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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第五章:ヒョウリュウの、教室
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(6)

 その『鍵』は、それぞれの色、形を持ち、宝石にも似た光沢を放つ。いや、それは注視してみると、宝石にも勝っているとさえ思う。心の奥底を揺さぶられるような妖しさと光は、白い闇の中、枕下に置いても少しも損なわれることがなかった。

 もっとも歩夢は宝石自体を、生まれてこのかた見たことがなかったが。


 この悪天候では昼夜の境さえも曖昧だが、疲労を重ねた肉体が早急に床に就くべきと歩夢に訴えている。

 特別にあてがわれた教室。そこにもぞもぞと薄い毛布の中に身を埋めてはいるが、布団越しに伝わる床の硬さと冷たさが、幾度となく襲ってくる睡魔をよくも悪くも跳ね除けていた。


 仕方なく歩夢は、寝物語ついでに聞くことにした。

 そも『ユニット・キー』とは、グレードとは何ぞやと。


 レンリは歩夢と同衾しながら、それに応じて小声で答えた。


「こいつらが『上帝剣』の放つ因子をストロングホールダーによって結晶化したものってのは、前に話したっけか?」

「うっすらと、ぼんやりと」

「なら結構。で、どうやらあのバカでかい剣は、どうにも進化に必要なものは『闘争』であると学習してるみたいでな。だから、その惑星の分かりやすい力の象徴、つまり武器や軍事力といった要素を接着したその惑星から汲み上げ、それをキーやレギオンの特性に反映させる。よってホールダーは陣形……八陣図の概念を取り入れている。基になっているのが軍事的なシンボルなわけで、エネルギー循環の相性がいいからな」


 はぁ、と歩夢は生返事。

 いい感じに頭が重たくなってきた。やはり見立て通り、脇道に無駄に逸れる小難しい話は、絶好の睡眠導入剤となっているようだ。

 そもそも、どことなく誇らしげに(ドヤ顔で)説明しているような気がするが、造ったのは士羽だろうに。


「――でまぁ、ここからが本題なんだが……この結晶(キー)はな……生きてるんだ」

「はぁ」


 寝落ちしかけの歩夢の脳裏に、多脚を生やして虫の如くうごめく鍵の姿があった。


「『ユニット・キー』には『上帝剣』同様にシナプスにも似た回路が内蔵されていてな。環境や経験によってその形状をユーザーの適性に合わせて書き換え、増殖する。その内部構造の緻密さ、頑丈さや能力の優位性でそこからさらに格付けがされる。それがグレードって奴だ」

「じゃあ、昼にこの駒が増えたのって、いわゆるグレードアップ的な?」

「そゆこと。散々走り回って守りに入ってたからな。それが反映されて、お前の『歩兵』は成ったってわけだ……むぎゅ」


 得意げにうそぶくレンリの後頭部を、すらりとした素足が踏み込んだ。

 他でもなく、隣で横になっていたはずの鳴のものだった。

 もっともそれは害意あってのものではなく、ただ進路の先に黒くて丸くて邪魔な物体があったというだけのことだ。


「講釈はけっこうなことだけどな」

 だが、会話の内容については多少思うところがあったらしい。ヒーターの手前に干していた靴下を履きなおし、靴を取り出しながら彼女は言った。


「ソレ光らせるのはやめておけ。ここじゃヘタすりゃ他人の命以上に価値のあるものだ」


 そう指摘されて、歩夢はみずからの三種のユニットを布団の中にしまいこんだ。

 そして部屋を出ていこうとする鳴の背に「どこに行くの?」問いかけた。


「典子のとこ。夜中に目覚めてパニックになったらいろんなとこに迷惑かかっちまうだろ」


 正直に心配だと言うか適当にはぐらかせばいいものを、案じる方向に微妙にズラしつつ言うあたり、鳴の性質が良く出ている気がした。


 そのまま部屋を出ていく。

 だがそれによって冷風が部屋の中に吹き込み、

「さぶっ」

 おかげで余計に目が冴えてしまった。

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