表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第一章:ウヅキ、胎動
7/185

(6)

 風の塊が、ヒビの入った窓を割る。

 内側へと飛び込んできたガラス片は、怪物への側面へと吹きつけられた。飛び退いたのは、ガラスに痛みや驚きを覚えたからではなく、内部に舞い込んできた風の塊の中に、三種の色を見出したからだろう。


 やや灰色がかった白。

 くすんだ朱色。

 剥げかけた黒。


 それら年季の入った三色で構成されたそれは、胴体の割に大きな翼を広げて長い首をのけぞらせた。

 それは水鳥のような姿をした、傷だらけの鉄塊だった。


「『ストロングホールダー』……しかも何だこのタイプ……?」


 今まで余裕に満ちていた桂騎の声音から、初めてそれが抜けた。


「……ストロング……なに? っておわ」

 当惑しているのは歩夢も同じだ。聞き慣れない単語に追及するまでもなく、回り込んだ鉄の鳥は歩夢の腰の裏に張り付いた。


 格納されていたと思われる鉄の帯が、彼女の腰に巻きつく。

 本体たる鳥が変形し、その両翼は左右に分かれてベルトの上をスライドしていく。


 右翼は鞘ぐるみの短剣に、左翼はホルスターと銃に。


 変形したそれぞれの武器に寄り添うように、割符のようなスロットが広く取られている。

 その溝はちょうど、彼の使っていた鍵にも似ていた。


 歩夢の肉体の奥底が、流動した。

 熱く囁く何者が、身体の外部へと吸い出されていく。量子となって細胞間をすり抜け肌から流れ、シャツとブレザーの繊維の隙間から、こぼれ落ちたそれは固形物となって、ベルトのそのスロットに収まった。


軽歩兵ライト・インファントリー


 腰の後ろで、抑揚なく、人の言葉で鳥が啼く。

 大地を踏み鳴らす足音のようなBGMが鳴り響く。


  ブロードソードの幻影が、彼女の背後の空間に、一本伸び上がる。


 脳髄に、情報が流し込まれるようだった。

 苦痛と吐き気とともに、半透明に控えるソレの扱い方が刻まれる。


 歩夢は念じる。みずからが手に入れた刃に、眼前の敵を排せよと。


 彼女の声なき声に従って、剣が翔ぶ。

 多少制御のきかないきらいはあるが、彼女の想った大体の軌道を描き、彼女の想像以上の速度でもって怪人の側面を突いた。


 桂騎は舌打ちしながら、猛犬でも振りほどくように剣をいなしながら、後退し、距離をとった。


「良かった。間に合った」


 強く噛みしめるように、深く安堵するように、誰かが言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