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町に怪奇が現れたら  作者: 墨崎游弥
霊皇神社編
45/89

43節 成長性

 午前5時39分。

 悠平はコンビニに入るとまず息を整えた。幾分か息苦しさや吐き気も収まったが、まだ本調子というわけではない。杏哉は今どうしているのか、太一がこちらに来ないか。それだけが悠平の心配することだった。

 悠平は生活用品が置かれている場所で、外の様子を見た。こちらへ向かってくる人は今のところいない。どうにかここに来ないでほしい。悠平はただそう願って息を整えた。

 覚悟を決めろ、と悠平の深層心理が語り掛けていた。


 廃墟近くのコンビニに1人の男が入ってきた。明らかに不審者と言えるような外見であったが、彼は入店するなりサングラスを外し「自分は怪しい者ではない」とアピールしているようだった。

 彼――太一はアイスクリームを物色するように見せかけて、備え付けの冷凍庫に触れた。常人には見ることのできないイデアが冷凍庫から電気を吸い上げる。瞬く間にコンビニ全体に電気が行き渡らなくなり、停電した。


 突如、店内の照明が消えた。それだけではない。空調も、備え付けの冷蔵庫も、BGMも一瞬にして停止した。外にある街灯の明かりで店内を見ることはできたものの、店内は暗くなり、店員はパニックに陥っていた。


「一体誰なんだ!?」


 悠平も焦りを隠せない。とはいえ、電線に何かあったのでは、と勝手に納得しようとする悠平だったが。

 そんな中、暗闇の中で何者かの足音が悠平に迫っていた。そいつは店内を歩き回り、誰かを探しているようだった。その探している人物は誰か。店員か、それとも客か。早朝のコンビニは人がほとんどいなかった。

 ――もしかして。悠平がそう感じたときには遅かった。

 そいつは一瞬で悠平に迫り、ナイフを振りぬいた。そいつ――太一のナイフは悠平を斬らなかったが、悠平は今起きたことを認識するに至る。


(狙われていたのは俺だ!俺を確実に仕留めるために、もう1人が!)


 悠平は急いでイデアを展開し、その人物の姿を確認した。鏡のイデアに映り込む1人の男。マスクとニット帽で怪しげな様子を見せるが、悠平は彼の目元に見覚えがある。

 逃げるか戦うしか道はない。だが、ここで戦えば店内は間違いなくめちゃめちゃになるだろう。

 出入口は閉じた自動ドアしかない。だが、出るしかない。


 悠平は意を決して先へ進み、足を踏ん張って自動ドアを開けた。幸い、暗闇の中で敵――太一は悠平の姿を見失ったようだった。




 スクエアKというコンビニの明かりが一瞬にして消えた。杏哉もこれに気づき、その足を速める。スクエアKには悠平がおり――


 自動ドアがゆっくりと開けられる。開けていたのは悠平だった。焦った面持ちで、店内から脱出するためにドアを開け、外に出る。が、それに続いて外に出たのは。


「後ろに誰かいる!はやくこっちに来るんだ!」


 杏哉は声を荒げた。悠平もそれをわかっていたようで、必死に杏哉の方へと走る。その後、少し遅れて太一が店を出ようとした。だが、彼はコートが引っかかっていたようで、抜け出すのに苦戦していた。

 すると、悠平は振り向いてイデアを展開した。展開範囲も密度も洒落にならないものであり、彼を追ってきた太一を戦慄させた。これが悠平の覚悟の現れ。これが悠平の成長。今までは損な男などと言われてきた悠平は、その面影を残しつつも追っ手に立ち向かおうとしていた。


「どうせ俺たちの邪魔をするんですよね。いいですよ。受けて立ちます」


 と、悠平は言った。

 彼が言い終わると同時に太一は店を出る。どうやらコートも脱ぎ捨てているらしい。太一はすぐさま悠平に詰め寄り、ナイフを振りかざす。


「悠平くん!!!」


 その声もむなしく血が2人の服を濡らす。どちらがやられたか。

 悠平の方は右目の下に一筋の傷が入り、そこから血が出ていた。対する太一は、悠平とはくらべものにならないほどの傷を負っていた。ナイフを持っていた手の腱が切れるような切り傷を負い、かなりの量の血を流していた。ナイフは地面に落ち、それを太一の血が赤く汚す。

 悠平も太一もこの場で何が起きたのか理解できていなかった。


 ――悠平のイデアが太一を的確に切り裂いた。致命傷になるような攻撃ではなく、手の腱を切って的確に太一を無力化するように。


「悠平くん!今何が!」


「わかりません。俺も今何があったのか全く……でも、こいつの攻撃を防げたらって……」


 悠平は少しずつあとずさりしながら答えた。

 イデアは人の精神力、願いで進化することがある。もしかしたら悠平もその能力を成長させたのではないか。


「まあいい。ここからは俺がやる。下手に怪我されるとここから先、きついだろう?」


 と、言い終わらないうちに杏哉は太一に詰め寄り、左手で彼の首根っこを掴んだ。


「実は俺、君のことを知っているんだよねえ。片江治って人の力を借りていろんなところで情報収集したんだけどね、いたるところに君が絡んでいるじゃないか」


 杏哉は言う。

 対する太一は息もできない状態で、話すことなどできなかった。


「まず鳥亡村から脱出した杏奈と杏助を引き取ったとき。そのあと、君は杏奈を捨てたみたいだ。それだけでも俺は頭に来ていたが、まさか先代たちと関係があったとはねえ。君、一回死んだほうがいいんじゃないか?」


 と、杏哉は言って、背負っていた刀を抜いた。

 杏哉は一度太一から手を離し、叫ぶ。


「悠平くんは絶対に見るな!ショッキングな光景であることに間違いはない!」


 ぽかんとした顔の悠平だったが、杏哉が刀を両手で持った時にすべてを理解した。神守杏哉という男はいとも簡単に人を殺す。

 悠平は目をつぶった。


 ――噴きあがる鮮血が杏哉の白いスーツを赤く染める。頭を失った太一はその場に倒れ、頭も地面に落ちた。


「よし、まず廃墟の方を向いて。絶対にスクエアKの方を見ちゃだめだ」


 言われたとおり、悠平は目を閉じたまま廃墟の方を向いた。


「よし、目を開けていい。これから遺体をなんとかして移動する。とりあえず君はバイクのところにいてくれ」


「はい。もし大変なら手伝いますよ。俺、バラバラ死体くらい見たことありますから。事件の第一発見者になったことが2回……いや、3回くらいあって」


 悠平は振り返ると言った。もちろん彼の視界に太一の遺体が入るが、彼は一切動じなかった。平穏を求めていた悠平だが、本当は肝が据わっており、遺体ぐらいで騒ぐような人ではない。それも過去3度の出来事が理由だ。もっとも、人が殺されるところに慣れることはできていないが。


「君、すごいね。これでも一応一般人だったんだろう?」


「はい。事件の発見者になりやすい以外は」


 悠平は答えた。


「ふうん……」


 と言うと、杏哉は黙って太一の腕をつかみ、引きずっていった。

 ――悠平はまだ成長する。なにより、ここまで精神力のある人物だ。彼がどう化けるか。

 杏哉は悠平が見ていないところで「ふっ」と笑った。



成長度合いだけなら悠平くんは確実に杏助に勝ってます。

それにしても事件の第一発見者になりやすい悠平くん、確実に損な子ですね。

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