(1)
的場鳴との通信が切れて数分。維ノ里士羽は、あらためてベッドの上でノートPCのモニターの中で蛇と競り合う足利歩夢を見た。
薄い、と感じさせる少女だった。儚いとは違う。
髪の色が薄い。瞳の色素が薄い。身体が薄い。肌が抜けるように薄い。
言えた義理でないことを承知で言うのであれば、感情の動きも起伏に乏しく、そのため当然存在感も薄い。いや、あえてそう望んでいるのかもしれないが。
ひょっとしたら引率していた教師は、この新入生の姿が見えなくなっていることにクラスに戻るまでに気づかなかったのではないだろうか。
だが目だけは、やたら強い光を持っている。本人がそれを望んでいるかどうかは、ともかくとして。
もう一度鳴から連絡があったのは、そのPCを閉じようとした矢先だった。
通信を開いた瞬間、常にない騒音が洪水となって士羽の耳を襲った。
〈いった!? こいつ、大人しくしろ!〉
雑音。喧騒。嫌いな種をそのままメドレーにしたかのような音声に、彼女は顔をしかめた。
「何ですか騒々しい」
〈や、こいつが噛んでくるんだよっ。無言で、真顔で! オマケにカラスはなんかついてくるしッ! っていうか二人抱えてるしで、いくら肉体の最適化? ってのがされてるにしても、限度があるだろ!?〉
〈……手伝おうか?〉
〈その身体でなにが持てんだよ!?〉
ふだんはめったに取り乱さない鳴が、狼狽している。なんだかよくわからない声も混ざった。
この十分足らずの時間で、事態はより煩雑なものになったであろうことは、容易に想像がついた。
「そのカラスとやらの人物についてはよく知りませんが、数分間無視しておくかポッキーでもくわえさせておけば大人しくなりますよ」
〈ンなアホな……〉
呆れ気味に抗議しようとする矢先に通信を切る。
士羽は、もう一度だけ画面に一瞥を遣った。今更の後悔を自らに禁じ、そのカバーを落とした。
そして紅茶を煎れるべく、申し訳程度の広さしかない給湯室へと向かったのだった。
「……マジで大人しくなったよ」
そんなこんなで、十数分後。
無表情で、さほど美味しくもなさそうにポッキーをぽりぽりとやる少女を脇に抱きよせ、同じくポッキーをくわえた謎の鳥を足下に引き連れ、的場鳴は戻ってきた。




