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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
55/89

52節 絶対破壊の太刀

場所は変わって杏助VS清映。圧倒的な力の差がある2人の戦いです。

 刃が空を切ったかと思えば木が切り倒される。それだけでなく、空間まで揺らぐ。

 杏助は悟った。この相手が未だかつてない化け物であると。一度同じ場所で対峙したときとはくらべものにならない強さを持つ者であると。

 そいつとは正面から戦ってもきっと勝てない。奇襲やイカサマでもしない限り。


 ローレンがキリオを焼き殺した頃。

 杏助は蘇我清映と戦っていた。いや、これが戦っていると言えるのだろうか。

 ――杏助は清映の太刀を必死に避けるだけで攻撃をすることもない。攻撃しようとすれば、絶対なる破壊の刃が杏助に迫るのだ。それを防ごうにも、清映の刃はイデアまで両断する。

 今のところ、杏助に打つ手はなかった。


(こいつは騙せる人なんだろうか)


 杏助は清映の斬撃を避けながら考えていた。


「遅いぞっ!」


 その声とともに太刀が空を切る。

 空間が切断されたように歪み、杏助はふらつく。彼が横目でとらえたものは、太刀の風圧によって両断される本殿。

 ――杏助はその光景に恐ろしいものを見た。蘇我清映という人物そのものが絶対的な破壊者であった。


 清映は杏助を追撃すべく、迫る。そのとき、杏助は清映の振るう太刀に「何か」を見た。

 たとえるならば祟りか、悪霊か、怨霊か。杏助がその目でとらえたまがまがしいもの。それがあらゆる物体を、空間まで切り裂いてしまう絶対破壊の太刀を形作っていることは杏助にも理解できた。が、理解できたからといって――


 絶対破壊の太刀が空を切り、杏助の三つ編みの先端が切られた。太刀は杏助のすぐ近くをかすめ、空間の歪みは衝撃波のように杏助に直撃する。

 吹っ飛ばされ、背中から本殿にぶつかった。


(何だ……これは)


「理解できぬか、杏助。貴様はその程度であるということだ」


 余裕を見せた清映は言った。

 今、その気になれば彼は杏助を切り殺すことなどたやすいだろう。その相手を見て目を合わせている以上、彼には「絶対に勝てる」という自信がある。杏助もその根拠はわかる。


「今はね……でも、俺は多分成長しますよ。それに、知恵比べならきっとあなたに負けない」


 本殿に寄りかかり、杏助は言った。

 ――彼の視界にはとある武器があった。ローレンを捕縛した武器であり、杏助がよく使っていたもの。スリングショット。参道に落ちていたはずのそれは清映の斬撃でゆがんだ空間によって本殿の裏側に無理やり引き寄せられていた。

 スリングショットを目にしたとき、杏助はあることが頭に浮かんだ。直接触れることが危険ならば、遠距離から攻撃できれば。そのためには――


「あなた、本当に俺を殺すことを考えてます?」


 と、杏助は言った。清映の表情がゆがむ。


「答えるまでもなかろう。最終的には殺すつもり……」

「今殺すんじゃないんですね」


 杏助はそう言うと刀を置いてスリングショットを拾う。ポケットに入れていた制服のボタンを弾の代わりにして、イデアを纏うとそれを撃つ。狙いは清映ではなく、彼の持つ刀。

 金色のボタンが一直線に飛ぶ。


 ――金属音。ボタンが命中するなり、刀は消滅した。


「なっ……」


 動揺する清映。差し迫っていない状況であればほとんどの人はなぜこの現象が起きたのかを説明するだろう。が、今杏助は絶対破壊の太刀を振るう強者を相手にしている。

 杏助は足にイデアを集め、右手で刀を拾うと本殿の屋根に跳び上がった。

 刀が消えたのは杏助の予想通りだった。が、すぐに刀を再構築して斬りかかってくる可能性だってあった。無効化して、それから立ち直るまでにどれだけ時間がかかるか。それが問題だ。


(再構築までの時間を見ないと……)


 本殿の屋根の上。それも真ん中の方に杏助はいた。彼は瓦に掴りながら下の様子を見た。

 ――一度解除された能力。清映の手には少しずつエネルギーが集まり、亡霊のようになって刀が形成された。約10秒の出来事だった。

 そして清映は本殿の屋根を見る。その上を目視することは彼にはできなかったが。


「逃げたか、杏助。だが気配でわかる。屋根の上にいるな?」


 清映の一言で屋根の上は一瞬にして安全地帯ではなくなった。


「ほ、本当に殺しちゃう?生け贄って捧げるときは生きてる必要があるんだろ?だってあのときもダルマにするって……」


 杏助は言う。だが清映は答えずに太刀を振るう。

 揺れる本殿。瓦がずれる。

 杏助は清映のいない方に飛び降りた。奇襲をしかけるために。そのとき、彼は横目で捉えた。

 それは黒い穴だった。金色の霧があふれ出し、空間がゆがんだもの。その中からは黒い手が伸びてきている。杏助が再び目にすることとなった異界へのゲートだった。


 杏助は着地する。衝撃はイデアによって和らげられたが、緊張だけは和らげることもできない。が、杏助はあることを思いついた。それは清映をゲートに叩き落すこと。これまで平穏に暮らしていた杏助は当然ながら殺人に慣れていない。死ぬか自分が殺すかの状況でも杏助は殺しを戸惑っていた。だからこそ、その考えは名案ではないかと杏助は考える。

 あとはそれを実行するだけだ。


 まだか。


 まだか。


 まだ来ないのか。


 はやくあのゲートに叩き込みたい。


 まがまがしい気配が強くなった。

 次の瞬間、破壊される本殿。木片が飛び散り、砂埃が上がる。瓦が屋根から飛び散る。その破壊された本殿から現れる清映。


「逃げるとは小賢しい真似を」


 この声とともに。

 来た、と杏助は心の中で歓喜する。次はゲートにおびき寄せる。

 杏助は無言で、だが自信ありげに清映を見た。



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