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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
72/89

69節 悲劇をもたらす引き金

襲撃者の正体とは……

 銃声は戦いの始まりを告げた。

 次に投げ込まれる手りゅう弾。それに気づいた杏助は悠平を突き飛ばし、強力すぎるイデアで爆発を防いだ。


「まずは敵を探す!銃火器を使っている以上、たとえイデア使いでなかろうとも用心しなければならない! 」


 銃声と爆発に気づいた杏奈は声を上げた。


「わかってます!わかってるけど……」


 と、悠平。

 そんな彼に迫る、何かの弾。それが鏡に映りこんだとき、悠平は弾の方向にイデアを展開。弾ははじき返されて塀にぶつかる。いや、その直前に消滅した。


 消滅。悠平が違和感を覚えたのはそこだった。

 そして。悠平は攻撃の主の姿を鏡越しに見ることになった。

 映りこんだ顔は春月市によくいるような外見のそれだった。が、彼とともに敵を探していた杏助は明らかに戸惑っていた様子だった。


「なあ、これってどういうことだよ!? 」


 杏助はうろたえる。彼の目線の先にいる人物。それは――


 ゲートから消えた者たち。それは春月中央学院高校の生徒の中にもいた。失踪からしばらく経って、彼の失踪は朝礼で伝えられた。その時にも戸惑った杏助であったが。

 彼が目にした現実は、残酷だった。かつて杏助が慕っていた者、長住圭太は無表情のまま杏助に機関銃の銃口を向けていた。


「圭太さん!どうして俺に銃口を向けるんですか! 」


 杏助の目線の先。廃墟の隣の家の屋根に、彼はいた。

 黒い外套を纏い、その下にはスパイなどが身に着けるような機能性に優れた衣服を身に着けている。彼がかつて身に着けていた学生服とは似ても似つかなかった。


「……っはは。人殺しに資格なんて必要あるのかな?」


 震える両手で機関銃を持ちながら、圭太は言った。


「人殺しってなあ、慣れれば案外抵抗もなくなるんだよ!さすがになじみのある人を殺すのはつらいけどね、知らない人なら簡単に殺せるんだよ!しかも、銃って人を殺した感覚が手に残らないだろ? 」


 圭太を目の前にして、杏助の中にあるものは戸惑いだった。

 何が圭太をここまで変えたのか。どんな経緯で彼は人を殺せるようになったのか。


 そんなとき、悠平が杏助を守るようにイデアを展開した。


「殺せるのなら殺してみればいい。あなたに、その引き金が引けるのなら」


 悠平は言った。


「いいだろう。人を殺したくても殺せなかった俺は、異世界では簡単に人を殺せた」


 圭太は銃口を杏助からそらさず、引き金を引いた。

 連射される銃。銃弾の嵐が二人を襲う。が、展開されたイデアによって銃弾ははじかれ、今度は圭太を襲う。

 杏助は圭太がそれをよけることを願っていた。すると――


 銃弾は消滅した。はじめからなかったように。さらに、圭太の持っていた銃も存在しない。代わりに彼が持っていたものは、小型の爆弾だった。


「別に俺が出せるのは銃火器だけじゃないぜ。こんなものだって、出せる」


 圭太は爆弾を放り投げ――


「避けるぞ! 」


 杏助が叫んだ。爆弾の軌道を見ながら、二人はそれぞれの方向にとびのいた。

 それから1秒と経たずに、爆弾は落ちる。そして、爆発。

 爆風が2人、いや、杏奈と治にもふりかかる。


「容赦ないな。俺はどうしたらいい! 」


 治は言った。


「私たちが守るので心配いりません! 」


 杏奈は答えて、圭太の方を見た。すると――


 屋根から飛び降りる圭太。彼の手に集中する、彼自身のイデア。それが形成したものとは。


(戦車……!? )


 鉄の塊。何が由来かもわからないまま、形成された戦車は重力のままに――

 それに気づいた杏奈は強化された身体能力を発揮し、跳び上がる。


「杏助、悠平くん!避けろおおおおおっ! 」

「お前も行くんじゃねえ! 」


 イデアを展開し、戦車に突っ込みながら叫ぶ杏奈。彼女の様子を端から見ればただの自殺行為にしか見えないだろう。治が止めようと声を張り上げるも、杏奈はそれを聞き入れない。彼女には彼女なりの考えがあるのだから。


