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剣ノ杜学園戦記  作者: 新居浜一辛
第七章:カラの、玉座(前編)
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(3)

 学園南側、本棟生徒会室。

 最大の収容人数を五十とし、プロジェクターなど最新の設備を、取り揃えたこの場所は、あたかも大企業のミーティングルームのようでもあり、白亜の城のごときでもある。


 だが今、その室内にいるのは、くたびれた感じの養護教諭と指を噛みながらその視界を左右にうろつく女のみである。

 部屋に比してあまりに少なく、あまりに小さい。


「……迂闊に維ノ里一派に手を出し、しかも何故か(・・・)そのことが露見。頼みの南洋分校長どのは入院の後は事情聴取、書類送検。そして仕掛けた本人は打つ手も手駒もなくそうやって彷徨いているわけか」

 花見大悟はそう冷ややかにぼやき、

「うるさいッ」

 という賀来久詠の怒号をもらった。


「くそっ、澤城の件……もう少し早くに知っていれば」

 挟撃騙撃、カラスを確保する手段はいくらでも整えられたものを。おそらくはそう続くのだろうが、大悟はそれをため息で妨げた。


「相談に来た深潼汀を突っぱねたのは、お前だろ」

「やっかましい!」


 また、ヒステリーな怒号が飛んだ。

 痺れる耳朶をそっと押さえながら、大悟は続けた。


「まぁ何にせよ、夏休みにあいつ不在の隙を突いて、これ以上独断専行を続けるのはまずかったんじゃないのか? 彼女の力と権能のもとに、正当性を以て維ノ里とあの鳥を抑える方が」

「それじゃあ遅すぎるのよ。あの脳筋が介入なんてしたら、結果は一つしかないじゃない。雑草取りにヘリに除草剤どころか焼夷(ナパーム)積んだ爆撃機を投入するようなものよ」


 おのが指を噛みながら、呻くように言う。


「手柄を横取りして交渉もしくは弾劾の材料にしないと、その爆撃機を引き摺り下ろせないからな、維ノ里士羽のように」

 久詠の足が、声が、ぴたりと止んだ。

 その喧しさは転瞬の後に霧散し、わずかな残響が尾を引いた後に人数相応の静けさに立ち戻った。

 そして花見大悟を顧みたその眼差しは、底冷えのするものだった。


 彼女の小者らしいポジショニングと所作は、ある意味においてはロールプレイのようなものだ。

 動揺や怒りは、偽らざる本心なのだろう。だがあえて実態よりも過剰に騒ぎ立てることで、奥底にある自己は冷静さを保ったままに打算する。

 だがそういう『素』を見せたればこそ、大悟の指摘は的を射ていたことを示している。


(いい加減、『あちらさん』は学園の主導権を譲らない征地の家と、その家名をもって切り回す絵草に辟易しているようだな)

 花見大悟の所属する内閣情報調査室(CIRO)は、あくまで調査と報告を主要の任とする。

 この怪奇に際しての国内外の諸勢力の動静に注視し、かつそのパワーバランスを崩さないために調停や一部の情報共有こそするが、基本的には中立的立場を貫く大悟と久詠の『それ』とは、同じ宮仕えではあるが目的を等しくしていない。


 大悟を冷たく見据えたまま、電池の切れた人形のように動かなくなった彼女の眉が、センサーのように反応する。

 そしておそらくは彼女は自分でも無意識のうちに、足からその身を引き戸の方へと切り返した。


 転瞬、その視線に先で威勢良くドアがスライドした。

 その勢いに比して、現れたのは年相応に華奢な少女の影である。

 だがその総身から迸る威圧感……言い替えれば生命としての強靭さが、彼らの背筋を冷たく伸ばした。


「やぁ、どうも」

 その女子生徒の、穏やかな口調に反して燃えるような双眸が、彼らを射すくめる。

 別に怒っているわけでも気を張っているわけでもない。この無尽蔵の覇気の放出こそが、彼女の常態なのだ。


 件の『爆撃機』、生徒会長にして現『対策委員会』の長、征地絵草の帰還であった。

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