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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
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49節 鳥亡一族は引かれ合う

好奇心は猫をも殺すといいますが……。

 好奇心はオカルトマニアを殺す。

 杏助はキリオに押さえつけられた状態でこれまでの行いを反省した。

 異世界転移の都市伝説を信じてゲートの近くに出向き、イデア能力に目覚めた。その後、杏助を助けた鮮血の夜明団に深入りした。好奇心と鮮血の夜明団への信頼から呪いに触れた。これがすべての元凶だと杏助は確信する。

 こんなはずじゃなかったのに。


「清映さん、取り押さえました」


 キリオは言う。

 だが、清映は杏哉と剣を交えることに必死で聞こえていない。もう一度清映に声をかけようとしたとき、キリオの首筋に何かが突き付けられる。

 キリオはその刃に気づくと同時に飛びのいた。それでも刃――鏡の破片はキリオを追尾する。


「杏助、今だよ」


 刃を突き立てた主、悠平が言うと同時に杏助は立ち上がる。

 悠平は急いで杏助に駆け寄り、刀を差しだす。


「あんたのだ。杏哉さんが言っていたよ」


 それは緑色の柄と鞘の打刀。間違いなく杏哉が杏助に手渡していたものと同じ。

 杏助はその刀を受け取る。


「ありがとう」


 杏助は言った。

 キリオは当然ながらその様子をよく思わなかった。彼は呪法をその身に纏い、悠平に忍び寄った。悠平に手刀を叩き込むために。

 だが、杏助はキリオの気配を察知してイデアの展開範囲を広げた。杏助のイデアによってキリオの纏っていたものは消える。


「何度も同じ手は喰らわないと――」


「何が同じだって?」


 その声とともに、悠平はキリオに攻撃を放った。彼の纏うもの――呪法を同質の黒いビームを。

 反射する能力とも違う。現にキリオはただ忍び寄るだけで悠平に攻撃は加えていなかった。それでも悠平は振り向きざまにその攻撃を放った。


「成長したね、悠平くん。正直、その攻撃は恐れ入った。ビーム、だろう。それが彼に通用するかい?」


 彼。

 この場にいるキリオ以外の動ける敵は清映のみ。それ以外に誰がいるというのか。

 ふいにローレンは声を上げる。


「え、何これ。地面から変なのが迫ってるう!?」


 ――杏助、悠平、杏哉、ローレンの4人は奇妙な気配をその肌で体感した。

 呪いのようでそうではない。人に対して相当な敵意を有した者が地中から悠平に迫る。その気配はねっとりと絡みつくようで――

 地面から人が現れたかと思えば、そいつは悠平に刀の切っ先を向けた。悠平はそれを躱す。

 その人物は年齢が50代前後の精悍な顔つきをした男だった。


「先代さん、ありがとう。あなたが来てくれれば相当な戦力の強化になる」


 キリオは言った。


「礼などいらん」


 先代――筑紫光太郎は言葉を吐き捨て、再び悠平に迫る。が、光太郎の刃を受け止める者がひとり。

 杏助の瑠璃色の瞳は光太郎の顔を睨んでいた。


(怖い。でも、やるしかない。この状況を生んだのは間違いなく俺だから)


 光太郎の刀が杏助の刀の鞘に食い込んだ。「まずい」と直感した杏助はすぐさま刀を振り払う。いかにして光太郎を無力化するかが杏助の勝利の鍵だった。

 杏助は光太郎の全体に目を向けた。泥のようなものが足元に存在し、動くたびにその一部が消えている。もしや、と杏助は考え、抜刀した。

 もし杏助の考えが正しければ、光太郎を斬っても彼は致命傷を負うどころか、傷一つつかないだろう。


「ついに抜刀したか」


 余裕を見せる光太郎。対する杏助は無言で彼に詰め寄った。そして、斬る。


「やっぱり……」


 杏助が発したその言葉の真意。

 ――杏助は光太郎が地面から現れたときの状態から能力に見当をつけていた。人体が土と一体化していたときから怪しさはあった。が、これは杏助の一撃で決定的なものとなった。

 杏助の太刀は光太郎を切り裂かず、素通りした。だが、杏助には手ごたえがあった。その手ごたえは人間とはあまりにもかけ離れ、もはや人外と呼ぶにふさわしい者のそれだったが。たとえるならば「沼男(スワンプマン)」が妥当だろう。


 杏助の顔に泥が飛び散った。


「やっぱりとは何だ」


 光太郎は泥と化した彼自身の肉体を再構築しながら言った。


「俺の読みが当たっていたってことですよ」


 と、杏助。

 焦りを表に出していない彼であったが、彼自身は手詰まりであると感じていた。イデアを纏った状態で光太郎を斬っても傷一つつけられない。

 光太郎の弱点はどこにある?


 杏助が手詰まりだと感じていた間にも光太郎は杏助に迫る。刀身が泥と化した刀を振りかぶり、杏助にたたきつける。とっさの判断で杏助はその攻撃を受けなかった。

 躱した勢いで杏助は神社の本殿までダッシュし、賽銭箱の上に乗ると光太郎の方に向き直る。


「罰当たりなことをするのだな」


 砂利の上にたたずむ光太郎は言った。


「罰当たりだって?土着信仰もオカルトも結局は人間が生んだものじゃないか」


 と、杏助は言い放つ。


「あんたもたかが信仰に縛り付けられているんだろ。どーせ、そうなんだよ。土着信仰にかかわる人間なんてさ」


 煽る杏助。

 さすがの光太郎も杏助の煽りには堪えるものがあった。彼自身、土着信仰に大いにかかわる立場であったうえに、その土着信仰を取り戻そうとしている身だ。

 光太郎は杏助の挑発に乗った。そのまま、杏助の手足を斬り落とさんと迫ってくる。

 対する杏助は神社の本殿の裏側へ向かって逃亡する。自分で挑発しておきながら、対処法が思いつかなかったのだ。


(まずい!こいつをどうやって倒せばいいんだ!?)


 走る、杏助。そんな中、杏哉と清映の姿が目に入る。


「な……杏助!?」

「先代!何が……」


 同時に言葉を発する杏哉と清映。彼らは動揺し、戦う事を一瞬だけ忘れた。

 だが。


「ふ……我々、鳥亡の一族は引かれ合うということか!」


 いち早くその状況に対応したのは清映だった。彼は向かってきた杏助に迫り、刀を振るう。

 対する杏助はその刀を受け止めた。

 ――清映の刀のまがまがしさが少しずつきえてゆく。これは何を意味するか。

 清映の表情がゆがむ。


「杏助よ……よりによってこのような能力を得ていたか」


 と、清映。

 杏助はここで何が起きているのかわからなかった。だが、彼の目がとらえていたものはまがまがしいものの浄化だった。


 杏哉もこれを見届けており、ほんの少しであるが安堵した。


「杏助。清映は任せたよ。もう1人は俺が殺す」



実はこの話は一番描きたかった部分の一つなのです。光太郎が沼みたいな能力を使うのも、最初から考えていました。なぜ沼なのかは……

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