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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
鳥亡村編
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83節 霊闘

 清映の残留思念が放たれた。

 次第に形作られる清映の姿。彼の怨念は、滅びを拒否した。すべてを道連れにするまで。




 ――神守邸の外に残留思念は放たれた。神守邸の内部にいた杏助もその気配を感じ取っていた。

 すべてを押しつぶすような圧倒的な気配。たとえるならば、世界の終末という運命が近いのだろうか。それは、『絶対に滅ぼす』という意思を持っていた。


 未だあの術を習得できないでいた杏助はひどく焦っていた。

 この状況で、春月市にも呪いがかけられている状態で。

 呪いを解くためには清映を殺すだけでは不十分だ。呪いを解くためには清映の魂まで完全に斃さなければならない。彼の魂はそれほどまでに呪詛と深いかかわりを持っている。


 杏助は外に出ることにした。まだ『歴代誌』に書かれた術を習得していなくとも。


 神守邸を出た杏助が目にしたのは、空中に浮いた清映と彼を取り囲む治たち。その傍らには清映の亡骸が転がっていた。


「杏助!? 」


 反対側にいた悠平が言った。悠平は疲れを見せないが、焦った様子を見せていた。今、ここで何が起こっている?


「ちゃんと習得できたんだろうな!?じゃねえと、俺たちは死ぬぞ! 」


 治は言った。


 杏助は一瞬黙ったが、口を開いた。


「俺に任せてください。俺、一回こいつに勝っていますから! 」


 自信ありげな杏助。しかし、それとは裏腹に杏助は不安を抱いていた。

 これはハッタリだ。治を下手に怒らせないための。そして、清映の残留思念に本当のことを悟らせないための。


 杏助は神守邸の門から、清映を狙ってスリングショットを引き絞る。

 放たれた弾。杏助のイデアが込められた弾は一直線に弾き飛ばされ、清映の幻影の頭部に命中した。


「……かかってこい、蘇我清映!今度こそ俺がやってやる! 」


 門の柱の陰から出てきた杏助。

 彼は清映を挑発する。彼にも何か目的があってのことだろうが――


「イイダロウ……キサマハナントシテデモコロサネバナラヌ……」


 清映の残留思念は杏助の挑発に乗ったらしい。

 すでに殺意をむき出しにし、人を簡単に殺しかねない圧力が杏助に襲い掛かる。杏助はすかさずイデアを展開し、それをガードした。


「へへ、こっちだ!蘇我清映!さてはお前、悠平たち殺そうとしてんだろ! 」


 杏助は清映に背を向けることなく言う。

 すべては悠平や晴翔を危険にさらさないため。自分が一番戦える場所に清映を誘導するため。


「ソレダケニハトドマラヌ……キサマモ、ワタシヲコロシタ『巫女』モダ」


 清映はそう言うと、空中から急降下して杏助に斬りかかる。

 間一髪のところで避ける杏助。

 杏助が避けた場所に刻まれた地割れのような傷。どうやら命を失ったとしても清映のイデアは根強い影響力を持つらしい。


 再び太刀――もはや実体すら持たぬ幻影が振るわれた。

 杏助はまたギリギリのところで躱し、空間の歪みで土壁にたたきつけられた。


「うそだろ!?死んでもイデアは健在ってやつ……」


 小細工など通用しない。杏助だってわかっている。が、どうやって清映を斃すのか。それだけはどうしてもわからない。


「杏助!さてはお前アレも習得しないで出てきただろ!どうすんだ! 」


 杏助の嘘は見抜かれていたらしい。治の声を聞きながら、杏助は今の状況について冷静に考えた。


 清映は霊体のような存在で、斃せるのは杏助だけ。だが、その決定的な部分――『歴代誌』に書かれていたものを習得できてはいない。


「えっと……逃げます! 」


 杏助は清映に背を向けて森の方へ走り始めた。そして、それを追う清映。

 2人の様子を見てきょとんとした様子の悠平は、杏助の目的をそれとなく察した。


「治さん。杏助ってもしかして俺たちから離れようとしたんじゃないですか? 」


 と、悠平は言う。


「さあな。俺は知らねえぞ。問題はあいつが今の状態でどうやって戦うのかが問題だろ」


 治はどこか杏助を突き放しているかのように言った。が、今ここで杏助のことを一番考えているのは治だった。どこまでも杏助は手がかかるから。




 何度も後ろを振り返りながら杏助は走り続ける。

 やがて、森の入り口までたどり着くと杏助は清映の方に向き直る。


 空中を浮遊した状態で追いかけてきた清映は杏助を追い詰めたといわんばかりの顔で太刀をその手に出現させた。


 ――形容しがたい殺気。

 杏助はゴクリと唾を飲み、イデアを展開した。その手にはスリングショット。杏助はまだ刀を使うべきではないと判断していた。


 先に動いたのは清映。彼の発する殺気は真っ黒に染まり、彼を中心にして5メートルの範囲を包み込む。

 杏助もその殺気の中に包み込まれ、光を失った。


「清映!どこにいる! 」


 完全な暗黒空間の中。杏助は清映の名を呼んだ。

 イデアが発している光でも、この暗黒空間の様子を見ることはできない。


「フ……キサマハモハヤコノクウカンカラデラレヌ……」


 暗黒空間のいたるところからその声が杏助の耳に入った。反射したような、空間そのものから声が発せられているような。

 だが、杏助は悟る。この暗黒空間そのものが蘇我清映であると。


「ねえ、今出られないって言っただろ? 」


 杏助は言った。


「そりゃ、完全に殺さない限りそうだろうな。でも、出て見せるぜ」


 ――暗黒空間の中で、杏助と清映の魂の戦いが始まった。



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