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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
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51節 正義の末路

 光太郎の襲撃で杏助はキリオの目の前から消えた。

 今、キリオの目の間にいるのは悠平ただ1人。悠平はイデアを展開してキリオとにらみ合っていた。

 隙はないか、彼をどのようにして倒すべきか、杏助がいない状態でどうやって呪法を攻略するか。それが悠平の考えることだった。


「君、やはりおかしいと思ったよ。露骨に僕を避けていたからね」


 と、キリオは言う。

 じっとりとした彼の声は悠平の恐怖を駆り立てる。が、今の悠平はその程度で屈するようではない。彼は既に修羅場を乗り越えている。


「危険な相手だから避けるのは当然。あなたを避けていたのはあなたが危険だからです」


 悠平はそう言って、キリオから距離をとる。が、キリオは悠平に迫り――


「君の快進撃もこれまでだ!やはり君の記憶もそうそうに消しておくべきだったよ!」


 まがまがしいもの。手刀。その手刀が叩き込まれる先は、首元。

 ――殺される。

 悠平は直感的にそう考えた。

 だが、キリオの手刀は悠平の心臓や呼吸器に影響を与えることはなかった。影響を与えたのは――


(体が動かない!?感覚もない!俺はどうやって!?)


 ――キリオの呪法は悠平の神経系をおかした。今、悠平は首から下のほとんどの神経が損傷している。


「こういうこともできるんだよ。体に傷一つつけずに君を再起不能にすることがね。せっかく顔が良いんだから僕としても傷つけるのは気が引ける」


 キリオはそう言うと視線を大木の方に向けた。

 そこに何があるのだろう、と悠平も視線をそちらに移す。そして気づく。彼が予想していなかった人物が枝の上にいる。

 彼女の髪は長かった。その長い髪に火がつけられる。木に燃え広がることもなく、その炎は彼女を包む。彼女は枝から飛び降りて――


「白水さん!?」


 彼女、白水帆乃花は着地するとキリオに向かって突進する。右手には鉄パイプを持って。


「誰だ、君は」


 キリオは言う。


「うるさい、だまってあたしにぶん殴られろ!」


 帆乃花は鉄パイプを振りかぶり、キリオの体を殴打する。

 ――骨が折れたような音。殴られたキリオも表情がゆがむ。力があるようには見えない女子高生がなぜキリオへダメージを与えられる?


「ちゃんと答えてくれ。なぜここに来た」


 1発は打撃を受けたものの、それ以降の帆乃花の攻撃を避け続けるキリオ。鉄パイプを振り回す戦闘慣れしていない帆乃花とは対照的に、キリオの動きには無駄がない。最低限の動きで帆乃花の打撃を躱す。


「ローレンさんが縛られているから様子を見に来ただけ。どっちかが何かをされたってわけだよねえ!?」


 ブォン、と音を立てて鉄パイプが空を切る。


「違うだろ」


 鉄パイプを避けたキリオは帆乃花に詰め寄り、呪法を纏った手刀を叩き込む。

 が、呪法は急速に失われ、炎となった。


(なんだ、これは……呪法が効かない相手だって?)


「違わないし。それに、あたしは男に触られるのが大嫌いなわけェ!」


 キリオの顔にめりこむ鉄パイプ。キリオは頭を殴打されたことでふらつき、目の焦点が帆乃花からずれた。


 帆乃花は地面に手をついたキリオの顔を見た。


「本当に何なんだ、君は。急に乱入して僕を……」


「喋んな。あと、あたしに向かってそのきめぇ面見せんな」


 キリオを見下ろす帆乃花の顔は修羅のようだった。

 彼女を目の前にしたキリオは頭を押さえて立ち上がる。彼はこめかみから血を流していたが、戦意を喪失したわけではなかった。


「ふふ……君も相当だな。肉体強化が得意なタイプと見た。ひょっとすると杏助以上なんじゃないか?」


 キリオの纏う呪法が強くなる。次に彼が何をしてくるか。少なくとも、帆乃花は彼の攻撃の挙動を見切っていた。

 ――手刀を避ける。蹴りを受け止め、呪法のエネルギーを変換する。だが、そのエネルギーは負のエネルギー。


 帆乃花の纏っていた炎の勢いが弱まる。


(くそっ……これは!?)


 帆乃花がこれまでに見たことも経験したこともない現象だった。彼女の能力はエネルギーの変換。その能力をキリオ相手に使ってみれば、手刀の勢いこそ変換できたものの、呪法のエネルギーの変換はそううまくいくものではないらしい。炎の勢いが弱まったのだから。


 パワーだけではキリオを圧倒していた帆乃花。しかし彼女には弱点があった。戦闘の経験が少ないこと、そして戦闘中に頭を使わないこと。

 二つのファクターは致命傷ともいえた。


 帆乃花が鉄パイプを振りぬくと、キリオはそれを受け流して帆乃花の手首をつかんだ。それから、投げる。

 宙を舞った帆乃花はそのとき我に返る。視界には一瞬であるが、ローレンの姿が入り――


「帆乃花あああああ!」


 縛られたローレンは帆乃花が宙を舞う様子を見て叫んだ。


「どうかしたかい?」


 ローレンの声に反応するキリオ。

 帆乃花とキリオの戦闘の傍観者であるはずだったローレンは、頭の中で何かが切れた気がした。

 帆乃花が味方だということは覚えている。味方の敵は敵。つまりキリオは――


 帆乃花が地面にたたきつけられる。それと同時に叫ぶローレン。


「お願い、帆乃花!これを解いてぇ!私、あんたを助けたいからさあ!」


 ローレンの声が帆乃花の耳に入る。帆乃花もローレンのことを大切な仲間だと認識し、彼女の敵対には何かの理由があるのではないかと考えていた。8割がたは勘であるが。


 帆乃花は立ち上がり、ローレンに駆け寄った。そして、彼女を縛る糸を素手で引きちぎる。


「何をしているんだ?」


 と、キリオ。

 帆乃花は答えない。が、その答えの代わりはローレンの逆襲だった。彼女の予想外の行動にキリオは唖然としたが――


「何かわからないけどあんたは敵だと見たぞ!帆乃花の敵だから!」


 帆乃花の存在。それが戦況を変えた。ローレンがキリオを何と認識するのかを帆乃花は変えた。ローレンはキリオを敵であると判断し、その攻撃の矛先を彼に向けたのだった。


 ローレンはキリオに詰め寄り、ジャックナイフを振るう。

 このとき、キリオの動揺とローレンの反射神経が勝負を決めた。

 ジャックナイフの刃から流し込まれる血糊のイデア。その攻撃を受けたキリオは傷口から煙を上げ、体が発火した。


「ああああああああっ!?君は一体……」


挿絵(By みてみん)


「やべっ、人肉シチューにはならなかった。普通に燃えちゃったみたいだ。ごめん」


 と、ローレンは言う。

 とてつもない温度で燃え上がるキリオの体。すでに彼は意識もなく、炎に焼かれるだけだった。


「ローレンさん……」


 帆乃花はつぶやいた。

 するとローレンはジャックナイフを放り出して帆乃花に近寄り、ぎゅっと抱きしめた。


「悪いものを見せてしまっただろう?でも、大丈夫だからね。私は君に何もしないから」



ローレンは人殺しに慣れているうえに帆乃花のことは忘れていませんでした。しかも帆乃花を個人的に気に入っている。キリオの敗因は帆乃花の存在そのものでしょうね。

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