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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第九章:祭りの、シマイ
165/187

(3)

 学園祭の準備、始まる。

 その空気を肌で感じ取った生徒たち。

 反応は学年ごとに、たった一、二年の差だというのに、様々だった。

 三年生はこれが最後とある種の悲壮さと覚悟を帯びて。

 二年生はある程度の慣れによる安堵と余裕で。

 そして一年生は、手探りゆえの溌剌さと活気でもって。


「……だが、その経験差(アドバンテージ)など、無いに等しい!」

 と豪語するのは、歩夢のクラス委員である。


「昨年は事故の影響で、地元の商店街とか南洋のスペースとか借りてやったらしいけど、今年からはちゃんと学園内でやるんだ! つまり、二年生にとっても同じく不慣れな状況。加えて三年は受験とか進路相談とかで足並みが揃わない! 一年の勝機も十分にあるぞ!」


 教壇に在ってさながら軍事作戦のように意気揚々と説明をする彼に、歩夢の四方からは囁き声が聞こえる。


「ヤケに気合い入ってるねー」

「なんか最優秀賞もらえれば、かかった費用を肩代わりしてくれるらしいよ」

「マジで? じゃあ浮いたお金でみんなで打ち上げカラオケとかさー」


 その熱に当てられたか。教室にやる気が充溢していく中、歩夢ひとりは己を保っている。所詮自身には関わりのない、ただの学校行事と割り切って醒めた目で眺めていた。

 我こそは、孤高にしてミステリアスな一匹狼(クールビューティー)。そのスタンスは、言外ながらもその頬杖を突いた姿勢からも伝わってくることだろう。


「でも、いまいちパッとしないアイデアだよなぁー……ありきたりというか」


 と、誰ぞ男子が指摘した通り、黒板に書かれたラインナップはメイド喫茶やお化け屋敷など、


「だからって稼ぎに行くなら鉄板は避けんないだろ」

「て言うか、売り上げだけでその最優秀賞とやらって貰えるもんなの?」

「インパクトももちろん必要だけど、それよりも大事なのは中身だよ中身! リピート性とかバズりとかも、きちんと念頭に置いてだな……」


 議論は紛糾する。あれやこれやと詮議しつつ、無造作に膨れ上がっていた案は絞られていく。

 そしてやはりというかなんというか、残っているものの大半は飲食関係、それもいわゆるコンセプトカフェ的な形態のものである。


「でも、こういうのやるにしてもさぁ」

 そのうちの一つを指差しながら、一人の男子が言った。

「華みたいなのが欲しいよな。たぶん他も同じ考えだろうし。ウチならではってのが」

「ウチならでは……て、南洋じゃあるまいし、どこにでもあるフツーのクラスなんですけど」


 訳を知る歩夢には、皮肉としか聞こえないコメントだ。

 言わずもがな、学園の生徒教職員の何割かは、どこぞから遣わされてきた『上帝剣』絡みの人間か裏の事情を知る人間だろうが、歩夢のクラスは一般編入の生徒ばかりだ。もっとも、それでもやはり数人は紛れ込んではいるだろうが、それをみずから曝け出すほど愚かでもないだろう。


「華、名物……」

 思案顔で教室内を見回していたクラス委員の男子生徒の視線が、普段は振り向けることのない位置……最後列の一角、足利歩夢の席にて留まった。


「居たァー!?」

 と、頓狂な声をあげてその男子は歩夢を指差した。その動きに誘導されて、視線が集中し、一部はハッとした。


「そーだよ、脳と目が理解を拒んですっかり忘れてたけど足利がいたじゃん! 無駄に顔だけは良い!」

「体型も、詰め物と上げ底すればどうにかいけるって!」

「照れる」

「あのトンチキな言動さえ封印すれば、十分に客寄せパンダとして行けるって!」

「黙っててくれさえいたらそれでいいからっ」

「そうかなぁ」

「足利さん、前にメイド喫茶やってなかった? 経験あるよね!?」

「居た店ではリゼロのレム並のメイドヒロインと言われてました」

「根拠のない数段飛ばしの増長ぶりが、ここにきて頼もしい!」」


 そう言ってやんやんやと、ともすれば胴上げしかねないほど持ち上げていくクラスメイトたち。

「やってくれる!? 我がクラスの看板娘!」

 と口を揃えて言うのに対し、しばし歩夢は口と目を半開きして見返していたがやがて、無表情のままサムズアップを両手で掲げ、

「任せて」

 と快諾した。


 【朗報】足利歩夢、学園祭に意欲。

「今年のミス剣ノ杜は、わたしのものだ」


 〜〜〜


「と言うわけでわたし、おだてられてやることになっちゃった。とんだシンデレラガールだよ」

「いやそれは……もう隠すことなくおだてられてさえもいないな!?」

「シンデレラというか、裸の王様の間違いだろ」


 だが現実は常にして非情なもの。

 その後、保健室の溜まり場にてレンリと鳴に正論という名の冷水をぶっかけられた歩夢であった。

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