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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
怪奇を追う霊感少年
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5節 損な男、絵の中に呼ばれる

やっときました、損な男!この時点ではヘタレですが成長します。

 学校が休みの日。杏助と晴翔は家族に「自習する」と伝えて登校していた。もちろんそれは家族に言うための嘘である。

 杏助と晴翔が向かった場所は旧美術室。例の絵がある場所だ。


 杏助と晴翔は旧美術室の通路を進み、例の絵の前までやってきた2人。相変わらず未完成の絵は杏助の方をじっと見ているようだった。だが、怨霊の類に睨まれているような感覚は一切なかった。


「ええと、俺ですよ。秋吉杏助。ラーメンを食べるのがk……」


 杏助が言いかけると、絵の中からぬっと両手が現れ、杏助と晴翔を絵の中へ引きずり込んだ。「彼女」は相変わらず手加減をしない。




 絵の中の世界は相変わらず色とりどりで目に悪そうな色合いだった。そこに置いてある椅子に座った住人の堤咲は訪問者を見てにっこりと笑う。


「いらっしゃい」


 と言った。

 彼女はいつになく機嫌がよさそうだった。


「こんにちは、堤先輩……とその人は」


 杏助は咲と、もう1人の人物に気が付いた。自分と同じ緑色の学ランを着た学生が倒れている。だが、その姿は見覚えのあるものではない。他学年か、それとも別のコースの学生か。


「ちょっと連れてきてみた。どうやら美術科の人みたいだねえ。あ、こいつも生きているから心配しないでね」


 と、咲は言った。


 しばらくすると倒れていた男子学生が起き上がった。見たことのない顔であるが、顔立ちそこものは整っており、いかにも女性うけのよさそうな顔である。その一方で印象に残りはしないが。


「誰だあんた」


 晴翔はためらいもなく敬語でもない口調で尋ねた。


「誰だって……美術科2年の鶴田悠平ですよ。はぁ……なんでこんな目にあうんだ?」


 悠平はため息をついた。いかにも普通の美少年に見える彼はどうやら何かに巻き込まれたのだと認識したらしい。


「知らない。俺も晴翔も2年なんだし別に敬語じゃなくていいぜ。俺、秋吉杏助。こっちは狩村晴翔」


 名乗る杏助の顔を見て悠平は愛想笑いした。

 既に嫌なことに巻き込まれているというのにこれからまた何か起こりそうだと悠平は察していた。だが、もはや逃れることはできないと悟り、悠平はこれ以上考えないことにした。悠平はまさに損な男。


「悠平くん、まさかここから無断で逃げられると思っていないよね?」


 と、咲は笑顔で言った。それにともなって悠平の顔色がみるみるうちに変わる。


「逃げられませんよね、あははははは……」


 咲に圧力をかけられた損な男は愛想笑いを浮かべた。

 そして咲の言葉はこれから起こるであろうことを暗示していた。


「逃げられないね。だって私、悠平くんがここに来たときにしていたことはずっと見ていたし。君が私やこの2人みたいな変な能力を使えることも知っているよ。だって見ていたからね」


「見ていたんですか……俺もう死にたい。いっそ俺を殺してくださいよ!」


「やだよ。君には未来があるんだし、第一この町にかけられた呪いを解いてもらわないとこまるんだよね。最悪この町が滅んじゃうようなとんでもないような代物だし?」


 咲は言った。

 落ち込んでいる悠平の傍らで杏助は何かを思い出す。ついこの間、首のない幽霊から聞いたこと。それが杏助の中で引っかかっていた。


 ――呪いを放っておけば春月市が因縁に飲まれて消えてしまう。17年前に消えたあの村のように。


 首のない幽霊は確かにそう言っていた。


「堤先輩。呪いについて詳しく聞かせてください。俺、そういう話興味あるんですよね」


 杏助は言った。彼の言葉を聞いた悠平は以前にも増してあきれていた。

 一方の咲は「よしきた」と言わんばかりの表情だった。きっと咲と杏助は話も気も合うだろう。


「フフフ……よく聞いてくれたね。実は3年前から誰かに話したくて仕方なかったんだけど」


 ニヤリ、と咲は笑った。


「これは17年前の頃。ま、わたしがまだ5歳だった頃かな?17年前に起きたことについては光太郎って男から聞いたんだけど。

 まあ、神主がどこかの村で儀式に失敗してしまったわけよ。どういう目的だったのかはよく知らないけど。それで、儀式の反動で村に呪いがかかってしまったと。それで村が滅ぶだけならまだよかったのね。それがもっとひどい方向に行ってしまってね、簡単に言えばこの町に呪いがかかったのだと。その呪いを解く方法は明かされていないようだけど、君たちのような能力を持った人は必要になるだろうって言われている」


 ここにいた3人の男子高校生のうち、杏助だけがその意味を正確に理解できた。


「要するに、どこかの村の神主が儀式に失敗した反動が呪いで、その呪いが春月市にもかかってしまったってわけだ。そうですよね、咲さん」


 杏助は言った。


「そうそう。さすが杏助くん。で、3人にお願いするのが呪いを解くこと。なんだけど、まずは手がかりを探したいよね。とりあえず私の作品からならこの空間に出入りできるから私の作品を一つずつ持ち出してくれる?これからの作戦会議もしたいし。別に協力者を増やしてくれてもいいんだよ」


 と、咲は言った。

 杏助と晴翔の頭に協力者と聞いて思い浮かべる者が数名。それは神守杏奈や狩村彰をはじめとする鮮血の夜明団の面々。彼らなら、という希望を抱いていたそのとき、咲は再び口を開く。


「あと、悠平くんは絶対に逃げないでね。別にイデア使いが珍しいというわけではないけど私的には人が欲しいんだよね」


 咲は悠平の考えをわかりきっていたかのように彼に釘を刺した。損な男はやはり逃げられないのだった。悠平は頭を抱えた。




 3人の男子高校生は咲との話を終えて絵の外に出る。絵の外は旧美術室だが、そこは学校が休みであろうとも無人ではなかった。

 ――絵の近くには女子高生が1人。彼女もまた異様な雰囲気を持ち合わせていた。

 攻撃的で、警戒心が強く、襲い掛かってきたものすべてを破壊しつくすような。



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