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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
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62節 もう1人の犠牲者

2話目です。ちょっと間があいたので埋め合わせということで!

 少年はスコープを覗く。ビルのベランダから狙う相手は通勤中の男。狙いが定まるまで、息を殺す。気づかれてはならない。ターゲットからも、近隣の住人からも。

 ――1発発砲すれば彼の銃は消滅する。無限に武器を呼び出せる代償その2。他人に体を触られると死ぬ、という制約以外にも彼にかかる制約はあったのだ。だが、それは利点にもなりえた。

 彼は制約を利用して、手ぶらを装うことができた。見つかってはいけない状況を潜り抜けることができた。秘密裏に人を殺すことができた。


 彼は引き金を引いた。

 銃声は響いたと思えば消滅し、手元の銃も消える。彼の視線の方向で。頭から血を流して倒れた男が1人。彼の様子を見て、少年は左手で口を覆った。協力を迫った者に脅されながらも、殺したのは彼自身。異界で人を殺したことはあるものの、彼はあまりにも人殺しに慣れていなかった。それこそ、銃器が好きだというだけの男子高校生だ。普通の人と変わらない。


 撃たれた男を目撃した者はいなかった。いや、撃たれたその瞬間を見た者がいなかったにすぎないのだろう。

 撃たれた男はほどなくして息絶える。


 彼は荒くなる呼吸をおさえ、ビルの室内に入っていった。目撃者はいない。証拠となる銃も銃弾も存在しない。だが、罪悪感は彼の中に戻らない。


「清映さん。やりました」


 室内にて彼は端末を起動し、清映に電話をかけていた。感情を込めず、淡々と話す彼。やはり、知った人を殺す感覚はその手に残らずともその心と目には残っていた。


『ご苦労だ、圭太。香椎孝之も情報を握っていたようだったからな。次は、鶴田悠平だ』


 電話越しに少年――圭太の耳に入る清映の声。


「はい。杏助は殺さなくていいんですね?」


 圭太は電話口で言う。


「いや、いずれ殺してもらうかもしれん。お前との間に何の関係があるか知らんがな」


 圭太は清映の無慈悲な声に唖然とした。4年前からかかわりのあった杏助をいずれ殺すことになるなど、圭太に考えられることではなかった。彼だけはどうしても殺したくないと圭太は考えていた。


「圭太。ここまで来て降りるとは言わせんぞ。失踪者はお前以外にまともな神経を保っていたヤツがおらん。本当にお前しかおらんのだよ」


 電話口の清映はそう続けた。

 彼の言葉は確実に圭太を追い詰める。




 30分ほど経った頃。狭い道を通らざるを得なかった悠平がその道を通る。いつもと違う道で、彼は目撃する。

 それは遺体だった。頭部を銃で撃ち抜かれた男。彼を発見した悠平はその顔に見覚えがある。


「香椎先生……?」


 悠平はつぶやいた。

 頭を撃ち抜かれ、血で汚れた顔はまさしく香椎のものだった。悠平は香椎の遺体を見てすぐに然るべき場所に電話をかけた。




 ――香椎孝之の死の話は瞬く間に関係者へと広がった。

 まずは彼の第一発見者である悠平。彼の友人2人から鮮血の夜明団へ。次に学校全体へ。それから、名前は広がらなかったものの、春月市全体へ。


 香椎が殺された翌日の朝礼で話される香椎の死因。杏助は死因そのものを知っていたが、やはり受け止めることができなかった。

 嫌味を言いながらも失踪事件やゲートについて真剣に考えてくれた香椎。有田に続いて彼も殺された、となると杏助はまた深く考えざるを得なかった。それは、有田が清映に殺されたということを知ってしまったから。


「杏助、死人みたいな顔だな」


 休み時間。晴翔は杏助に声をかけた。


「やっぱりそう見えるか?有田先生と香椎先生のことで眠れなくてなー」


 と、杏助は言う。


「ふむ。どちらも蘇我清映に殺されたと思うか?」


 晴翔も有田の死因は知っていた。目撃者の帆乃花から聞いた杏助から聞いた、という形であるが、晴翔もその死について何も知らないというわけではなかった。

 有田は食堂裏のゲートに様子を見に行き、そのときに清映と居合わせて殺されたという。情報を持っている者、知りすぎた者は口封じに殺されるというが、それは本当だった。

 その目撃者で、清映の姿もその目で見た帆乃花も命を狙われ、絵画の中に閉じこもっているという。


「いや、香椎先生は違うと思うぞ。聞いた話では銃弾で撃たれたような跡があるみたいだ。弾は体内に残っていなくて、それでまた怪しいとか言われてるけど」


 杏助はまだ話すことがあるが、少し言葉を止めた。教室の時計は10時56分を指している。

 杏助は再び口を開いた。


「俺の予想なんだが、先生はイデア使いに殺されたんじゃないか?刀を作り出すイデアを持っている人がいるんだから、銃を作り出す人だっていてもいい。もしイデアなら、銃弾が消えてもおかしくないと思う」


「銃……?」


 と、聞き返す晴翔。


「銃だ。ま、これは仮説だぞ。それに、銃を作り出すイデア使いがいるって確認できたわけでもない。もしかしたら本物の銃で殺されたかもしれない」


 杏助は答えた。

 ――この春月市において、発砲事件も全くないわけではない。民家からロケットランチャーやアサルトライフルが見つかることだってある。本物の銃で殺されることだって可能性として考えられるのだが。


「面白そうなことになってきたな。そういうやつがいれば」


 晴翔は口角を上げた。

 ポーカーフェイスになりきれない彼はその感情を隠せずにある程度の考えを杏助に悟られていた。


「頼むから状況をややこしくしないでくれよ」


 杏助はそう言って釘をさす。が、彼も晴翔の言うことが実現しているのではと考えていた。



春月市はとある実在の都道府県をモデルにしています。手りゅう弾が見つかったり民家からロケランが見つかったりする、あの都道府県です。

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