどくように剣をいなしながら、後退し、距離をとった。
「良かった。間に合った」
強く噛みしめるように、深く安堵するように、誰かが言った。