「ぶっ潰れな」


 圭太は言った。

 だが。杏奈は戦車を殴りつけた。イデアが戦車を包み込む。戦車が杏奈を潰さんとしたとき、それは一瞬にして消滅する。戦車を出していた張本人である圭太も困惑。この理由を知るのは、杏奈と杏助の二人だけだった。


「甘かったなあ。私はこの家屋の大半を異世界に転移させた。戦車ぐらい、転移させるのは多分簡単にできる」


 二人が地面に着地した直後、杏奈は言った。彼女は戦車を異界に転移させていたのだ。


「それと、あんたはかなり息が上がっているみたいだね。そろそろそのイデアを使うのも限界かな?」


 と、杏奈は続ける。

 それを聞いていた圭太は眉間にしわを寄せ、いまいち理解できていない様子を見せた。


「姉ちゃん、それはどういうことなんだ!?限界って……」


「イデアという能力にはそれぞれ、継続時間というものがある。馬鹿みたいに長いものもあれば、短いものもある。そして、共通するのは『無茶な使い方をすれば継続時間以下の時間でも限界を迎える』ということ」


 杏助に言われ、杏奈は説明する。その間にも彼女は圭太に殺気と鉄扇を向け続けていた。


「どうやらあんたは、その限界を迎えかかっているようだな。そりゃ、戦車を召喚するような無茶は吸血鬼でもなければ体に負担がかかるだろうねえ」


 杏奈の告げる、ある意味残酷な事実。しかし圭太はそれを信じようとはせず、その手に機関銃を握る。


「まだだ。俺のチート能力に限界なんてあるわけねえよ」


 そう言って、圭太は引き金を引こうとする。だが。


「……ほらね。あんたの敗因は、自分の能力への過信と知識不足だ」


 圭太の手から機関銃が消える。それと同時に、圭太は地に膝をつく。彼の顔は青ざめ、汗が顔を伝う。そして、彼自身も気づかないうちに息が上がっていた。


「や……やめてくれ、綺麗な人。なんでもするから、殺さないで」


 圭太は言った。


「へえ……人を殺そうとしておいて命乞いか。人は殺せても、殺す覚悟はないんだな」


 圭太を見下ろす杏奈。が、彼女は一向に手を下そうとはしなかった。その言葉とは裏腹に。


「もし、あんたが何でもできるのなら。あのゲートから異界にでも行って。そして、二度と戻ってこないで」


「……そうするよ」


 圭太は立ち上がり、ふらつきながらゲートへ向かおうとした。だが。


「なんて、言うと思ったか!?結局なあ、殺せればいいんだよ!他がどうなろうともな!お前ら、全員!俺以外は死ね!そうしたら、金が! 」


 再び圭太は機関銃を出した。その銃口を悠平たちに向けると引き金を引き、機関銃を撃つ。

 杏助と悠平はイデアを展開した身を守る。二人は銃弾の嵐の中で、圭太の顔を見た。


「前は、こんな人じゃなかったのに。一体異界で何があったっていうんだ」


 杏助は口ごもる。


 ――銃弾の嵐がやんだ。

 圭太は体から血を噴き出して、仰向けに倒れる。

 目から。耳から。口から。鼻から。体中の毛穴から。圭太の血液は、廃墟の地面にしみこんでゆく。異世界転移を信じ、己の得た能力を過信して人を殺そうとした者の末路がこれだ。彼と無関係であった悠平は、彼に同情する気にもなれなかった。


「杏奈さん。悪人に同情は必要なんでしょうか」


 惨劇の後。惨劇の結果を目の当たりにして、悠平は言った。


「贖罪の気があればね。だけど、彼もここまでのクズだとは思わなかった。帰ろうか、春月支部に」




 同刻。春月中央病院から出てくる1人の少年がいた。襲撃の可能性など考えることもなく、彼――晴翔は帰宅しようとしていた。そんなときだった。


「狩村夏之の息子か。私と一緒に失われた村に来てみないか? 」


 晴翔に声をかける男、蘇我清映。いかにも只者ではない彼を目にした晴翔は恐怖で足がすくむ。


「……すみません。今日、兄の命が危ないので。不治の(シュテルプリヒ・)(ギフト)に侵されて。だから、まだいけない」


「そうか。いや、すまんな。私は、その日まで待っているぞ。失われた村、鳥亡村で」


 清映はそれだけを言い残して去っていった。

 ――そして、晴翔は気づく。話しかけてきた男その人こそが、蘇我清映だったのだと。



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