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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
鳥亡村編
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78節 無敵の人

ラスボスが無双します。

 清映の視界に最初に入った者はローレンだった。深紅のイデアを展開し、ジャックナイフとスティレットを持った彼女が放つ殺気は並大抵のものではない。

 重苦しい殺気を持つ清映に対抗しているかのように。


「くっ……ぁハハッ!ここで仕留められれば最高だよねええええええええ! 」


 ローレンは目を見開き、脚に力とイデアを込めて斜め上に飛び上がった。清映の太刀を受けずに攻撃を当てるために。

 彼女の戦法であれば、一瞬で勝負はつく。リーチの短い得物で敵に傷を入れればそれで決着がつく。逆に、長期戦となれば簡単に攻略されかねない奇襲向きの戦法。


 ローレンの姿を見るなり、清映はその右手に太刀を出現させた。

 上から清映を強襲するローレン。できるだけ、太刀に近づかないように。

 やがて、彼女のジャックナイフが清映の肌を切り裂こうと、振るわれ――


 清映が太刀を振りかざしたその瞬間。空間は捻じ曲げられ、ローレンの体は宙を舞う。


 ――反転する村の景色。ローレンは何が起きたのかわからないまま清映の方を見る。太刀に込められたまがまがしい気配がより強くなる。


「そう動くでない。目障りだ」


 絶対破壊の太刀が振るわれる。

 空間にも多大な影響を与える太刀が振るわれ、血しぶきが散る。さらに宙を舞ったものは、ローレンの右脚だった。


「あああああああああああああ!? 」


 悲鳴にならない悲鳴。ローレンは地面にたたきつけられ、右脚が存在していた場所を見た。

 ない。代わりに、地面には血が滴っている。

 ――知覚して初めて痛みがローレンを襲う。想像を絶する、ローレンがかつて様々な人に与えてきたような痛み。それは救いを願うことも許さない。死という救いさえも許さない、罪の痛み。


「私の脚どこいったあぁぁぁぁぁ!?」


 叫ぶローレン。目の端で捉える彼女自身の右脚。半ば混乱しながらも状況は理解した。ローレンは唾を飲み。


「なるほど、脚ポロか。理解した……ぜ」


 ローレンは我に返り、脚の断面にイデアを纏った。能力さえ意図的に使わなければ傷口を保護することだってできる。

 ほんの少し痛みが和らいだ中で彼女が見たものは、クロスボウを射る悠平。発射された矢はまっすぐに清映に向けて――


「そのようなものなど私には当たらぬ」


 清映がそう言うと同時に矢の軌道は捻じ曲がる。そして、矢が狙ったのは、シオン。


「避けてください!すみません! 」


 悠平は声を張り上げた。

 シオンはそれと同時に矢を叩き落す。


「ほう。やるか? 」


 清映は言った。いや、初めから彼はシオンを殺すつもりだった。

 超高速の剣がぶつかった。金属音がこだましたかと思えば、シオンの視界から清映が消える。


 いくら人外じみた力を持っていたとしても清映は人間だ。シオンは確実に清映を殺さずに無力化することを考えていた。

 だが、清映にはその刃さえとどかない。

 シオンの斬撃はいくら隙をついても清映には当たらない。


 光と振動を刀身から放つ斬撃。狙いは両手。

 清映はそれを見切っていたかのように空間を歪め、斬撃は付近の家屋を破壊するにとどまった。

 シオンはそれに続き、清映に近づいた。遠距離攻撃が外れるのならば、近距離攻撃。あわよくば、彼の両腕を斬り落とさんと――


「理解できておらぬようだな」


 その声とともに振るわれる太刀。空を切る太刀は空間を歪め、シオンは宙を舞った。清映が次に選んだのは刺突だった。


「シオンさん! 」


「そんな……」


 高速の刺突がシオンの腹をえぐる。

 血が降り注ぐ。内臓をグチャグチャにされた中でもシオンはまだ目を開けていた。

 後ろから援護しようとしていた晴翔と悠平は困惑した――だが。


 走り出す悠平。彼はクロスボウをもう一度清映に向けた。


「今度の相手は俺です勝算はまだないけど」


「ほう……私が警戒するに足る者でもないようだが」


 清映から悠平へ向けられる殺意。邪魔する者は絶対に殺す、という絶対的な殺意は悠平を震え上がらせた。

 だが、悠平はそれでもひるむことなくイデアを展開した。

 そして鏡から放たれる光線。光線は空間に歪められることもなく一直線に進む。が、清映はすでにそこにはおらず――


 背後。

 悠平はその背後にあまりにも強い殺気を感知した。

 展開される鏡のイデア。絶対破壊の斬撃によってそれは破壊されるが、悠平は向き直る。目の前に迫った清映の姿が見えた。


 悠平は破片となった鏡のイデアを動かし、正面の清映に向けて放った。


「なに……? 」


 戸惑う清映。

 彼を目の前にした悠平は何も言わない。

 銀色の破片たちが徐々に血を浴びて赤く染まる。だが、清映は戸惑いを捨てたらしく破片の中で悠平に迫る。


 振り上げられる太刀。これから空間まで引き裂かれるだろう。

 悠平は死を覚悟した。しかしながら、自分のイデアを信じ、破片を消してイデアを展開しなおした。


 ――振り下ろされる太刀。

 破壊される鏡。その破片が周囲に飛び散った。


 歪み、引き裂かれるはずの空間は清映の知らない歪み方をしていた。

 その直後、清映の太刀が折れる。


「な、何をした? 」


 清映は言う。


「俺にもわかりませんよ。あ、でも俺の能力ならできるのかもしれない」


 悠平が思い出す、空間の歪み。

 あの歪みはすべて悠平の展開したイデアの近くで反転していた。鏡に触れたものすべて。いや、正確には反射だろう。


「フン、何かわからぬが太刀で切れぬのならば供物とするまでだ」


 清映が再び発する殺気。

 対する悠平は瞬時にイデアを破片の形状に変えた。

 せめてこれで撹乱だけでもできるのなら――


 悠平は一瞬にして清映に首を掴まれて気を失った。

 現実はあまりにも残酷なのだ。


「さて、予定は狂ったが貴様はあの2人を殺すための供物とする」


 悠平が閉じ込められる紫色の空間。この中にいる以上、長くはもたないだろう。


 次に清映が目を向けたのは晴翔。晴翔は清映が気づかない間にシオンとローレンを石に変えていた。


「貴様、何をしている?」


「念には念を入れて2人を行動不能にしておいた。決めたぞ、俺はあなたについていく」


 晴翔は言った。



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