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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第七章:カラの、玉座(前編)
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(12)

 巣穴から飛び出て来た荒くれ者の登場に、さしもの歩夢も困惑した。

「なんだってこんな時に……」

 とぼやく一方で、傍らのレンリに目を向け、言葉を傾ける。

「どうすんの、この状況?」

 しかしいつもは口やかましいカラスは、その碧眼を泳がせたままにまともに言葉も操れない状態のままだ。本人はいたって平常心を取り繕っている、もしくはそのつもりなのだろうが、あのライセという少年が現れてから明確に挙動不審になっている。


(この状況、自分でなんとかするしかないっての?)

 と面倒がった矢先、眼前で縞宮舵渡は元は植樹だったらしい針葉樹の幹を武器で削った。

 木片が赤い発光を帯びて鎹の形状を盗り、歩夢の顔の横を高速で過った。


「ぐっ……!」

 その凹みの部分にちょうどレンリの首筋が納まって、勢いに押されて壁へと叩きつけられ、標本の虫のように縫い付けられる。


「悪いな、お嬢。別段俺様はお前さんの味方ってわけでもなくてな。むしろ、鳥を回収して本校への牽制に使わせろとのお達しだ」

 などと嘯きつつ、転じてその手斧(ホールダー)をライカへと向ける。

「というわけで、お前もお前で諦めてもらおうか」

 対する銀髪の少年の反応は、冷ややかだった。

「ハイエナ風情が、吼えるなよ」

 蔑むがごとく目を眇めつつ、手は淀みなくキーを入れ替えていく。


電撃戦(ブリッツ)

 『ダガー』の代わりに、三筋の稲妻のエンブレムを持つ鍵が装填される。


「共同戦線、神速反攻3.30……何人沸いて出ようと、俺には無意味なことだ」

 低く呟くとともにホールダーの引き金を絞ると、中央に伸びていた白刃が爆ぜ飛んだ。周囲にエネルギーの粒子と化したそれが四散した。シャワーのように少年の痩躯に浴びせかけられ、紫電となって纏われた。

 ダガーという宿主を喪った紫の腕は、そのまま少年の四肢を制服の袖口やスラックスの裾を絡め取って縫いついた。


 刹那、一秒たりとも外していなかった視界から、ライカの姿が消えた。

 刹那、歩夢の体は横合いから痛打された。肺から酸素が絞り出され、臓腑が痛みで一時的な機能不全に陥り、身体がきしむ。独りでに首が傾く。

 数秒、その速攻で意識を手放していたかもしれない。


 わずかに垣間見得たのは、視界の端に映る雷光の尾。そして場数の差か、それをきっちりと防いでのける縞宮の姿。

 だが彼が踏みとどまっている合間に、自分たちの隙をすり抜けた雷火(ライカ)は壁のレンリに一気に肉薄した。

 ちょうど都合よく拘束された彼へと手を伸ばす。歩夢は声をあげようとしたが、もはやそれすらも一手遅い。


 が、その手は青い何物かに防ぎ止められた。

 ……あ? という感じに眉をひそめたライカを、直線的な刺突が襲う。鋒先の直撃に、彼の纏っていた電光が散る。


「これは……予想以上に混沌とした状況だな」

 と独語して割り込んできたのは、トルコブルーの長鋒を手にしたメガネの少年。

 澤城灘であった。


 彼は唖然とするレンリの拘束を一閃で斬り外し、落下するカラスをキャッチすると、立ち上がりかけの歩夢の手元に投げて寄越した。

「……それに、あのデバイスは」

 と、かつての自分も使用していた、ライカの武器の補助装置に目を凝らしつつ。


「よう、澤城の」

 と、すでに体勢を立て直している縞宮は同校生に声をかけて、ぞんざいな手つきでホールダーを傾けた。


「なーにトチ狂ってこんなとこまでしゃしゃり出てきやがったんだ? また頭の具合でもおかしくなっちまったか!?」

「それはこっちにセリフですよ、先輩」

 それとなくライカと縞宮を牽制する立場に身を移しつつ、灘は言った。


「あのクソ親父、また懲りずに本校にちょっかい出そうとして入院したって鈴木さんから聞いて。けどどうせ誰か別の人間を差し向けるとは踏んだんで来たんですけど……あんな男に良いようにアゴで使われて管理区長代行として恥ずかしくないんですか?」

「管理区長代行、相当……肩書きだけは御大層なんだが、まぁ雇われ店長が良いとこよ。オーナー様の意向にはよっぽどじゃない限りは逆らえねぇさ。お前こそ、こないだ奢ってやったろ?」

「ぐ……それを言われると中々に辛い立場ですけど」

(世知辛いやら情けないやら)


 灘の揺らぎを見越してのものか。縞宮は校舎の壁をホールダーで殴りつけた。コンクリート片が短槍となって、灘の喉首を狙う。

 だがその弾道上で、火球がそれを迎撃し、落下させた。


 その出処を辿れば、灘の鋒。その刃の付け根に抱きつく、鉄甲船とも鰐ともつかぬ半生物の口腔からであった。


「でも、これは干犯も良いところだ。だから僕が貴方と親父を止める」

 口調は気弱ながらもハッキリと表明し、地に足をしっかり着けて鋒を構えた。


「足利さんにも借りがあるからね。ここは僕に任せて、君らは早く離脱した方がいい」

「こないだもらったブルボンのアソートで返したつもりだと思った」

「……別に、菓子折り一つでチャラに出来たとは思ってないよ」

「まぁ、ありがとう」


 自分でも驚くほど、いつになく殊勝に歩夢は礼を述べた。と言うよりも、礼を代弁していたレンリが絶賛不調子で、多少は社会的にならざるを得なかった。

 軽く頷き返してあらためて逃げるよう促す灘に、歩夢は一度足を止めて顧みた。


「あの小うるさい相棒は来てんの?」

「いや、これは僕の問題だし汀には伝えてないけど」


 小うるさい、で通じる方もどうかと思うが、歩夢の尋ねたいことは伝わったようで、躓くことなく灘は答えた。


「でもあと一人、ここに来てるのは途中に見かけたよ」

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