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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
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63節 崩壊の銃声

 圭太はビルの影に潜んでターゲットを待っていた。持っていたものはアサルトライフル――これも彼の能力で出したものだ。


 ――殺せ。人を殺すことがお前の役割だ。


 圭太の頭の中で、清映の言葉がぐるぐると回る。いくら異界で人を何人も殺したとはいえ、圭太はまだ人殺しに慣れたわけでもない。香椎を狙撃して殺したくらいでも人殺しに慣れるわけがない。震える手でアサルトライフルを握り、圭太はそいつを待つ。蘇我清映から告げられた、次のターゲット。


 来た。

 ターゲットはカーキ色の髪の少年。圭太と同じ高校に通う2年生。圭太としてはむしろ殺したくない相手であるが。

 圭太は悠平に銃口を向けていた。


「危ない! 」


 圭太が引き金を引くのと同時に杏助が叫ぶ。悠平は咄嗟にイデアを展開。彼に襲い掛かる銃弾はすべて跳弾し、それらが圭太にふりかかる。圭太は己の意思で銃弾すべてを消滅させた。これもすべて彼の能力だ。

 その視線の先には悠平と晴翔、そして杏助の姿があった。きっとこのエリアが戦場になるだろう。


 圭太はこれならと考え、アサルトライフルをロケットランチャーに持ち替える。

 だが、圭太には誤算があった。彼はターゲットの悠平の周りにいる2人は何の能力もないだろうと考えていた。


 一方、悠平たちはまだ圭太に気づいていなかった。いや、誰かに狙われていたことはきづいていたとはいえ、圭太の姿が見えなかった。

 そんな悠平たちは警戒したのか、イデアを展開したうえで足を急がせる。早めにこの場を立ち去ろうという魂胆だろうか。


(3人とも、能力があったのか。1人は弾丸を反射したみたいだけど……)


 知らない能力を持ったターゲットたちを目の前にして、圭太は彼らを再び襲撃すべきか迷っていた。

 そんなとき。


「君かい?あの3人を殺そうとしていたのは。だいたい3日くらい前からだったか」


 圭太の後ろで声がした。死神が囁くように。


「ああ、身構えなくていいよ。俺、別に君に興味はないから」


 その男は艶かしい声で囁いた。が、彼の中には明らかに殺意があった。彼と同じく殺人者になり下がった圭太にはわかってしまった。

 圭太は死神、神守杏哉の方に向き直ると同時にロケットランチャーを回転式拳銃に持ち替えた。そして、杏哉に銃口を向けた。


「こういう人もいるな。興味のない人間を簡単に殺せるようなヤツだ。あんた、絶対にそういう人種だろ。俺も、異世界で洗礼を受けたからわかるぞ」


「ふうん。君はたったそれだけの期間で変わるのか。まるで、留学で人生観の変わる薄っぺらい人間みたいだね」


 杏哉は銃口を向けられようが気にしていなかった。いや、彼は圭太を試しているようでもある。興味を持っている様子はないが。


 圭太は目の前に立ちはだかる杏哉に向けた拳銃の引き金を引いた。

 ――銃声。弾丸は杏哉の額を貫通した。しかし、それで杏哉は血を流さない。彼は平然と立っていた。


「嘘だろ……銃で撃たれて無傷のヤツなんて……」


 圭太はパニックに陥ってもう一度引き金を引く。

 やはり弾丸が杏哉に命中しても彼は一滴たりとも血を流さない。

 無駄であると悟った圭太の手から拳銃が消える。動揺し、絶望に包まれた彼の顔は杏哉を見つめていた。


「ああ、これで終わりかい?この程度の精神力だったら、俺が相手をするまでもない。杏助や悠平くんが相手でも問題はないね」


 無傷の男は涼しい顔で言った。


「何を言って……」


 杏哉は圭太の話を聞いていない。ただ彼は、彼の気まぐれで圭太とは反対方向に進んでいった。


 圭太は命拾いした。彼が目にした人物は彼自身が立ち向かったところで到底かなう相手ではないのだ。




 杏哉は壁をすり抜け、壁によって路地と隔てられたカレー屋に戻ってきた。杏哉は持ち物をすべて椅子に置いて、カレーには一切手をつけていなかった。

 カウンター席についた杏哉は連絡用の端末を白いスーツのポケットから出して起動し、圭太の言うターゲットに連絡を入れた。

 ――君の命を狙っている人がいる。武器使いで、人殺しの経験はあるけど慣れているとはいいがたい。戦い慣れているわけでもないから、対処は君に任せる。


 送信される写真つきのメッセージ。杏哉は画面を確認すると端末をポケットに入れて、カレーに手をつける。

 インディカ米のサフランライスに3種類のルーが添えられたメニュー。杏哉が外で何者かの気配を感じ取る前に注文したものだった。それなりに時間が経っているということもあり、カレーは冷めている。

 杏哉は汚れるだろうと踏んで白いジャケットを脱いで椅子にかけた。


「やれやれ。俺が裏切ったと思ったらこれか。本当に、人を利用することにためらいがないな」


 と、つぶやく杏哉。

 そんなとき、彼の視界によく知る人物が入る。ゴシック風のファッションで、ヴィジュアル系を思わせる化粧を施した藍色の髪の男。織部零。


「杏哉。隣に座るぜ」


 かつて杏哉と袂を別ったはずの零は彼の許可を得ることもなくその隣に座った。


「なるほど、ご友人デスね」


 カレー屋の店主が2人に声をかける。


「……親戚です」


 苦し紛れに零は言った。

 確かに、一族ということでは間違っているわけでもない。零はその後の答えに詰まって、店主から目を背ける。

 店主が厨房に入っていくのを確認すると、零は再び口を開いた。


「神主は今どこにいる? 」


 零が杏哉に尋ねると、杏哉はため息をついた。


「この町のどこかだよ」


 杏哉の口から出た一言は投げやりなものだった。が、彼は別に答えるつもりがないというわけではなかった。


「本当に俺も知らないんだ。一度異世界に放逐されたみたいだが、戻ってきたというところまではわかる。俺の協力者の1人が殺されるところまでは」


「そうか……」


 と、零はつぶやく。そんな中で、零の中にあることが浮かぶ。

 ――清映は零を見捨てたのではないか。


「あいつに見捨てられたのなら俺たちに協力してくれたっていいんだよ。君のことを全く知らないわけでもないし」


 杏哉は言った。


「は?するわけねえだろ。俺はそんなんで投げ出さねえ。お前とは違うからな」


 と、零は答える。すると杏哉は水を口に含みながら微笑んだ。


「安心したよ。君が意志を貫いてくれて」


 杏哉は零の顔に触れた。


「気持ち悪い」


 零はそう返す。


「意外だな。カレーごときでジャケットを気にするなんて」


「君、俺がファッションに気を使うって知らないだろ」


 杏哉は不気味な笑みを浮かべた。


「それと、脱ぐなら全部脱がないのかって突っ込む気だろう。残念、俺もさすがに脱衣には飽きた。どうしても変態プレイが見たいなら、カレーを口移ししてもいいのだが。どうするかい? 」


「う、うるせえ!二度と話しかけるな!変態野郎! 」


 零はそう怒鳴ったきり、杏哉と口を利くこともなかった。



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