(1)
今でも、夢に見る。
燃える校舎。焼け落ちていく世界。黒炭となっていくいきもの。交錯する閃光。死にゆく人々が折り重なって描かれる、地獄曼荼羅。
煉獄の光景。
それら全てから背を向けて、逃げ出した自分の、早鐘のような鼓動。卑怯者の呼吸。噛み締める無力さ。
鋼鉄の隔たりの冷たさ、固さ。
「そこにいるんだろ!?」
と、必死にその奥にいるだろう人間に呼びかける。
「灘にいちゃんが死んだ! 九音さんも、西棟や東棟のみんなも! 絵草さんが抑えてるけど、もう無理だ! みんな、みんな死んじゃうよぉ!」
扉に打ちつける拳の痛み。皮膚が破れるほどに殴りつけても、反応のない虚しさ。
「おれが悪かったなら謝るから! どんな償いでもする! だから……だから許してよっ! みんなを……おねえちゃんたちを助けてよぉ!!」
どれほど哀願しようとも。
どれほど自身を傷つけて謝罪の証としても。
その扉を開かない。
奴は心を開かない。
それでも、世界が破滅を迎えるその時まで。
涙も声も枯れ果てる、その時まで。
彼の名を、叫び続けた。
〜〜〜
「……っ!?」
レンリは、自身の巣箱から、いきなり殴りつけられたかのように飛び起きた。
早鐘を打つ心臓を押さえながら、辺りを見回す。
時計が示すのは午前二時半。そしてここは煉獄などではなく、この世界の足利歩夢の寝室だ。
去来したのは、戸惑いだった。問題なのは忌まわしい過去を夢の中でリフレインしたことではない。
「寝てたのか、俺……」
世界が滅んでよりこの方、満足に眠ったことなどなかった。
そんな自分が、ただの一瞬でも意識を虚に沈むことなど。
レンリは、闇の中で左右に目を配る。
巨大な芋虫がごとき、異形の影がすぐそこまで伸びていた。
驚き飛び退くレンリだったが、それは両腕を前方に投げ出して突っ伏す、足利歩夢の寝姿だった。
「いや、どんな寝相だよ」
と呆れながら、自身は二足歩行の姿に戻り、いそいそと同居人を抱え上げて、ベッドの上に戻す。
悪夢で悲鳴をあげて起こさなくて、良かったと思う。
たとえ一瞬でも、微睡があったのはきっと彼女のおかげだ。
港でのあの表明、あの眼差し。
自分の
「助けられるつもりが、まさか助けられることになるなんてなぁ」
などと独りごちた矢先、ふと鏡に自分の顔が、表情が映り込む。
「……『助けられる』だと? お前、まだ自分が許される気でいるのか」
鏡像の顔に、そう問いかける。
綻びかけた表情は、自身への失望の真顔へと変わった。