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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
失踪者編
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58節 呪いの残滓

 焼肉パーティーから数日後。鮮血の夜明団をあげた調査が再び行われていた。今度の調査地点は春月市の中心部。地下道の噴水広場だった。

 以前、ゲートが確認された場所を見る彰であったが、彼はやはりゲートを見ることとなった。

 ゲートは相変わらず半分が水に漬かっており、中に水の一部が流れ込んでゆく。それとは対照的にゲートからは金色の水――おそらくはガスの混じった水がこちら側に流れ出していた。さらには金色の霧。


「頼めるか、治さん」


 と、彰は言う。


「任せろ。とはいえ、ここは人がよく通ったみたいだから思念とノイズが多すぎる。精度には期待すんな」


 治はイデアを展開し、地下の噴水広場の情報を引き出し始めた。

 その様子を見守り、敵襲に備える彰と悠平と杏助。妙な噂が立ったことで人通りの激減した噴水広場とその近くの道。今の4人以外に人は立ち入らず、噴水広場には噴水の音だけが響く。


「学校の方も相当だったと聞いたぞ」


 彰は言う。


「そうですね。1人だけだったんですけど。で、その人がどうも異世界に期待していたみたいで」


 悠平は答えた。

 その1人とは、以前朝礼で話のあった男子生徒のことだ。彼の思いを引き出された以上、同じようなことが起きていてもおかしくないと考える悠平であった。

 その一方、杏助はスリングショットを持って敵襲に備えていた。清映、光太郎、零の3人が死ぬか行方不明となっているこの状況で果たして襲撃者が現れるのか、ということであるが。

 しかし、杏助は得体の知れない不安に襲われていた。あのとき解けたはずの呪いではない何かがここにあるのではないか、と。杏助はそのことを言い出せないでいた。


「杏助!顔色が悪いぞ」


 ふいに彰は言った。


「だ、大丈夫ですよ!俺、今は……」


 元気だと言いたかったが、杏助の中にはまだ気にしていることがあった。それは、あの日から感じている邪悪なもの。春月市というエリアに向けられた明確なる邪気、殺意。

 ――まだ呪いなんて解けていない。


「俺は大丈夫です。でも、まだ裏があると思うんです。兄ちゃんが言っていた、蘇我清映のこと。彼、もしかすると……考えたくないですが」


 杏助は言った。


「思い違いであってほしいです」


 その一方、悠平もどこか不安そうな顔をしていた。

 ――そういえば、彼もあの日霊皇神社にいた。キリオから体の自由を奪われるも、首から上の感覚はあった。そのときに覚えた感覚は、「殺す」「滅ぼす」という絶対的な意志。彼の予想が正しければ、彼の知らぬところで放たれていた絶対的な意志――呪詛は17年前の呪いに代わって春月市にかけられている。

 悠平は口を開いた。


「あの……」


 杏助と彰が悠平の方を見た。


「杏助の思い違いではないかも。あの日、俺が神社で感じたものはもともとかけられていた呪いと違うかもしれない。それこそ、あの3人の誰かが意図的に発したものかもしれません」


 悠平はつづけた。


「それ、もしかして蘇我清映?俺が戦った相手だけど町ごと呪うって感じでやばくて」


 と、杏助。彼が思い出すだけでもその恐怖は甦る。下手をすれば、いや、あの方法を思いつかなければ死んでいたのではないかと考えた杏助は身震いする。

 幸いにも清映を異世界に放逐できたが、彼が戻ってくるとしたらどう対処すべきか杏助の知ったことではない。奇跡のような勝利をもう一度繰り返すことができる自信など、杏助にはなかった。


「多分そうだ。どちらにしても霊皇神社に行く必要が出てきそうだし。新しくかけられた呪いが本当なのか調べるためにね」


 と、悠平は言った。


 そんなときに治が3人の方に向き直る。


「おら、できたぞ。やっぱりノイズ多めだったが異世界に行きたがっていた人も多少はいるみたいだぞ。全く、異世界で何をやりたいってんだ」


 治は展開していたイデアを消し、ノートを彰に手渡した。治の言葉どおり、この場所は人通りが多かったためかノイズが多い。疲れた顔の治はため息をついて石の上に座り込んだ。


「あとな、織部零ってやつがここをうろついていたみたいだ。それもほぼ毎日。これは俺の仮説なんだが、あいつは誰かの帰還を待っているんじゃないか?異界の誰かを、な」


 異界の誰か。杏助はそれだけで思い当たる人がいた。

 ――杏助は絶対に清映から逃げられないのかもしれない。彼を異世界に放逐したところで無駄だ。


「そうか……やっぱり生きていたんだな、あの野郎」


 ふと、彰は言った。


「治さん。零はここに毎日現れるんですね?」


「そうだな。他にどこに現れるかは知らん」


 治は言う。

 この時点で彰は零を探すと決めた。彼が何かをしでかさないうちに。


「2人に頼みがある。特に、杏助くん。2人は神守杏哉の力を借りて蘇我清映を迎え撃ってもらえるか?もちろん、彼が戻ってくるとは限らない。戻ってこなかったらそれでいいし、杏助くんは呪いを解く方法を探してくれればいい」


 彰は杏助と悠平の方に向き直り、言った。


「えっ、俺も……いいですけど」


 悠平は口ごもる。とはいえ、彼は戦い慣れしていない状態からいくらか成長したようだった。


「さてと。俺はあの野郎の場所を予測してみる」


 ――こうして、春月市の中心部の調査は終わる。4人は解散し、それぞれの方向へ向かう。

 だが、その先に何もないはずがない。特に、情報を持った者は。



早くもヤツの復活フラグが建つようです。

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