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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
怪奇を追う霊感少年
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7節 女傑は何を隠すか

さて、またあの人が登場します。結構不穏な雰囲気。

悠平くん、実は勘が鋭いし観察力もあるのですよね。損な男だけど。

 杏助たちから5分ほど遅れて2人の男女がカフェに入ってきた。杏助と晴翔にとっては見覚えのある2人だった。


「兄貴!」


「杏奈さん!」


 杏助と晴翔は同時に声を上げた。


「知り合いなのか?」


「知り合いだ。俺たちを助けてくれた人だ」


 悠平が尋ねると杏助は答えた。


「そっか」


 悠平は2人の男女、杏奈と彰を見た。身長が170センチを超えている女と謎の強そうなオーラを放つ男は見るからに只者ではない。強者であることは明白である。


「杏助くん。その人は誰なんだ?いかにも災難に遭っていそうな人だよ」


 杏奈が杏助に尋ねた。やはり彼女も知らず知らずのうちに悠平の本質を見抜いていた。


「あ、鶴田悠平です。春月中央学院高校の美術科の……」


「へえ……。芸術にかかわりのある人にはイデアが発現しやすいというけれどあんたはどうなんだ?悠平くん」


 と、杏奈は言った。

 彼女の告げた事実を初めて知る者は悠平だけではなかった。杏助も、晴翔も初めてだった。だが、彼らは思い当たることがあった。元美術部だった堤咲もイデアらしき能力を扱っていたことからするに――

 2人の考察を遮るかのように悠平は口を開いた。


「イデアって変な能力ですか?こんな感じで俺の周りに出てくる……ほら、最近よくあるゲームのエフェクトみたいな」


 悠平の周囲に鏡のビジョンが現れる。鏡のビジョンは薄い銀色の輝くエネルギーを纏っているものの、それそのものは曇っている。

 その様子を見た杏奈は目を丸くした。


「これだ。あんたも使えているじゃないか。これで我々の仲間になりうる人間が増えたというわけかい」


 と、杏奈はつづけた。


「待ってください、仲間!?よくわかりません。だいいち俺は美術科で優秀になりたかったし変な能力を信じたくもないですよ!?だいいちこの町の呪いがどうのとかいう話にも巻き込まれつつあるし……」


「呪い……詳しく聞かせてくれ」


 今度は彰が口を開いた。威圧感のある口調だった杏奈とは対照的に彰はどこか落ち着いていたようだった。


「その話なら俺がよくわかりますよ」


 杏助が言う。


「じゃあ杏助が話してくれ。理解できている人が話すべきだろう」


「はい。

 まあ、結論からいくと春月市に呪いがかかっているということです。どこかの村の神主が儀式で失敗した反動でかかった呪いらしく、解かないと最悪春月市が滅ぶという話です。これが本当なのかはよくわからないことですが、少なくとも今まで俺に伝えた人は解かなければ危ないと言っていました」


 杏助は言った。


「やはりか。キリオさんが同じことを言っていた。呪いについては真剣に対処しなければならない可能性がある」


 杏助の発言をうけて杏奈がつぶやいた。彼女の中の疑惑が確信に変わる。芦原キリオという人物の言っていた呪いは本当である。呪いは対処しなければ春月市の存亡にかかわる。そして、解き方は依然としてわかっていない。


 ――呪いは因縁である。


「3人に頼みたいことは情報収集。特に杏助くんは秘密にするはずだった情報をどこからか仕入れてきたので情報収集については信頼してみる。どれだけ些細な情報でも仕入れてくれれば問題ない。例えば、呪いの影響がどう出ているか、なんて」


 杏奈は言った。彼女は本気だった。そして、彼女の他に本気だった者が1人。


「なるほど。俺もぜひ見てみたいですねえ。町を揺るがす呪いを」


 と、晴翔は言った。

 彼の発言はここにいるほとんどの人が予想していたことだったが。不穏なものを好み、騙されやすい晴翔はころっと呪いのことを信じてしまった。杏奈とは違う理由で。

 一方の杏奈は呪いの話を信じた理由が別にあるらしい。彼女は何かを抱えているようにも見える。少なくとも、悠平が見た限りでは。


 悠平は杏奈のことをもっと知りたかった。杏奈が魅力的だから、ということもあるのだが、それ以上に彼女が何を隠しているのかも。彼女は悠平にとって有害な人物なのか、そうではないのか。悠平は気にしていた。


「フフ、いい返事だよ。私としても協力者が増えることはありがたい」


 杏奈は言った。


「すみません、杏奈さん。何か隠していませんか?俺が言うのもアレですが」


 ふとした瞬間に悠平が言った。杏奈の顔が硬直する。触れられたくないことに触れられてしまった、そのような気分だ。


「隠していると言えば隠している。けど、それはあんたたちを必要以上に巻き込みたくないだけだ。巻き込んでいいのは私がそうするしかないと判断した人だけ。正直なところ、協力者は必要でも深入りする人は厳選したいだけだ。まだ私は隠していることを話せる人を判断できていない……」


 彼女の顔はどこか曇っていた。だが、その顔もまた美しかった。影のある美しさ。彼女は一体何を抱えていたのか、そしてこれから何を背負うのか。

 そんな中で、杏助はそれとなく杏奈の運命を察し、推理していた。彼女は春月市にかけられた呪いの、奥深いところで密接にかかわっている。

 彼女は鍵となる人物だ。


「すみません、そんなことを聞いてしまって。俺もしっかりしないとな」


 と、悠平は言った。


「いや、いい。それより行動で示してくれるか?深入りしない程度の情報収集。3人がやるのはそれだけでいい。魔物ハンターでもない君たちを下手に巻き込むわけにはいかないからね」


 杏奈は言う。それと同時に彼女の左足のふくらはぎが疼き、彼女の顔がほんの少しだけ歪んだ。同じく、杏助も。


 ――私はこの人たちを犠牲にしたくない。だったら、私が犠牲になるしかないじゃないか。



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