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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第九章:祭りの、シマイ
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(19)

 多治比衣更は、己の能力(カラダ)を想う。

 変容した『鍵』と同化して異形に変じる。それがために『ユニット・キー』との同期はデバイスを介するより深いものとなり、100%に近いポテンシャルを引き出すことが可能となり、そして能力の一部を空間を跳躍させることさえ可能となった。


 南洋に送り込んだ車輪を自らの手元に引き戻し、戦車の怪物は城壁がごとき西棟の屋上より大地を俯瞰する。数多の催し、展示物、それに興じる人がいるが、衣更が視るのはただ一人。

 足利歩夢。

 祭典を楽しんでいるのかいないのか分からないのは、遠目に望んでいるからではなく、本人の表情作りの拙さゆえだろうが、その足取りは気持ち軽めで柔らかい。


 ――だからこそ、彼女が憎い。

 そしてその憎悪は別としても、あれは今すぐにでも死なねばならない。


 澤城灘はあくまで人間として、深潼汀に挑むことを本懐としたようだったが、彼とは別の路を行く。

 ここまでの過去と、残された時間(ロスタイム)を想えば、そしてたまさか与えられたこの力と宿業を考えるのであれば、


(あれは、死ぬべきだ。殺してしかるべきだ)


 そう決意を新たに、あるいはしきりに言い聞かせるように。

 ハイチャリオットレギオンは虚空にその先に居る歩夢に手を差し向ける。

 狙うは奇襲による即時決着。そのための陽動。戦力を削り、残るメンバーを油断させたのは全てこの一挙がため。

 己が抱く空間の中に奴を引き摺り込み、孤立し動揺の中で一息に屠る。


「死ね、足利」


 呪詛と共に彼女の指先から亜空間が広がる。

 ターゲット含めた余人が感知することも出来ないまま、空にドームを作り上げるように拡張を続ける。

 やがて造作もなく、彼女を取り込むだろう。


 ……と、見込んでいたそれが、突如として停まった。

 押し戻される。否、逆側から塗り潰されていく。

 世界が燃える。地獄が、彼女の混沌の空間を業火で焼いていく。

 まるでパネル状に区切られたモニターが一基ずつ切り替わるように、正確に規則正しく、炎天が覆い、黒き木々が植わり、死の途が敷かれる。

 気が付けば逆に衣更がその世界に、校舎の狭間に呑まれていく。


 そして中央にそれを為す何者かが、いる。

 黒い外殻外皮、そして翼。碧の光を湛えた相貌が、名状しがたい感情を、彼女へとぶつけてきている。


 カラス。レンリ。姿を変え、名を変えた男。

「お前の狙いは読めていた。彼女の下へは行かせない」

 彼は衣更と同じように手を前方の中空にかざしながら、低く枯れた声音を使った。

 

「お前の居場所はこの『学園』で、憎むべきは俺だ」

 

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