(20)
「三竹の策だけどさー、乗ると思う? 彼女は」
「……ありえないだろうな。妥協で済むならあぁはなっちゃいない」
「それに多治比三竹がどれだけロクでも無いか、身をもってあの人は知ってるはずだ。十中八九、本校にいるあんたらを狙ってくる」
「来ると分かっているのなら簡単だ。オルガナイザーの修復は終わっている。俺が迎撃に行く」
「あんたに、その権利があるのかい?」
「……無いよ」
「でも、覚悟と答えは、決まっている」
〜〜〜
「お前が何者なのかは察しがつく。気持ちは、その憎しみは理解している……それでも、どうしてもこの先へ進むというなら、俺を倒してからにしろ」
人の姿を棄てた者たちが、人の棲めぬ魔界にて対峙している。
常世の事物、その痕跡が所々に見受けられる。
だが、全てそれは過去の遺物だ。幻想となってしまったモノたちでしかない。
「決めたんだ」
車輪の怪物は、少女の気配を多分に残した声で、そう問うた。
鷹揚にカラスの魔人は頷いた。
「今更だね」
多治比衣更はそのレンリが何かを反論めいたことを言わんとするのを遮るかのように、すかさず返した。
「最低だよ。あんた」
非難というよりも、憐みさえ感じさせる語調でもって。
「……それは、俺があの日からずっと、自分自身で思い続けてきたことだ」
だからこそ、彼は退かない。揺るがない。
確かにあの時自分は、選ばなかった。
そして今は誤った道に進もうとしている。
絵草の処断を乗り越え、死に殉じるのを止めて、そして歩夢の言葉を受けて、全て呑み込んでここに立っている。
「今更は、お互い様だ。あいつには、俺と違って何の罪だってないはずだ……お前が、何をしたところで……俺たちの世界は」
「それをあんたが言うな!!」
読み取れる表情など、あろうはずもない。
だがその奥底にある少女の表情は、間違いなく憤怒と悲壮に染まっていたことだろう。
焦土を踏み締め、にじり潰す異形の足裏が、それを物語っている。
「あんたには分からない! そして、澤城くんや輪王寺さんとは違う! 誰かがやらなきゃいけないんだ。たとえこの魂が一片でも残っている限り、あたし達の生きた証を、爪痕を、その轍をっ! 残さなきゃいけないんだ!」
金属質の響きを帯びた怒号を放つや、衣更はレンリへ飛びかかる。
レンリはそんな彼女を正面から受け止め、そして組み打つ。
地を削る踵から生じるは、極彩色の火花。果たしてそれは、摩擦のためか。両者の激する感情がゆえか。
創り出された運命の地で、取り残された者たちが激突する。