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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
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70節 消えた村への手がかり

 晴翔は目的地を自宅から春月支部へと変えた。蘇我清映の言葉はまぎれもなく勧誘であり、彼はその目的地を明かしてしまった。彼が晴翔に語った『鳥亡村』とはどのような場所なのだろうか、と晴翔は考えていた。


(やはり地獄の三頭犬(ケルベロス)なんているのかな。それにしても……)


 胸騒ぎ。晴翔は何か嫌な予感を覚えていた。


 そしてたどり着く春月支部。


「どうしたんだ、晴翔。彰のお見舞いは」


「行った。でもそれ以上にまずい、蘇我清映とさっき会ったんですよ」


 シオンに聞かれ、晴翔は言った。


「あー、なるほどなあ。下手に手を出さなかったのは正解だと思うが、何か言っていたか? 」


「ええと、鳥亡村に行かないかと誘われて……目的はしらないけど、しばらくはそこにいると」


 晴翔がそういうと、シオンは顔色を変える。彼の中で決断はできていた。これは危険なことであるが。

 動けるメンバーで集い、鳥亡村に突入する。それらをすべて、昼間のうちに行う。蘇我清映がいるのなら、それで間違いない。シオンは確信していた。

 歴戦の戦士は死地へ向かうことを決めていた。すでに彼には覚悟がある。


「晴翔。今度は鳥亡村に突入しようかと思う。もちろん俺一人では不可能だから、杏奈やローレンもつれていくつもりだが。いや、それでも足りないな。お前たち3人も巻き込むことになると思うが、大丈夫か?」


 3人とは、杏助、晴翔、悠平のことだった。それを理解した晴翔は口を開く。


「大丈夫ですよ。楽しみすぎて、俺の左目が疼くぜ……」


「ならよかった。問題はあの2人……いや、大丈夫だ。彼らはきっと成長している」


 と、シオンは言った。


「今から、彰以外の関係者全員を招集する。生存者の確認もしていることだしな。情報の共有をしよう」


 シオンはあらかじめ書いていた手紙で紙飛行機を作り、それを飛ばした。魔法という力を扱える魔物ハンターがよく使うやり方だ。

 晴翔はそれを見てキリオを思い出す。キリオもシオンと同じやり方で情報伝達をしていたことがある。


「俺にもできる……俺にもできますか? 」


 ふと、晴翔はシオンに尋ねた。


「できるだろうな。呪法も魔法も、根源は同じ。魔法が正だとすれば呪法は負。その力をこいつに込めたなら……」


 シオンはそう言って、晴翔に紙飛行機を手渡した。晴翔はそれを受け取って呪法の力を込めた。

 ――まがまがしい空気だ。

 晴翔は興味本位で、清映のことを思い浮かべて紙飛行機を飛ばす。すると、まがまがしい気配の込められた紙飛行機は飛んで、その場から消えた。


「本当にできたみたいだな。お前、いつ呪法の訓練をしたんだ?」


「あれは……キリオさんが杏助を探しているときの合間にちょくちょく教えてもらいました」


 晴翔は答えた。

 そんな晴翔の中に。シオンは何か恐ろしいものを見ていた。キリオと同質の。生命をはく奪するようなまがまがしいものを。きっと彼は呪法使いとして大成するかもしれない。




 手紙が届き、それぞれに事情が伝わった後。今動くことのメンバーは春月支部に集合した。

 その中で、杏助と悠平はどこか焦燥した様子を見せていた。まるで、親しい誰かが殺されたかのように。


「2人に何があったんだ?」


 シオンは言った。


「今さっき、杏助が親しかった人と戦ったんですよ。ひどいありさまでした。能力に向き合おうともせず、過信して命乞いもしたうえに最後は自滅。クズにもほどがある」


 と、杏奈は吐き捨てた。彼女の中で襲撃者、長住圭太の評価は最悪だった。実の弟を殺そうとしたところに始まって、命乞い、騙し討ちときたものだ。


「圭太さん、前はあそこまでひどい人じゃなかったんですけどね」


 と、杏助は付け加える。


「違う。自分より立場が下、身内ではない人に対しての姿勢。それが人の本性を現すのだから、やつは別にいい人でも何でもない」


 杏奈は言った。

 不遇な過去を持つ彼女であり、人間の黒い面を何度も見てきたからこそ出た言葉だ。しかし、杏助はそれを認められないでいた。


「それで、会長。我々をここに招集した目的とは」


 杏奈は続ける。


「ああ。これからやることについて話しておきたい。いいか、これは会長じきじきの指令だぜ」


 シオンは一度、ここで言葉を切った。

 これまで、シオンはいくつもの任務の決定権を持っていた。構成員を命の危険にさらすような任務だってそうだ。会長である以上、シオンは割り切っていなければならない。

 この時点で、シオンは誰かが死ぬことも覚悟していた。


「鳥亡村に突入する。ここにいるメンバー全員で。晴翔からの情報で蘇我清映の居場所を突き止めたからな」


 シオンは続けた。


「やっぱり、あの村に行かなければならないのか。蘇我清映の呪詛を解くには彼を殺す必要があるらしいが」


「杏奈。何か知っているのか? 」


 と、聞き返すシオン。すると、杏奈は続けた。


「知っている。父さんの残した手記には、筆跡の違うやり方でだれかが書き加えていた情報がありました。それが、『蘇我清映の呪詛を消す方法』でした。誰が書いたのかわからないし、そもそも合っている保証もないですが」


 手記の存在を知らなかった者――杏奈と晴翔以外の全員は目を丸くした。

 そして次に口を開いたのは晴翔だった。


「やっぱり父上が知っていたってことか。あの手記に蘇我清映の呪詛について書き加えたのは俺と兄さんの父親。狩村夏之だ」


 情報を持っているとは思われていなかった晴翔の発した言葉。それはにわかに信じがたいものであった。

 ここに招集された者たちの中に、晴翔の言葉を疑う者もいたが――


「晴翔の言うことはまぎれもなく本当だよ。もっとも、私にこれを教えてくれたのは彰だけどね」


 と、杏奈はフォローを入れる。


「さてと。会長。私は鳥亡村に行きますよ。ですが、ほかの4人の意思も確認しておくべきです」


「ああ、そうだよな。俺も鳥亡村に行くが、行きたくないやつはこの場から離れてくれ。あの場所は、吸血フクロウを筆頭に危険な生物が生息している。命の保証はないと思ってくれ」


 説明するシオン。

 今がまさに、決断のとき。


 ――そして。この場を去った者は誰一人としていなかった。正式に魔物ハンターではない3人までも。


「明後日の早朝に樹海へ突入する。ひとまず、吸血フクロウは俺がなんとかする」


 シオンの一言で話し合いの幕は閉じられた。



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