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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第八章:カラの、玉座(後編)
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(1)

 二年前。剣ノ杜学園本校中庭。

 いつの四季でも美観を楽しめるようにと季節の違う植物が植えられ、その夜はその合間に電飾や旗が吊るされていた。


「ほら、来いよクリス!」

「待ってよぅ、ライカ」

 その葉や輝きの合間を縫うようにして北欧人の若い兄妹はこの片隅に侵入していた。

 この日、学園で執り行われていた創設祭は最終日を迎えていた。昼のパートは一般開放されていたが、夜のパーティーは学校関係者のみの祭典となっていた。

 彼らも彼らで昼の部までは出店を学園の出資者であるという親と共に回っていたりしたのだが、夜は子どもの寝る時間だとかで締め出されてしまった。

 かといって二人でホテルの部屋に押し込められても、やることなんてあるはずもないし、あったとしてこのきらびやかな会食、大人な世界に勝るものがあるとも思えない。


「パパたち、来ちゃだめって言ってたでしょ?」

「父さんたちだけでずるいんだよ。だいたい、七時に寝る子なんていないっつーの。ほら、あっちにも、こっちにも俺たちと同じぐらいの子いるじゃんか」


 嬉しそうに飛行機の模型を取り出して相棒に自慢する白衣の少女。それに呆れながらも話に応じてやる、妙に威圧感のある灰色の髪の少女。

 独り何をするでもなく直立無表情で棒立ちになっている詰襟の制服の少年。

 会話の内容までは日本語ゆえに聞き取れずとも、大人たち相手に見事な受け答えをしているらしい中性的な子ども。それをつまらなさそうに見ている近侍の少年は、他の仲間たちが横から入れてくる茶々にも適当にあしらって答えている。


 引っ込み思案な妹はそんな彼ら相手にも気おくれしているようだったが、兄の方は恐るべきだとは思わない。いつも勝手に腫れもののように距離を取るのは日本人の方だ。言葉は伝わらなくとも態度とは伝わるものだ。


 ふと目を遣れば、その喧騒の中心に少年少女がいた。

 自分たちと同じく兄妹だろうか。聴き取れずとも、そのやりとりには慣れたようなテンポがある。

 その内で一番年上らしい少年と、目が合った。


 視線が重なるなり彼は、何か言いたげに目と口を半開きにした。だが結局は何も言わずに、首を振って俯いた。

 その思わせぶりな態度に、腹が立った。


「よし、そうやってどいつもこいつも無視を決め込むならもっとハデなことしてやる」


 そう息巻いた兄が目をつけたのは、中央に座する、剣を持った人型のオブジェ。その頭頂に掛けられた楓をあしらった帽子である。

 妹の制止と腕を振り切ってそれを奪い取ろうとよじ登る彼にしかし、


「危ない!!」


 と張り裂けんばかりの声が飛んだ。

 意味は分からないが、それが危機を伝える迫力を帯びているのは理解した。


 え? ……と顧みた次の瞬間、悲鳴が上がる。会場全体にどよめきが満ちる。誰も彼もが、天を仰いでいた。

 流星か、衛星か。極彩色の尾を引きながら、剣のごとき異形が、夜空を引き裂いて落下してしてきていることに、少年も気がついた。

 それは瞬く間に像を大きくしつつ、右往左往の人間たちとの間を詰めて、地表へと突き立った。


 その夜が、この爆発が、全ての始まり。

 そして少年、ライカ・ステイレットが妹と言葉を交わした、最後の日となった。

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