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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
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61節 掴んだ手がかり

 太一が死んだ。キリオが死んだ。雅樹が死んだ。有田も死んだ。

 蘇我清映や春月の呪いにかかわった者たちが、続々と殺されてゆく。次は誰が殺されるのかと、かかわった者たちは不安を抱き始めていた。

 杏助や悠平、晴翔だって例外ではない。




 ――協力者の死は、未だ杏助たちに伝えられていなかった。死の決定的な証拠といえる遺体はあとかたもなく消され、血痕だけが残っていた。その目撃者はたった一人。だが、彼女は出てこない。彼女は一度殺されそうになり、現実世界ではないどこかに潜んでいる。


 朝、非日常に巻き込まれながらも登校する杏助。そんな中で、彼は朝礼であることを聞く。


「有田勝が行方不明になりました」


 彼の失踪は3人の生徒を戦慄させた。有田はこれまで失踪事件に関する情報を集めていただけに、失踪というのは怪しい。3人はいずれも、彼らの追う人物との関連を考えてしまった。

 ――その名は蘇我清映。呪詛を残して異界に放逐され、再び戻ってきた「らしい」人物だ。どうやってこちら側に戻ってきたのかは不明だが。

 すべてがわからない状態で、再び事態が動き出そうとしていた。治との調査で暗示された蘇我清映の行方。彼が戻ってきたことが少しずつ現実味を帯びてきているようだった。


 杏助は有田の身に何があったのかを気にしていた。

 誰か知っている人はいないものか。




 放課後、杏助は有田に関する情報を集めようと美術室へ向かった。


 がらんとした美術室には誰一人いない。帆乃花も、有田も。ただ、イーゼルに描きかけの絵が立てかけられているだけだった。

 杏助は絵に近寄り、それに触れた。ズブズブと手が絵の中に沈む。杏助はキャンバスを超えて絵の中のあの空間へ。




 杏助が絵の中の空間に入り込んだ瞬間。飛来するパレットナイフ。激しく波打つ絵具の床。それらは杏助を拒んでいるようだった。

 杏助は絵具やパレットナイフでの攻撃を躱す。イデアを展開し、身体能力を上げる。能力を使った攻撃の妨害は、しない。この空間に使ってしまっては何が起きるかわからない。彼自身も空間の主である咲も消えてしまうのかもしれない。

 今度は壁にかかっていた手の絵画から、黒い手が伸びてくる。杏助は振り向き、その手を避けた。


「やれやれ。あんたも懲りないね……杏助?」


「ひゃっ!?」


 杏助の知る声とともに攻撃がやんだ。突然の声に驚いた杏助は格好のつかない声をあげる。

 杏助の目の前には彼の知る人物、堤咲がいた。

 きょとんとしたような、だが疑うような顔で咲は杏助に視線を向けた。なぜ彼はここにいるのだろう、と。


「悪いですね、咲さん。ちょっと相談したいことがあったんです」


「へえ……?」


「有田先生の失踪のことです。先生は何かを知りすぎていた気がするんですよ。俺と晴翔と悠平と白水さん、あと香椎先生の視界を借りていたから情報を持っていたということなんですが。ほら、情報を持っている人って映画なんかで最初に殺されるじゃないですか」


 と、杏助は言う。すると咲は何か困ったような顔になる。それもそのはず、目撃者でもない彼女に有田のことを聞くのは正しいことではない。


「私はそれについてよく知らない。でも、彼女なら知っているのでは?」


 咲はこの空間にいたもう1人の人物を指した。

 もう1人の人物とは、白水帆乃花だった。彼女は白い椅子に座って画集を見ている。ふと、彼女は顔をあげ、杏助を見ると明らかに嫌悪感を抱いた表情を見せた。


「ほら、話してやりなよ。あんたが情報を渡さなければ杏助はこの後も戦っていけない」


 と、咲は言う。

 帆乃花は少しためらった後、口を開いた。


「有田先生が殺された。私が見ていたところで。私が戦えば殺されただろうし、私が死んだら本当のことを知る人がいなくなる。だから私はなにもできなかった。責めるなら私を責めたら!?」


 帆乃花がそう言い放ってしばらくの間、空間に沈黙が流れた。帆乃花はいち早く杏助から目をそらす。杏助もばつが悪くなったような顔になる。


「あなたは悪くない。俺、別にそんなつもりもないし、目の前で人が死ぬのって辛いよね」


 しばしの沈黙の後、杏助は言った。彼なりに帆乃花を気遣ったつもりであったが。


「変に同情しないで。何もできなかったからって同情されると余計に悔しくなる。どうせ私を馬鹿にしているんだよね。いままで私を虐げた男どもみたいに!どうせ、強く見えるようにしたって意味がないんだ」


 帆乃花の返した言葉はこうだった。彼女は杏助に心を開くつもりもない。ただ彼女はやり場のない思いを抱え込むしかなかった。

 ふっ、と息を吐き、帆乃花は言った。


「出て行け」


 帆乃花は鋭い目つきで杏助を睨んだ。


 杏助はこの空間に入ってくるときに通った絵具の壁を通り抜けて空間を出た。この状況において、杏助は蘇我清映の情報を得られたというだけでも感謝するしかなかった。


 やがて杏助は家路につく。


 ――杏助の耳に声が入る。杏助に訴えかける何者かの声が。


「殺して。蘇我清映を殺して」


 はっきりと耳に入ったその声。杏助は頭がおかしくなったのかと思っていたが――


「異世界から帰ってきた蘇我清映は、私の首を切り落として木箱に詰めた。力を得るために。だから、復讐のために殺してほしい。私には何もできないから」


 その声は次第に形を成していった。

 それは首のない巫女の姿。晴翔の口を借りて杏助に語り掛けてきた彼女。


「いい?彼を殺さなければ彼のかけた呪いは消えない。お願い」


 彼女は続けた。


「わかったよ。見つけたら、今度こそ殺す。異世界追放では済ませない」


 と、杏助は答えた。




 蘇我清映はケテルハイムの屋上にいた。端末の画面を見つめ、何者かと連絡をとっている。


 ――香椎孝之はお前が殺せ。


 清映はメッセージを送る。その相手が誰なのか、彼以外にはわからない。が、彼は既に行動をはじめていた。

 清映の目は春月川を向いていた。



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