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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第二章:上帝の、ツルギ
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(5)

「……まぁ、とは言え」

 生徒会長は肩をすくめて見せた。


「たしかに委員長権限でもって召集をかけたのは私だが、同時に私自身が客人でもある」

「と言うと……?」


 怪訝を示したのは、妹にフードを引かれたままの和矢だった。


「私たちを招いたのは、別にいるということだ。……いい加減、顔ぐらい見せたらどうだ? 『元』委員長」


 そう示唆されるや、ちょうど剣の根本。黒々と原始の植物が生い茂る庭園に、それとは不釣り合いなぐらい清められた白衣の女が現れた。


 剣の前に回り込んだ彼女を認めた比較的新参のメンバーの中には、釈然としない者もいた。

「誰?」

 と、声に出して側の同胞に問う者もいた。


 だが、実際に面識のある者、そうでなくともその目を惹く容貌や特徴からその正体を悟った者は、彼女の登場に目や顔の色を変えた。

 愛想を母親の中に置き忘れたような白景涼でさえ、軽く目を見開いていた。


 維ノ里士羽。

 自分たちが用いているシステムの親。

 大人たちが表面上は(・・・・)マトモに取り合わなかった状況下で、上帝剣やその因子の実在を提唱し、証明し、応用した天才。


「知らない者もいるだろうから、あらためて紹介をさせてもらおうかしら」

 そう、絵草の背から影が進み出た。

 和物のテイストを含んだカーディガンを羽織り、長い髪を簪をモチーフにしたヘアピンで髪を結い上げた様は、花魁や傾奇者を彷彿とさせる。

 学校生活の中で彼女がそういうものを身につけているところを見たことがないから、自分と同じ理由なのだろうと灯一は推理した。

 それが生徒会副会長、賀来久詠だった。


「彼女は維ノ里士羽。この『対策委員会』の、創立者。唯一にして初の、脱退者」


 多分な意趣を含んだ言葉にも、氷の美女は表情を変えない。それどころか、一斉に視線を注ぐ誰にも目線を返さない。


「現在もなお我々を取り巻くこの異常現象について、新たな発見があります。その報告をしようかと思いましてね、一応」


 身体をあらぬ方向へと向けたまま、ただ口だけを動かしていく。


「……へぇ?」

 多治比の末妹は挑発的な笑みを浮かべる。

「今まで隠者を気取ってるだけと思ってましたけど、進捗はあったみたいですね。てゆーか、フツーそういうのって、独り占めにしません?」


 三竹の眇めた目に浮かぶのは、猜疑心と純粋な好奇心と、あとは野心か。

 おのが妹が衝突を生み出している。その事実そのものから逃げるようにして、和矢は距離を作ろうとしたが、やはり次女の拘束から逃れることに失敗していた。


「よく、わかっているではないですか」

 何に起因するものかは知らないが、感情の色のようなものが、士羽の瞳の光に、かすかにさざめいた。


「いかにも私は隠者ですよ」

 多くの人間の眼下にある維ノ里士羽は、証言台か、あるいは断頭台に立たされた罪人のようだった。

 白衣の少女は、そこでようやく元の同志たちへと視線を返した。


「あなた方の生存競争にも」

 雪を積もらせる白景涼や仏頂面の南部真月を冷視した。


「金儲けにも」

 多治比兄妹へと無感動に首を傾けた。


「正義だとか秩序だとか興味はないし、いずれに与する気も関わる気もない」

 厳然と頂点に君臨する軽蔑するかのように見上げた。


「かと言って完全な部外者面でいることもできない」

 そして東棟のサイドに向けられる。

 心なしか錯覚か。灯一には彼女の言葉には、おのれを責めているようで九音や灯一たちを咎めるような音韻があった。


「ただ、事を始めてしまった責任感と、純粋に真実への探究のみがある。こうして打ち明けるのは、痛くもない腹を探られるのが嫌だからです」


 はっきりと、自身の立ち位置を宣明する。

 そこには賀来久詠や多治比三竹のような虚飾や言葉遊びがないからこそ、真摯さは持たずとも真実味があった。


「人嫌いは相変わらずか」

 生徒会長兼委員長は苦笑いした。


「だがそんなお前があえて我々に聞かせようと言う。それは余程の重大事と期待して良いのだな?」


 重圧のある問いかけに、士羽はYESともNOとも答えない。口をちいさく開く。目は、剣の中を流れる星の閃きへ。


「他でもない、この上帝剣の正体について」

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