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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
62/89

59節 焼き尽くされた■■

 調査を終えた彰はノートを弟の晴翔に預け、零を探しに出た。




 彰が向かった先は廃屋の残骸のある春月川付近。ここでは一度人が死んでいることもあって、人通りが減った。静寂に包まれた住宅街の一角に、廃屋の残骸はあった。

 建物の半分が無理やり削り取られ――これは杏奈が異界に飛ばし、今では屋内にあったはずのゲートが外からも見える。その近くには人間の頭蓋骨が散乱している。

 そんなゲート付近であるが、零はいない。

 彰はその近くにいないかと、川沿いの道に出た。


 川沿いの道。土手の下にはさらに人が通れる道があった。朝や夕方にはウォーキングやランニングのためにここを通る者も多い。が、昼間ということもあって人通りはほとんどないに等しい。

 ――果たしてここに人はいるのだろうか。


 彰がその場所を去ろうとしたときだった。彼が持っていた鉄のチャクラムが錆びる。不審に思った彰はイデアを展開し、後ろを向いた。


 橋の下。赤い髪がなびく。彼の周囲には金色の葉が浮かんでおり、開閉を繰り返す。

 その特徴は杏哉から伝えられた敵の1人、多々良雅樹の特徴と一致していた。多々良雅樹は酸素使い。考えていることを表に出さず、彼は狂人を装っている。だが、彼の頭脳が未知数である限り、彰は手を抜けない。


 ――先に動いたのは彰だった。

 その手から放たれる、毒を纏ったチャクラム。塗りこんだものは命にかかわらない麻痺毒。


「来たか、狩村彰!」


 雅樹は彰を待ちわびていたように言う。その直後、彼の手から離れたものは火炎瓶。それが枯草の中に放り込まれると、枯草に引火する。

 これで彰の逃げ道は塞がれた。土手は激しく燃え上がり、その酸素濃度を示している。


 対する彰はあえて雅樹との距離を詰めた。


「教えてもらうぞ。やつの居場所を、な。どうやらお前はグルらしいからな」


 と、彰。

 彰は至近距離で銀のチャクラムを取り出して投げようとした。が、チャクラムは一瞬にして酸化する。

 ――どうやら雅樹の実力は彰が聞いていたもの以上らしい。杏哉いわく、雅樹は単調な攻撃が多いということだったが。


 動揺した彰を見抜いたのか、雅樹はもう一つの火炎瓶を拾って彰に投げた。

 炸裂する火炎瓶。火の粉が彰にふりかかり、彰は雅樹から離れる。


(予想以上に厄介な相手じゃないか!)


 ――割れた火炎瓶。炎が油にうつり、彰を取り囲むように燃え上がる。

 雅樹の殺意は明確で、本気で彰を殺そうとしているらしい。


 炎に取り囲まれ、彰は言う。


「言っておくぞ、多々良雅樹。俺は正義の味方でもないし、人殺しを当たり前だと考える人種だ。お前にやつ……織部零の居場所を吐かせるためならどんな手段でも使う」


 彰は炎を挟んだむこう側にいる雅樹に言った。そして彼はジャケットの内ポケットから2振りの苦無を取り出した。

 その顔には殺人者としての彰が現れる。


 彼の姿を見ていた雅樹は笑みを浮かべた。

 ――雅樹の姿を確認すると、彰は炎を突き破って彼との距離を詰めた。麻痺毒を塗り込んだ苦無で雅樹の体に傷を入れんと。


「くそっ……俺じゃなくて零さんなら……」


 近距離で抵抗するすべのない雅樹は必死に酸素濃度を高めた。その弊害からか、土手に生えた草が激しく燃え上がる。

 ――どこからか消防車のサイレンも聞こえる。


「よし……もう抵抗するなよ」


 彰は抵抗する雅樹の懐に入り込み、肩に傷を入れた。その傷から入り込む即効性の麻痺毒。衝撃で雅樹はバランスを崩して道にしりもちをついた。


「……おい、殺さねえの?杏哉は太一の野郎を殺したが」


 震える声で雅樹は言った。


「織部零と蘇我清映はどこにいる。死ぬことはゆるさないぞ」


 零はナイフを突きつけて言った。


「零さんは……毎日、ゲートを見て回っているぜ」


 雅樹はナイフが再びその体に触れる前に言った。


「やはりか。それで、蘇我清映の方はどうだ?こちらも吐いてくれなければ……」


 彰がそう言ったとき。雅樹は震える手でライターを出した。彼はそのライターで服に火をつける。

 ――まさか。

 酸素濃度は高く、ライターの炎はいともたやすく雅樹の服に燃え移る。それだけではなく、雅樹は彼自身の手にも火をつけた。


「ちっ……自死するつもりか!」


 一瞬にして燃え上がる雅樹から離れる彰。そうするしかない。自分自身が死なないためには。そうでなければ雅樹と心中することになる。


「そうだよ、自死だよ!死は最高の快楽だと言うが、これほどまでとはなァー!」


 熱と痛みに顔をゆがませ、雅樹は叫ぶ。痛みと快楽で絶頂を迎えた雅樹。理解しがたい彼の性癖ゆえ、直接見ることとなった彰は眉間にしわを寄せた。


「っああ……熱い!痛い!」


 もはや、彼なりの快楽に支配された雅樹から何かを聞き出すことなどできない。

 人の肉が燃えることで、空中に油脂が舞う。脂のべたつきを直に感じた彰は焼ける雅樹をただ見ることしかできなかった。


「理解に苦しむ。お前はどうして痛みを求める。どうして自ら身体を焼く。本当にわからない」


 と彰は言うと、燃える雅樹に背を向けてひざまずいた。吐き気が雅樹を襲う。高い濃度の酸素に晒された彰は早くこの場所を離れたかった。

 だが、今の状況はそれを許さなかった。土手の草は燃え盛り、彰のゆく手を阻んでいるようだった。


「好き勝手しやがって」


 彰はそういうと、吐き気に耐えながらイデアを最大限に展開する。杏奈や杏助には及ばないものの、かなりの密度だ。紫色の粉のイデアを纏い、彰は燃える草の中に足を踏み入れるのだった。



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