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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第十章:カガミの、迷宮
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(2)

 学園祭より、半月が経過しようとしていた。

 その間、あの征地絵草が戻っては来ないなどの不穏なトラブルは続いていたものの、概ね平和だった。


(いや、あれがいない方が学校、静かなんじゃない?)

 穏やかな足取りで、足利歩夢は学舎に登校する。

 暴の化身である絵草が消えたことで、少なくとも歩夢の眼前から、争いごとは消え失せた。足下に伴うカラスを狙うような輩や謀も、どうやらナリをひそめたようだ。


 天下泰平、日々是好日。この後の二年も、かくあれかしと願う。

 横に何か城が出来ているが、無視し校門を潜る。

 生徒がざわめき教員たちや警備員がそれを抑えて授業に行くよう強いて促しているが、さほど効果はないようだった。

 そこに、的場鳴が合流してきた。


「おい、なんか凄いことになってね?」

「何も無い。何も聴こえない。あんたの胸で何も見えない」

「そこまでデカくねーよ馬鹿。お前、だんだん発言がその鳥に影響受けてね?」

「受けてない」

「そうだぞ、俺だったら、異変を口実に何も言わずにおっぱい盗み見てる」

「悪い。ホンモノはキモさのレベルが違ったわ」


 レンリの丸い背を蹴り飛ばす。かつてはもっと派手に踏みにじっていたものだが、曰く

「それはそれで下から覗く口実を与えるから」

「そこまでいくと、あとは命のやりとりしかなくなる」

 とかなんとか。


 そこで命を摘み取るという選択をとらない辺りが、鳴の美点であり、甘さであり、このセクバ(セクシャルハラスメント・バードの略)をつけあがらせる要因なのだろう。


 はぁ、と嘆息とも呆れともつかない調子と共に、歩夢はあらためて、目の前にそびえたつ現実を仰ぎ見た。

「こりゃまた、大したもんだこと」

 方角的には、たしか東棟に位置する。昨日までは無かった場所に、突如として灰色の、レンガのような材質を持つ壁が築かれていた。それが周囲一帯をすっぽりと囲んでいるようで、戸口、門扉のたぐいは少なくとも歩夢の見る限りでは確認できない。


 ただその向こうでは、、かの『上帝剣』と並立するかのように、あるいは競うかのように、楼閣と思しき円塔状の突起が天を衝かんばかりである。


「なんなのあれ。パンピーにも見えてるみたいだけど」

「まぁ、間違いなく、『ユニット・キー』絡みだとは思うけどな」

 そう言って歩夢と鳴の目は、足下のレンリに向けられた。


「『ダイダロス』」

 だがその疑義に答えたのはカラスの嘴ではなく、少女の声である。


「東棟生徒会長にして管理区長、輪王寺九音の所有する『ユニット・キー』。その特性ですね」

 学生カバンを手に現れたのは、言わずと知れた維ノ里士羽女史である。

「周囲を異界化、自らのテリトリーとして支配下に組み込む。そこの鳥の持つ『コンキスタドール』の下位互換といった能力です」

 視線を同じくその城に向けつつ、知れ切った挨拶など無用とばかりに省きつつ、彼女は続けた。

「……だな「

 短い応答、わずかな首肯めいた動作によって、レンリも同じ見解を持っていることを示した。


「てことは、また生徒が……九音先輩が『ハイレギオン』化して、暴走してるってことか? 南、西と来て今度は東か?」

「さて。そこまでは断定できませんが」

 眉根を寄せる鳴の横を、止まることなく士羽は通り抜けていく。


「強いてこちらから動かずとも、厄介事ならどうせ向こうから持ち込まれますよ……これまでと同様に」

 シニカルな笑みと共に、去っていく彼女の背を、鳴は硬い表情のまま見送る。


「……あいつ、なんか様子おかしくね?」

 などと零しつつ。

 学祭以来、意図してかしないのか、まともに顔を合わせていなかったというのもあるが。

 以前の張り詰めた空気や、終始陰鬱で悲観的な面持ちとは無縁の、何やら落ち着いた態度でいることが、鳴には引っかかるところがあったらしい。


「さぁ」

 対して歩夢は平静そのもの。いつもと変わらない。何にも同じた様子もなく、ぞんざいに言い捨てた。

「わたしには、いつもと変わんないように見えたけどね」

 そう返しつつ、レンリを伴い、歩夢は士羽とは別の方向から校舎へと入っていったのだった。

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