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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
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48節 好奇心は少年を殺す

杏助はその好奇心によって身を亡ぼすのでした……!?

 杏哉は言う。


「杏助。君を探している人がもう1人来る」


 それは杏助にとって願ってもない福音だった。それが杏奈か、はたまた別の人物か。杏助には知る由もなかった。

 杏哉は黒いベルトに帯刀していた刀を抜き、ローレンに斬りかかった。


「そう来るか」


 ローレンはそう言って杏哉の一太刀を躱す。が、杏哉の狙いはローレン本人ではなかった。

 無駄のない動きで杏哉はローレンのスティレットを弾き飛ばす。続いて、ジャックナイフも。これでローレンは丸腰となった。

 そして――


「今だ!」


 杏哉の声とともに何かが撃たれた。それはスリングショットの弾だった。スリングショットの弾は鳥居のむこう側から放たれたようで――

 杏助が鳥居の方に視線を移すと、そこには予想外の人物がいた。スリングショットを持ったショートヘアの少年。杏助もよく知る人物、鶴田悠平。

 悠平の放った弾はローレンに命中し、一瞬にして彼女を縛り上げた。


「よし、当たった」


 対するローレンは「新手のプレイか」などと声を上げていた。

 悠平は命中したことを確認して鳥居をくぐり、杏助たちのいる方へ走ってきた。さらに、彼は一振りの刀を持っていた。杏助が一度杏哉から渡されたあの刀だ。


「ふうん……よく考えていたわけだね」


 キリオは言った。彼の言動にはどことなく不機嫌さがにじみ出ていた。が、彼もまた、援軍を信じていた。その者たちとは――


 ガサガサ、と神社の植込みが動く。植込みから何者かが現れ、まがまがしい気配とともに杏助に詰め寄る。そして杏助の右腕を斬り落とさんと刀を振った。

 その瞬間、杏助は見覚えのある人物の顔が脳裏に浮かんだ。

 青白い肌。この世の恨みすべてを凝縮したような瑠璃色の鋭い目。生霊を有しているような威圧感。一言で表せば、恐怖の権現。――以前この神社で杏助を連れ去ろうとした男だ。


「俺に近づくな」


 恐怖から杏助はその言葉を口にした。杏助の全身は恐怖と寒さで震えていた。戦わずともわかる圧倒的な強者を目の前にして。

 だが、杏助は恐怖を押し殺し、イデアを限界まで展開した。彼のイデアは解呪のイデア。彼自身も経験したことのない範囲にそれは展開された。輝くような緑色のイデアはとてつもない圧力を放ち、圧倒的な強者ともいえるその男さえも戦慄させた。


挿絵(By みてみん)


「ほう、抵抗するのか。さすが杏哉の弟だ。なあ?」


 その男――蘇我清映はまがまがしい刀を手にしたまま言った。

 今度は杏哉に視線を向ける清映。その顔は憎悪に侵され、鬼のようだった。


「貴様は我々を裏切った。呪いを解く方法もメリットも知りながらの裏切りだ。何か裏でもあるのだろう」


 清映がそう続けると、杏哉は笑みを浮かべた。本当にすべてを知っているのは自分であると言わんばかりに。


「あるよ。さすが清映さん。先代以上に勘が鋭くて恐ろしいくらいだ」


 杏哉が答えた瞬間、清映は彼に斬りかかった。

 イデアを展開していながらも、杏哉の頬の皮膚が裂けた。傷から血が流れ出るのを感じ取り、杏哉は息を吐く。


「ああ……最高だよ、清映。あなたは俺を傷つけられる数少ない人物だ。痛みで逆に滾るよ」


 吐息混じりのその声は清映の感情を逆なでするのに十分だった。

 清映は足を踏み込み、刀を振るう。


「生かしてはおかぬぞ、杏哉。貴様が条件を満たしておれば今すぐ生け贄にしてやるところだったがな」


「ふっ……それは残念だね。身代わりになれるなら俺も名乗り出ていたよ」


 ぶつかる2振りの刀。単純な力比べであれば杏哉が勝っていた。が、杏哉は突如清映の太刀を受け流した。

 直後、空間が斬られたかのように歪む。その様子を見た杏哉は顔をゆがませ、清映から距離を取る。


「これだ。清映はありとあらゆるものを切り裂く。それが空間であろうとも」


 杏哉は他2人に聞こえる程度の声で言った。

 彼の言葉は杏助と悠平にも警戒心を植え付けることとなった。彼の相手取る清映は絶対的な破壊者だ。それも、明確な敵意と殺意を向けた。

 杏助と悠平も清映の斬撃を警戒する。が、彼らの敵はもっと近くにいる。


「気を取られすぎないことだ。僕にはすべて見えている」


 その声。清映とは違ったまがまがしさ。呪法使いのキリオが杏助に迫る。

 繰り出されるキリオの手刀。呪法のことを忘れ、イデアを纏った右手で手刀を防ぐ杏助。呪法は杏助の手を蝕まんと広がるが、緑色の光によって消されてゆく。吸血鬼が日光を浴びて灰になるように。


「なに……」

「えっ?」


 キリオと杏助は同時に声を上げた。彼らの間で起きたことは彼らの予想の斜め上だった。が、それは杏助にとって思いがけないチャンスとなる。


(イデアを展開していれば呪法は効かない。もしかしたら、攻略できるかもしれない!)


 杏助の中に希望と自信が現れた。だが、杏助は今武器を持っていない。依然として戦う手段は杏助にはない。

 キリオは呪法を使うのをやめ、杏助の手首をつかんだ。

 次の瞬間、杏助の体が宙を舞った。何が起きたのかわからないまま、杏助は背中から砂利の上にたたきつけられた。

 ――直接の痛みこそないものの、杏助の体には相当の衝撃が走る。


「んぐっ……」


 杏助はだらしなく声をあげ、息を吸う。その視界に映るのは夜明けの空。やがて視界に人の顔が映り込む。


「呪法が効かないからといって油断しないことだよ」


 と言って、キリオは杏助の首元を押さえつけた。


「君の死因は仲間が来るのが遅れたことではないよ。君が弱かった。それだけだ。いくら強い能力があっても、君の力がなかったからね」


 キリオの言葉はどこまでも残酷だった。

 彼の放つ言葉で、杏助は死を意識する。この短い人生を振り返る。

 ――好奇心は猫をも殺すというが、杏助は好奇心で踏み込んだものが原因で殺される。杏助は好奇心で殺されるのだ。



Q.こんな主人公で大丈夫か。

A.大丈夫だ。成長する。

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