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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
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68節 呪われた廃墟

失踪者編も終わりに近づいてます。もうすぐ最終決戦!

 零との闘いの後、入院することとなった彰のことを気にしながらも、杏奈は再び調査に乗り出した。

 次なる調査場所は春月川沿いの廃墟。杏奈は杏助、治、悠平とともに失踪者の情報を集めていた。治が能力を使い、杏奈が記録する。杏助と悠平はその補助だ。


 調査場所、廃墟の一角には何者かの遺体が野ざらしの状態で転がっている。悠平は気持ち悪い、と遺体から目を背けた。が、それはかつて悠平を襲った人物のものだった。

 野ざらしの遺体は何も語らない。この遺体を杏哉が見れば何と言うのだろうか。


「嫌なものを見てしまいましたよ……」


 悠平は言った。


「すまないね。私としてはあんたを頼ったつもりだったけど。調査もそんなに長くかからないはずだから」


 と、杏奈は言う。彼女は彼女で、悠平をここに連れて来たことについて申し訳なく思っているようだった。

 それでも悠平は不満を言わず、彼がやれと言われていた見張りを行うことにした。が、悠平は見張りの必要性について疑問を抱いていた。いくら蘇我清映が戻ってきたといって、ここにやって来るのだろうかと。


 ――廃墟はかつて『生首屋敷』と呼ばれていたこともあって誰も近寄らない。近寄ったとして、日の目を見ないような者たち。この廃墟に火を放とうとした者や、かつて悠平を襲った者なんかがそうだった。


「……なんだ、ここは。怨念がノイズになっていやがる」


 ふと、治が頭を押さえてイデアの展開を解除した。息は荒く、目を見開き、何か得体のしれない存在を見たかのようだった。

 そんな治に杏奈は声をかけた。


「何があったんでしょうか」


「まずな、この屋敷が生首屋敷と言われていた理由だが……あの一族が殺した人間の首が木箱に詰められていた。何か呪術でも行うつもりだったのだろうな」


 と、治は言う。

 すると杏奈は眉間にしわを寄せて、持っていたノートに治の言葉を記録した。杏奈の中での疑念が少しずつ確信へと変わってゆく。


「他には」


「ああ。どうやらそれは何かの儀式らしいな。最初の方から読み解いてみれば、呪いを解くための儀式の間違ったやり方みたいだ」


「なんだって……」


 と、杏奈は言った。

 本来、彼女たちは失踪者の調査のためにここに来た。だが、予想外の情報を得ることとなった。


「杏助。ちょっと廃墟の残骸を見てくる。すぐに戻るから」


「あ、はい! 」


 杏奈は細かいことを言うこともなく廃墟の残骸に近寄った。

 廃墟は杏奈自らが異界に転移させ、その5分の1ほどが春月川沿いに残っている。内部が露出した廃墟。杏奈が見たところ、廃墟の内部には血痕が残っていた。その近くには至るところにお札の貼られた木箱。


「やっぱりただ事じゃなさそうだな。このお札、異界の文字に似たものが書いてある」


 杏奈はつぶやいた。


「治さん。この屋敷の記憶も引き出せますか? 」


 杏奈は声を張り上げた。すると治はイデアを展開したまま杏奈のいる方に駆け寄った。


「できないことはねえよ。ただ、とんでもないことが起きても知らねえぞ」


 治は言い、杏奈は頷く。

 杏奈もそれくらいは覚悟できていた。新たなる呪詛の可能性と、蘇我清映の存在があるからこそ。いずれ、この廃屋を調べることにもなるだろうと考えてもいた。


 治はいつになく真面目な顔つきでペンを地面に突き立てた。

 そこから引き出される記憶たち。紫の文字は治の中に入り込み、治は文字から記憶を読み解いてゆく。ここで何が起きたのか。




 ♰




 ――この廃屋はかつて神守律郎という男が隠れ家として使っていた。


 神守律郎は異界人だ。今、ここに存在する世界とは別のどこかからやってきた。

 彼が訪れた、彼が言う『異世界』とは鳥亡村だった。外部とは隔絶され、独特の文化を持つその場所は、特異点とでも呼ぶべきであろう。


 そんな特異点・鳥亡村であったが、あるとき神主が禁断の儀式を行った。

 儀式は失敗し、鳥亡村は滅亡。8人の男女が村を出た。そのうちの一人が神守律郎だった。


 律郎は儀式の失敗による呪詛について、発狂しながらも書き残した。

 ――呪詛は神刀と血によって鎮めることができる。1000年以上前、村民の先祖が残した祠に血を吸わせた神刀をささげなければならない。祠は人を選ぶだろう。恐らくは、我が息子と娘だけが入れる。だが、神主は間違った方に進んでいる。


 呪詛に侵され、正気を失った律郎はとある人物に手記を託した。その人物は狩村と名乗り、あるときまで手記を保管していたという。


 狩村は律郎の死後も呪詛の情報を持っていた。彼は魔物ハンターであり、春月の地に鮮血の夜明団の支部を設立した。手記を守り抜くためだけに。


 そして、狩村はここで殺された。表向きには事故死であるといわれているが、彼はここで蘇我清映に殺され、木箱の中にいる。

 狩村が殺された理由は――


 狩村の死後、この場所は依然として蘇我清映から使われていた。主に『死体置き場』として、それ以外には呪詛の目的として。

 そして。呪詛のために殺された者も少なくない。殺された者は、手足、頭をバラバラにされて木箱に詰められた。その中には、霊王神社の巫女もいたという。特に霊王神社の巫女は、多くの怨念を残して死んだ。彼女は呪詛の持ち主の死を望んでいる。


「これで、私も呪詛を扱えるようになったというわけか。やっと……」




 ♰




「すごいな。ここは、鳥亡村と密接にかかわっていたみたいだぜ。暗殺した遺体を呪詛のために使っていたみたいだしな。おそらく目的はイデアの進化だ」


「進化……だって? 」


 杏奈は聞き返す。


「進化だ。どうやらここのゲートは儀式で開かれていたみたいだしなぁ」


 治は言った。


「それ以外にもまだ引き出した情報はある。ひとまずここからの失踪者はいないが、ヤツとの関係はめちゃくちゃあるぜ。お前はどうする気なんだよ」


「会長がOKを出せば、ヤツをとらえるつもりだ。それと、どうやら鳥亡村に行かなければならないのかもしれない」


 いつになく真剣な顔で杏奈は言った。


 そんなときだった。

 銃声。緊張した空気。


「誰かいる!誰なんだ!? 」


 杏助の声が、敵の襲来を知らせた。



ここから先、異世界転移に対して私が思うことを書いていくつもりです。不快になってしまったらすみません。

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